Wishes 2 - 6/8


生憎だがその紫希は笹に近づけないでいた。
もう5枚書き終わってる。でも吊るすのは1番最後が良かった。

(見られると困ります・・・・)

「おい。」
「!あ、丸井君・・・」

ああ良かった。
丸井なら見られても大丈夫。

「吊るしに行かねえの?」
「あ・・・ちょっとその、皆に見られたくなくて・・・これ・・・」
「?・・・ああ。」

5枚の内の1枚には、もっと上手く弾けるようになりますようにと書いてある。
これを紀伊梨に見られるわけにはいかない。というか、他の人にも突っ込まれると困る。

「つうかお前・・・」
「え?」
「これは真田に怒られるんじゃねえ?」
「え!?ど、どうしてですか!?」
「ははは!だってお前、言われた事全然守ってねえじゃん。」

後の4枚のお願いは、皆に良い事がありますように。それから立海テニス部の事と、フェスの事と、一条の事と。

「「お前の」お願いってこれだけ?」
「で、でもこれも私のお願いですし、それに・・・」
「それに?」
「正直、思いつかなくて。私、今の生活で足りない物とか欲しい物とか、別に無いですから。」

紫希は今幸せである。
少なくとも、自分でそう思っている。

「毎日皆が居て楽しいですし、悩みもそんなに・・・一条さんの事とこの事くらいしか、神様にお願いするほど深刻な事も。」
「・・・お前ってさ。」
「はい。」
「本当に皆の事好きだよな。」
「はい。大好きです。」

これは、いつどんな時誰に聞かれても即答出来る事。
紫希は皆の事が好きだし。

「私。」
「ん?」


「丸井君の事も大好きですよ。」


これもまた本当の事。
本当の事だけど、こうやってはっきり言えるのは紫希に他意の無い何よりの証拠でもある。

「ーーーーー」

それは丸井も一緒。
一緒なんだけど、こうやって不意を突かれるとなんだか返事がサッと出てこない。

「あ、棗君。」
「え、」
「良かった、手が空いたみたいで・・・私、お願いしてきます。」
「ああ、うん。」

短冊を見られて良いのは、丸井とそれから棗。棗もキーボードの件を知っているからだ。
現時点で棗は友人達全員を含めて考えても、そこそこ高身長の部類に入るので、棗に頼んで上の方に吊って貰おうと本人の手が空くのを待っていたのだ。

短冊を手に笹に駆け寄って行く紫希の背中を、丸井はぼーっと見送った。


『丸井君の事も大好きですよ。』


「・・・・」

今、俺もお前の事好きだよとサッと答えられなかったのはどうしてだろう。

恥ずかしかったから?
いや、違う。そんなんじゃない。
紫希の事は好きじゃない?
いや、好きだ。決して嫌いじゃない、嫌いならこんなに構ったりしない。

でも何か違う。
自分もだと今言ってしまったら、それは何か嘘になる気がして。

「・・・ま、良いか。」

良く分からないが、自分の直感が「駄目」と言ったのなら止めた方が良いのだろう。
基本自分を疑わない丸井は、こういう時自らの第六感にとても素直に従う癖があった。
それで困った事もない。だからこの時もそうした。

「ブン太?どうしたんだ?」
「ん?いや。なんでも?」

丸井は後後から思い返すに、ちょっとこの時言っておけば良かったかなと思う事が度々ある。言ってしまうと、それは確かにちょっと嘘の入った台詞になってしまっただろうけど。

でもこの時の紫希にいつもの調子で返事が出来る、最後のチャンスを逃してしまったから。