Wishes 2 - 8/8


まあまあの近さに全員で移動し、トークを聞き。
今神無月亜佐美はパンフに有った通り1曲歌っているわけだが。


♪青い 青いこの地球
水の星に生まれて
何故僕らは火種を 撒くのだろう

その火はやがて大火に
炎の雨に変わって
僕らの全てを焼き尽くしてゆく

どうか聞いて
星の嘆く叫び声を
今ならまだ届く・・・♪




「「「「「「・・・・・・」」」」」」

彼女の唄を聞きながら、あああ・・・・と思った者が何人いただろうか。

「・・・その、ご立派な方です、ね・・・?」
「確かに、言ってる事は高尚じゃが。」
「何か、アイドルっていうよりあれよね。」

「啓蒙がしたいんだろうね、彼女は。」

幸村が端的に纏めてくれた。

考えてもみてほしい、この会場。
多くが小学校低学年前後の小さい子、そしてその親。
そういう層を相手に彼女はトークショーで長々と環境問題、世界各地で起こっている経済格差、戦争に紛争。そう言った事についての意見を語り、そして「星屑の唄声」と名付けられた持ち歌はこの歌詞である。

「言ってる事は正しいのではないか?」
「正しいかもしれねえけど、空気読めよって話だろい。」
「相手が悪いと言いましょうか。小学生低学年に向かってこう言った話題を響かせるのは無理がありますよ。」
「むつかしくて言ってる事よくわかんないなー・・・・」
「お前みたいなのが大半だろうな、ちびっ子はw」
「あのアイドル、わざとやってるのか・・・?」
「ある程度はわざとかもしれないな。彼女は、小さい頃からこういう考えを持つのが大事と考えている確率はそれなりに高い。」

小学校低学年と言ったら、「社会」の代わりに「生活」が教科に加わっているような年である。自分の住む町の事を調べてみましょうとかそんな事をようやっと覚え始めたような年の子供に向かって、やれ地球がとか世界がとかそんな話についてこいと言ったって出来ない相談だ。

「じゃあ、トークの時もあまり楽しそうな風じゃなかったのは、気乗りされてなかったからじゃなくて・・・」
「思うようにギャラリーが乗ってきてくれないからだったんじゃねえ?」
「乗るわけないって気づかないもんかしら。」
「いや、気づいてるでしょw」
「うん、気づいているんだろうね。でも、自分ならきっと伝える事が出来ると彼女は思っているというか、自信があったんだよ。」
「それ、自信か・・・?」
「ある意味では思い上がりだな。」
「まあ、啓蒙と言うのは自分が正しいと思っていなければ土台出来ないものではありますから。」

「・・・・・・」

「・・・五十嵐?」
「・・・・・」
「おい、五十嵐?聞こえんのか五十嵐!」
「放っておいてやりんしゃい。今未知の生き物を目の前にして困惑中なんじゃろ。」

仁王の見解は当たっていた。
そう、正に未知の生き物。

テレビで、ネットで、母からの話で。
今までに色んなアイドルを見て来たけれど、神無月亜佐美は初めて見るタイプのアイドルだった。

アイドル。
アイドル?
彼女も又アイドルなのか。

啓蒙と言う言葉の意味は分からないけれど、彼女から強いメッセージ性は伝わってくる。
それを伝えたいと思っている気持ち。実際に歌やトークでそれを懸命に伝えている気持ち。

そしてそれが何処か空回っているこの空気。
それに対して不満な気持ちも。

そりゃあ不満だろう。
パフォーマーにとってオーディエンスが沸かないと言うのはある種の屈辱だ。
かといって無理して沸いたふりされてもそれは逆に侮辱だから感動した振りとかもしないけど。

でも、沸くって何?この場合。

前列に何人かの少年があさみん可愛いと言いながら熱心に見つめているけれど、多分彼らは彼女の主張と言うより彼女の容姿とか歌声とか、そういうのに惹かれているのだろう。

そして彼女はそういうオーディエンスは及びじゃないのだ、多分。
ああほら、迷惑そうな顔してるし。

(・・・めーわく?)

迷惑なのか、あの人達が。
自分の歌に、姿にテンション上げている人達が迷惑だって?


アイドルなのに?


「??????あれ・・・?アイドルってなんだっけ・・・?紫希ぴょん、アイドルってなーに?」
「紀伊梨ちゃん!?しっかりして下さい紀伊梨ちゃん、どうしたんですか!?」
「アイドルの概念が崩壊し始めたなw」
「ニュータイプ過ぎたんじゃないの。」
「まあ・・・ニュータイプと言うか、かなり珍しい系統のアイドルではあるだろうね。間違いなく。」

普通のアーティストが昨今の地球の問題を憂いて特別に1曲捧げました、とかは良くある話だが、彼女は多分ほぼ全部の曲・ほぼ全部のパフォーマンスがその調子だ。
半分、もしかしたらそれ以上に、彼女はアイドルと言うより環境活動家なのかも知れない。

「しかしアイドルというのか、テレビに出るような人間は皆多かれ少なかれイメージというものがあるのだろう?あれはそのイメージがこういうものである、というだけに過ぎんと思うが。」
「それも一理はあります。多くの人に伝えたい事が有る、だからアイドルないし芸能人になるというのは割と良くある話ですし。」
「ただ、その話の中身がな・・・」
「ま、この目的にこの手段の合わせ技って、しようと思ってもなかなか出来ねえだろい。」
「加えて、このターゲット層のズレぶりだな。」
「発表の場を間違っとる感は否めんの。」

今の世の中、色んなアイドルが居るよねというのは皆知っていた。
知っていたけど、本当に本当に色んなアイドルが居るもんなんだなあ・・・というのをこの日初めて実感した一同の頭上に、星が1つ流れた。

思想を持たない。
ただ明るく、いつも皆を見守る星が、キラリと1つ。