切原誕2021 - 4/4


「・・・・・・」
「辛気臭い顔してないで、さっさと食べなさいよ。」
「うっせえな!良いだろ見てるくらい!」

見てたって何も変わりゃしないわよ、という姉にイラつきながら窓の外を見ると、夜でもわかるようなどんよりした曇りで嫌になる。

ああ明日は久しぶりにテニスが出来ると思っていたのに、まさかの雨予報。
ここら辺で屋根のあるテニスコートのある所と言われると結構遠くまで行かなくてはならない。運動公園は雨だと危ないからコート入るなと言われるし、ストリートテニスコートは人が引けてしまう。
でもあんまり遠く行きたくない。バス代痛いし、そもそも同じような事考えてる奴が大勢居るから入れるかどうか。

「・・・はーあ、ごちそうさま!風呂まで寝る!」
「あっ、ちょ・・・もー、騒がしいんだから!」

とは言いつつ、姉の翠もほんのちょっとは可哀想かなと思う。
最近ずっと受験勉強してて、思うようにテニス出来てないのを知っているからだ。

とはいっても、天気だけは誰にもどうにも出来ない。
切原自身もそれはわかっているからこそ、自分の努力で事が動かない苛立ちを抱えているのである。

「あー、くそ!」

何か手に持っていたらベッドに叩きつけたかもしれない。
それぐらい切原はイラついていた。

明日は久しぶりにのびのびテニス出来る日だったのに。
明日を楽しみにして頑張っていた部分もあるのに、その挙句が悪天候ってそんな。

「・・・・はあっ!」

もういい。
もう寝よう。

知らない、もう後の事なんか。

捨て鉢な気分で切原は目を閉じた。










神様。
神様、お願い。
お願いお願いお願い!

「お願いします~~~!!」

なんて廊下で窓の外を拝んでいるのは。

「・・・紀伊梨先輩?」
「おにょ?おお!赤也君!」
「何してるんすか?」
「お祈りしてるの!晴れますようにーって!」

と言って先輩が指さす先の空は、雲一つない青空。

「え、晴れてんじゃないっすか?」
「きょーじゃなくて明日ー!明日晴れますよーにって!」
「え、明日雨なんすか!?」

マジか、今こんなに晴れてんのに。明日練習試合なのに。
いやいつも通り勝つけど、それはそれとして実戦練習は大事なんだぞ。

「げー・・・先輩は?」
「ほよ?」
「先輩は、明日何の用事なんっすか?何か、晴れて欲しい理由があるんでしょ?」

ライブではないと思う。ライブならいつも呼んでくれるから。
だから、他の先輩と遊びに行く予定がとか何か、そんな感じかなと話を振ったら、先輩はう、と小さく言って下を向いた。

「先輩?」
「うぬぐ・・・・」
「先輩?どうしたんすか?」
「・・・・・」
「え、先輩?ちょっと、どうしてそっち向くんすか?ねえ!」

基本この先輩はいつも返事が軽快ではっきりしている。
こんなごにょごにょ濁したりとか黙ったりとか、そういう事は滅多にしないのに。

「ねえってば!何すか、俺何か変な事聞いたんすか?」
「う、うにゅ、ううん!べ、べちゅに変な事は・・・」
「じゃあ何でそんな言いにくそうなんすか?ねえちょっ・・・取り合えずこっち向いて下さいよ!あっち向かれてると、何か怒ってたり泣いてたりすんのかと思って怖いんすよ!」
「い、いやーそれもちょっと・・・」
「だから何でなんすかそれはーーーあっ、ちょっと!どこ行くんっすか話終わってないっすよ!」

さっと身を翻した先輩の手を掴む。
この先輩は運動部でもないのに、運動部顔負けにスポーツが出来て走るのも早いのだ。
初動で逃がしたら追いつくのは困難。逃げる前に捕まえなくちゃいけない。

というか、この先輩は何故かこうして唐突にちょくちょく逃げるのだ。
最初は嫌われてるのかと思ったし、正直嫌われる理由に心当たりがありすぎてしょうがないかという気持ちもないじゃなかったけど、どうやらそういうわけじゃないらしいと最近わかってきた。

嫌われてないと分かれば怖くない。
元より左程物事に物おじしない性格なのも相まって、遠慮なくぐいぐい行く。切原赤也という少年はそういう性格だった。

「はーなーしーてええええ!」
「何でですかあ!っつうか、明日どうして晴れて欲しいのかって聞いただけでしょ!?って、あ!」
「またねー!」
「ちょっと!ちょっ、う・・・・あああもー!」

ほんのちょっとの隙に手を振りほどかれ、逃げられた。みるみる遠ざかっていく先輩の背中に歯噛みしていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。

「誰・・・柳先輩!」
「何を叫んでいるんだ。」
「いやその・・・さっき紀伊梨先輩に逃げられちまって。」
「ああ、走っていたのは逃げていたのか。」
「・・・柳先輩。」
「何だ?」
「もう何回か聞きましたし、いっつも同じ返事されるっすけど、「俺は先輩に嫌われてるわけじゃありませんよね・・・とお前は言うが、俺も何度も同じ返答をするようだがそれはあり得ない。安心して良い。」

参謀にそう言われるとやっぱりちょっと安心するが、反面じゃあなんでよ的な思考からは逃れられない。

「でもさっきも逃げられたんっすよ!わけのわからないタイミングで!明日何の用事があるのか聞きたかっただけだってのに・・・」
「明日?」
「明日晴れないかなーって独り言言ってたんっすよ。だから、明日何か用事あるんっすかって聞いたら、」
「明日は練習試合だろう。」
「いやだから、それは俺達の用事っしょ?」
「いいや、俺はちゃんとお前の聞きたい事の返事をしている。」
「は?」
「明日は、練習試合だ。」
「・・・・へ?」

柳は苦笑した。

「もう少し正確に言ってやろう。」
「はあ。」
「お前が出る、練習試合だ。明日晴れればな。」

切原は目線を斜め下に下げた。

なんだろう。
今何かがその言葉で掴めたような気がするけど、なるほど!とピンと来るところまではきてない。

「・・・・あ!あれっすね、俺が試合楽しみにしてるからちゃんと出来ると良いね的な事っすか!」
「・・・・いや・・・」
「あ、でも。それなら別に言ってくれたら良いっすよね、普通に。え、じゃあ違うんっすか?え?ん?」
「・・・・・」
「柳先輩、知ってんなら教えて下さいよお!」
「流石にこれ以上は、俺からは言えない。」
「はああ!?っつうか、流石にとかこれ以上とか何の話してるんっすか?明日の練習試合の事っすよね?」

わけわかんない。
先輩というのは時折わけがわからなくなる存在だと切原はこういう事がある度に思う。

えー?んー?と頭を捻っていると、なんだか視界が白んできた。

眩しい。







「ん・・・・?」

目を開けると、自分の部屋の暗い天井だった。
そうだった、適当に寝たから電気つけてなかった。

じゃあどうして眩しいとか思ったんだろうか。

「・・・・あー!」

切原はベッドから飛び降りた。

窓だ。
月明かりが差してる。

晴れた。

「・・・・っっしゃああ!」

やった。
明日も良い日になりそうだ。