今回のイベントは七夕イベント。
という事で、一角には七夕解説コーナーなるブースがある。
七夕の歴史とか経緯とか、そういうのを纏めてパネルで展示している所だ。
「ーーーというわけで、此処で登場するのが琴座のベガ。それから鷲座のアルタイルだ。」
「へえ・・・」
「熱心ね。」
「ふふっ。楽しそうで何よりだよ。」
柳が解説してくれるのを興味深く聞く桑原。
彼にとっては七夕は完全に異国の祭りなので、尚更知りたいのだろう。
隣の本職のガイドさんが柳の博識ぶりに仕事を奪われ、ちょっと泣きそうな目になっているのを千百合は無視した。面倒だし、ぶっちゃけ柳の話の方が分かり易いし。
「おっと・・・千百合、おいで。」
「は?」
ぎゅっと肩を抱き寄せられると、千百合が半歩横にずれた所を子供が走って通り抜けて行った。
そう、この七夕イベントは催しのターゲットが子供なので、今日は其処ら中に子供がちょろちょろしているのだ。うっかりしているとぶつかる。というか、ぶつかって来られる。
「大丈夫だったかい?」
「ああ・・・うん。」
「そう、良かった。」
そう言って微笑む幸村の顔がとても近い。
当たり前なんだけど、抱き寄せられているから。
「あの、ありがと。もう良いから。」
「うん?なんて言った?」
「聞こえてんだろ。」
「あはは!さて、どうかな?此処は騒がしいから、聞こえてないかもしれないよ?」
幸村の発言の白々しさと対照的に自分の顔は赤いんだろうなあと思う。
分かるもん、自分で。顔が熱いのが。
口じゃ敵わないからなんとか体を離そうと頑張るけど、多少の抵抗で離してくれる程幸村は甘くない。
まあまあ仲が良い事は良い事だから、なんで微笑みながら無視しようとする柳と桑原の足元に、いつのまにか知らないお子様が居た。
「ねーお兄ちゃん。」
「・・・柳の知り合いか?」
「いや。どうした?何か俺達に用事か?」
「そうじゃないよ、続き!」
「続き?」
「七夕の話の続きは!」
どうやら柳の解説をちゃっかり近くで聞いていたのに、中断したので続きを要求しているらしい。
流石お子様、遠慮がない。
「はははっ!そっか、そういう事か。」
「すまなかったな、途中で切ってしまって。では話を続けよう、此処にさっきのベガ。琴座。此処にアルタイルがいるわけだが、この2つの星の間に、天の川がある。2人が結婚の楽しさにかまけて、仕事を疎かにした事に怒った天帝が、このように川を隔てて別々にする事で2人への罰とした。というわけだ。」
「へえ・・・」
「それって怠けてたって事?」
「そうだ。」
「頑張らないでイチャついてたから?」
「そう。」
「それってあの兄ちゃん達と一緒?」
「おい。」
くそ遠慮なくこっちを指差してくるお子様に、千百合は思わず口調が荒くなる。
いや、これはしょうがないだろ。
誰がイチャついて怠けてるって、ええおいこら。
「あはははっ!」
「笑ってる場合か。」
「ああごめんね。つい、おかしくて。ねえ、坊や?」
「何?」
「坊やは、俺達が怠けてる様に見える?」
「見えるっていうか、そうなのかなーって。」
「ふふっ、そうか。でもね、坊や。それは違うよ。」
「そうなの?」
「うん。このお姉さんはとっても頑張り屋さんだからね。」
「いや、」
それは嘘だろ。
確かに織姫レベルの怠け者扱いには遺憾の意を表明したいけど、別に特別頑張ってるわけじゃないぞ。
「ちょっと。嘘は良くないって。」
「嘘じゃないさ、千百合は頑張ってるよ。それに何処かの誰かさんみたいに1つの事に打ち込み過ぎて、他の事が疎かになったりしないし。」
(五十嵐の事か?)
(96%の確率で五十嵐だな。)
「だから、彼女に向かって織姫みたく怠け者みたいに言うのは辞めて欲しい。」
「分かった。」
「まあ、俺は少々怠け者のきらいはあるかもしれないけれど。」
「「ねえよ!」」
千百合と桑原が綺麗にユニゾンした。
柳はもう苦笑しか出来ない。
「幸村、お前が怠け者とするならば世の中の人間の7割は怠け者になってしまうぞ。」
「そうかな?でも自分の事を怠け者じゃないみたく言うのは抵抗があるというか。」
「あのね、この兄ちゃんの言ってる事嘘だかんね。此奴ひっくり帰っても牽牛みたく怠けたりしないから。」
「そうなんだ?」
「そうなの。」
「へー。なら兄ちゃん達は別に別れなくて良いね。」
「そっちに持っていかなくて良い。」
「大丈夫だよ。俺は誰に何と言われようと絶対に彼女を離したりしないから。」
「・・・おお。」
思いがけずマジレスをされて少年はちょっとたじろぐ。
「あんたも真剣に答えなくて良い!」
「でも嘘を言うわけにも、」
「まあ、適当に答えるとそれはそれでトラブルの元だ。我慢だな。」
「ふざけんな。」
「なんか牽牛が根性なしに見えてきた。」
「その見方も止めような・・・」
まあ確かに天帝に引き裂かれたとか言ってるが、幸村ならば天帝如き難なくあしらいそうな気がしないでもない。そもそも怠けたりとかそういう隙を幸村は見せない。
幸村はいつも正しい。
「・・・兄ちゃんみたいな姉ちゃんだったら良かったのかも。」
「「「「え?」」」」
「や、なんでもない。俺もう行くよ。兄ちゃん達、七夕の話教えてくれてありがと!」
「ちょっと、」
何の話だと聞く前に少年は走り去った。
「何だったのかな、あの坊やは。」
「さあ・・・」
「まあ、良く分からないが何かに納得したようだったから良いんじゃないか。」
良いのか。
なんかちょっと腑に落ちないけど。
あの子供は、結局自分と幸村の事をどう思ってどう見えていたのか、知りたいような知るのが怖いような。
「千百合。」
「え?何?」
「いや、2人はあっちのブースに行くみたいだから俺達も行こうかと思って。此処はもう見ただろう?」
「ああ。うん。」
「ごめんね。」
「え?何が?」
「ああいうのは嫌だっただろうなと思って。」
「ああ、うん、ああ・・・」
そう言う幸村はちゃんと分かっている。
千百合はああいう時、サッと流してほしいタイプなんだという事。
あんな風に大真面目に受け答えされると恥ずかしくてしょうがないと思う事を。
それから。
「・・・でも、」
「でも、嘘は言ってない。俺は千百合を離さないよ。」
それから、恥ずかしがっているけれど嫌だと思ってるわけじゃないという事も。
「・・・・」
「行こうか。」
「ん・・・」