「あっつ・・・・!」
暑い。
堪らない暑さとはまさにこのこと。
真夏の炎天下の中。
土曜日。
千百合は練習試合を見るべく、休日なのに制服を着て学校へ来ていた。
途中、何度も何度も自問自答した。
どうしてこんなことしてるんだろう。
クーラー効いた部屋に戻って、冷たいお茶を飲みたい。
でも、引き返そうかなと思うたびに結局止めてしまうのだ。
『・・・俺の試合を見に来て欲しい。』
別に千百合が見なくたって、いつもたくさんギャラリー居るのだ。
だから寂しくもなんともないはずだ。
それなのに、なぜわざわざあんな顔で、自分を名指しで来いと言うのかわからない。
でも一応、千百合の中ではもう友達と言って良いかなと思える存在だから。
「ついた・・・・」
やっと着いたが、どうもギャラリーが多くてよく見えない。
というか、今何やってるのかもよくわからない。
一応目安時間より早めには来たが。
「・・・・あの。」
「え?何ですか?」
「今、試合何やってるとこですか。」
「今?今はS2の途中。」
「どうも。」
その辺の人に試合状況を聞く。
見てもあ、今この段階だなとかわからないから。
幸村はS1。Sは3、2、1の順で進むと聞いたから、次。
(次って言っても、どのくらいになるのかいまひとつわかんないんだよね。テニスの試合時間とか知らないし。)
逆に、そのくらいは調べるべきだったかなあと思いつつ。
まあ別に良いか面倒だしと思いつつ、周りをうろうろして見られそうな所を探す。
ようやく隙間を見つけてフェンスまで辿り着いて、やっと息を吐いた。
「ゲーム立海!4-0!」
「切原くーん!」
「頑張れー!」
誰だか知らないワカメヘアの少年への声援を聞きつつ、千百合はぼんやり試合を見る。
流石に立海ジャージの色くらいは分かるので、ワカメの少年が味方で、試合してる紺&黒ジャージが敵校のどこかみたいなこともわかる。
もしかしてこっちは敵側なのかなとか思ったら、目の前でコートチェンジしてくれて、千百合は内心で安堵した。
「・・・・・・」
割とちゃんと見る気になっている自分に、千百合は自分でややびっくりした。
言っちゃなんだけど、こういうの好きな方じゃないのだ。
今だって、暑いとか帰りたいとかいう気持ちが0なわけじゃない。
でも、見たいという気持ちがある。
とりあえず、1回だけでも良い。1回見て気が済むかもしれないが、とにかく見てみたいという気持ち。
これは義務感じゃない。
そして友情でもない。
興味だ。
(テニス・・・)
あの線の細い美少年が。
見ようによっては病弱とも取れそうな幸村が、有数のきつさと言われる部活でスポーツをやってる姿に、想像がつかない。
どんな風なんだろう。
見てみたい。
その一心でここへ来た。
「ゲームセットアンドマッチ!ウォンバイ切原、6-0!」
勝った。
結局、よくルールもわからないまま終わってしまった。
(でもとりあえず、次出てくることは分かってるから・・・・)
「幸村君よ!」
わっと沸いた声援が千百合を取り囲んだが、千百合の耳には入らなかった。
初めて見た。
ジャージ姿の幸村。
「・・・・・!」
背が高いのは知っていた。
でも、あんなに体格が良いのは知らなかった。
制服と全然違う。
ヘアバンドを付けてジャージを着て、走るためのスニーカーを履いている幸村。
短パンから覗く筋肉のついた足には、もう包帯はない。
(・・・本当に大丈夫なんでしょうね。)
やせ我慢してないだろうな。
ちょっと疑念を抱きつつ幸村の方を見ていると、ふいに目が合った。
気のせいか。と思ったが、幸村は微笑んで片手を上げてくれた。
その直後にはきゃーっ!とそこら辺から歓声が上がって、苦笑になってしまったけど。
でも、調子は悪くなさそうだ。
「両校、礼!」
礼をして、試合開始のコールがかけられる。
幸村は最初はあっち側のコートらしいので、正面から姿がよく見えた。
サーブは敵側から。
トスを上げ。
打ち。
「・・・・ふっ!」
(速い!)
テニスボールってあんなに速く飛んでいくのか。
マジか。
驚きに目を丸くしている間に、幸村はもうリターンの姿勢に入る。
テニスを知らない千百合は、リターンという言い方すら知らないけど、幸村が返そうとしているのはわかった。
「はっ!」
今度はもっと速い。
そう思ったときには、もう幸村のショットが相手側に入っていた。
「15-0!」
「・・・・・・・」
本当にやってるんだ。
テニス、やってるんだ。本当に。
あの幸村が。
筆を持ってる所しか見たことない幸村が、今はラケットを持って、走って跳んで、ショットを打っている。
あんな姿は初めて見る。
(・・・逆か。)
こっちが、本来の幸村なのか。
そう思ったとき、あっという間に幸村が1ゲーム先取して、サーブが変わる。
トスを上げる。
それを目で追うと。
「・・・・・わあ。」
抜けるような青空。
太陽。
眩しくて。
眩しくて。
千百合は初めて、幸村が絵に描くほど焦がれてやまなかったものがわかった。