「良いかね君達。神頼みというものは、こと受験においては無駄なものだ。」
(あー・・・眠い・・・・)
祈る暇があるなら一秒でも勉強しろ。
予備校の教師がそう言うのを、切原は船を漕ぎながら聞いた。
教師というのもタイプが色々あるが、この教師は切り捨て型。
まあつまり、眠いなら勝手に居睡りしてろ。そして勝手に後で困ってろ、自業自得とみなすタイプ。
なので切原は、あっさり居眠りの段階を通り越し深い眠りに入っていった。
「ん。」
「・・・・・」
「ん?あれ?切原プリント回し、寝てる・・・」
「おーい、赤也ー。後で泣いても知らねーぞー。神様は助けてくれないぞー。」
神様が助けてくれないことくらい知ってる。
内心でそう呟いたけど、唇は重すぎて動かなかった。
神様お願いします・・・
お願いします、どうか・・・
「どうか・・・きゃあっ!」
「たあっ!てて・・・」
「ああ、切原君!ごめんなさい!すいません本当に、前を見てなくて・・・」
廊下でぶつかって、ごめんなさい、としょげる春日先輩は、大体いつも小さくなっているが今日は更に小さく見えた。
「良いっすけど・・・どうかしたんすか?何か落ち込んでないっすか、気のせいかもっすけど。」
「あ、ええと・・・その、実は今日テストが返ってくるんですけれど・・・」
「けど?」
この先輩の成績が抜群に良いのは知っている。
それなのに結果が心配とか、どんだけ難しいんだ上級生のテストって。
と一瞬身構えたが。
「数学の文章題で・・・m//nって書いたかどうか忘れてしまって・・・」
「へ?」
「多分書いてると思うんですけれど、記憶がちゃんとあるかって言われたらなくって・・・書いてなかったら減点です、どうしましょう・・・」
「・・・先輩。」
「はい?」
「それ書いてなかったとしたら、何点引かれるんすか?」
「1点です。」
1点ぐらいくれてやったら良いじゃん、としか思えない。
何せこの先輩は、いつも当たり前みたいな顔をして高得点を簡単そうに取っているので。
「どーせ先輩の事っすから、90はいくっしょ?」
「で、ですけどお母さんと約束が・・・」
「約束?」
「はい。今度のテストで、五教科の内3つ以上100点を取れたr「あのー・・・もうちょっと俺のレベルに合わせた話してくんないっすか?」
5教科の内3つ以上100点取れとか、何年かかったって自分は出来そうにない。
常に赤点かそうでないかの話をしている自分なのに、100点が99点になるかもとこんなしょぼくれた顔で心配されてもこっちも困る。
「んで?約束?ああ!あれっすかもしかして、ご褒美的な事すか?」
「はい。」
「へー!何頼むんっすか?春日先輩だったら、やっぱ本っすか!お高いやつ!」
「え、えと、高いのはそうなんですけど・・・」
「けど?」
「頼んでるのは、コートで・・・お小遣いだと、ちょっと手が出なくて・・・すごくすごく無理をすれば、何とか出来ますけど・・・」
「へー!ま、最近寒いっすもんねえ。でも、先輩も普通に服とか欲しいって思うんす、ね・・・」
と言葉を続けようとして、思わず切った。
ほんのり赤い顔が教えてくれている。ああ、デート用か。
「・・・・あ!」
「え?」
「今良いこと思いついたっすよ!」
「え?え?」
「もしその、今言ってたえーと・・・m?n?みたいなのがなくて99点だったら、半額出してくれみたいな感じで頼んだら良いんじゃないっすか?」
「・・・・え、えええ?」
「良いっしょそのくらい!99点だって十分頑張ったんすから、そのくらいはお願いしてもOKっすよ!」
「そ、そうでしょうか・・・」
「そうそう!んで、後の半分は先輩が出したら良いんすよ!先輩あれでしょ?どーせ、貯金とか結構してるタイプじゃないっすかあ?」
「そ、それは・・・多少はしてますけど、」
「へへん、ほらね!だからさあ、半分くらいは出せるでしょ?そのお金でーーー」
「カツアゲはいけませんね、切原君。」
柳生先輩の声が後ろから聞こえてきた。
良かった副部長じゃなくて。
っていうか。
「何すかカツアゲってえ!そんなことしてないでしょーが、適当な事言わないで下さいよ!」
「そうですか?ですが今確かに、貯金だの半分くらい出せるだの聞こえましたが?」
「そっ・・・れは言いましたけど!でも俺にくれとか、そういう話してるんじゃないんですってば!」
「本当にそうですか?」
「本当です!春日先輩!先輩も何とか言って・・・先輩?」
「ふふふっ、ふふふ・・・あ、ごめんなさい・・・ふふっ!」
「え?え?」
「ふっ・・・ははははは!冗談ですよ切原君、冗談です。」
「・・・・もーーー!何なんすか、もー!」
「すみません、まさか本気にするとは思わず。」
「切原君はカツアゲなんてしませんよ。皆知ってますから、大丈夫ですよ。」
本当だろうか。
というか春日先輩はともかく、柳生先輩は冗談が分かりにくいのだ。もうちょっと分かりやすくて笑えるジョークにしといてくれれば良いのに。
「柳生先輩って、それこそ神様にとか絶対祈らなさそうっすよねえ。」
「神様?」
「あ・・・元は、そういう話をしていたんです。」
「神様ですか・・・」
「え、祈ったりします?」
「いえ。特に私たちの神様は、別に祈らずとも勝利を約束してくれますからね。」
ああ、そうだっけ。
という気持ちと、え?何の話してる?という気持ち。
夢の感覚と現実の感覚が混じりだしたら、それはもう覚醒の直前。
「よって!」
バン!と講師が黒板を叩いた音で、切原ははっと目を覚ました。
「この時の主人公の気持ちとしては、実は時系列として今ではなく過去の事をーーーー」
(あービビったー・・・!)
心臓に悪い。
もうちょっとゆったり起きたい、なんて思ってちょっと目を擦る切原だが、そもそも塾で居眠りしてんなという意識も一応ちょっとは持っている。
ちょっとね。眠いもんは眠いんだけど。
「・・・では、今から小テストを行う。」
「へ?」
「60点を下回ったものは居残るように。」
神様助けて、なんて内心で叫んでも助けなんて来なかった。