5周年記念企画:あの空へ - 6/7



「あっつ・・・・!」

暑い。
堪らない暑さとはまさにこのこと。

真夏の炎天下の中。
土曜日。
千百合は練習試合を見るべく、休日なのに制服を着て学校へ来ていた。

途中、何度も何度も自問自答した。

どうしてこんなことしてるんだろう。
クーラー効いた部屋に戻って、冷たいお茶を飲みたい。

でも、引き返そうかなと思うたびに結局止めてしまうのだ。


『・・・俺の試合を見に来て欲しい。』


別に千百合が見なくたって、いつもたくさんギャラリー居るのだ。
だから寂しくもなんともないはずだ。

それなのに、なぜわざわざあんな顔で、自分を名指しで来いと言うのかわからない。
でも一応、千百合の中ではもう友達と言って良いかなと思える存在だから。

「ついた・・・・」

やっと着いたが、どうもギャラリーが多くてよく見えない。
というか、今何やってるのかもよくわからない。

一応目安時間より早めには来たが。

「・・・・あの。」
「え?何ですか?」
「今、試合何やってるとこですか。」
「今?今はS2の途中。」
「どうも。」

その辺の人に試合状況を聞く。
見てもあ、今この段階だなとかわからないから。

幸村はS1。Sは3、2、1の順で進むと聞いたから、次。

(次って言っても、どのくらいになるのかいまひとつわかんないんだよね。テニスの試合時間とか知らないし。)

逆に、そのくらいは調べるべきだったかなあと思いつつ。
まあ別に良いか面倒だしと思いつつ、周りをうろうろして見られそうな所を探す。

ようやく隙間を見つけてフェンスまで辿り着いて、やっと息を吐いた。

「ゲーム立海!4-0!」

「切原くーん!」
「頑張れー!」

誰だか知らないワカメヘアの少年への声援を聞きつつ、千百合はぼんやり試合を見る。
流石に立海ジャージの色くらいは分かるので、ワカメの少年が味方で、試合してる紺&黒ジャージが敵校のどこかみたいなこともわかる。

もしかしてこっちは敵側なのかなとか思ったら、目の前でコートチェンジしてくれて、千百合は内心で安堵した。

「・・・・・・」

割とちゃんと見る気になっている自分に、千百合は自分でややびっくりした。
言っちゃなんだけど、こういうの好きな方じゃないのだ。
今だって、暑いとか帰りたいとかいう気持ちが0なわけじゃない。

でも、見たいという気持ちがある。
とりあえず、1回だけでも良い。1回見て気が済むかもしれないが、とにかく見てみたいという気持ち。

これは義務感じゃない。
そして友情でもない。

興味だ。

(テニス・・・)

あの線の細い美少年が。
見ようによっては病弱とも取れそうな幸村が、有数のきつさと言われる部活でスポーツをやってる姿に、想像がつかない。

どんな風なんだろう。
見てみたい。

その一心でここへ来た。


「ゲームセットアンドマッチ!ウォンバイ切原、6-0!」


勝った。
結局、よくルールもわからないまま終わってしまった。

(でもとりあえず、次出てくることは分かってるから・・・・)


「幸村君よ!」


わっと沸いた声援が千百合を取り囲んだが、千百合の耳には入らなかった。

初めて見た。
ジャージ姿の幸村。

「・・・・・!」

背が高いのは知っていた。
でも、あんなに体格が良いのは知らなかった。

制服と全然違う。
ヘアバンドを付けてジャージを着て、走るためのスニーカーを履いている幸村。

短パンから覗く筋肉のついた足には、もう包帯はない。

(・・・本当に大丈夫なんでしょうね。)

やせ我慢してないだろうな。

ちょっと疑念を抱きつつ幸村の方を見ていると、ふいに目が合った。
気のせいか。と思ったが、幸村は微笑んで片手を上げてくれた。

その直後にはきゃーっ!とそこら辺から歓声が上がって、苦笑になってしまったけど。

でも、調子は悪くなさそうだ。

「両校、礼!」

礼をして、試合開始のコールがかけられる。
幸村は最初はあっち側のコートらしいので、正面から姿がよく見えた。

サーブは敵側から。
トスを上げ。
打ち。

「・・・・ふっ!」

(速い!)

テニスボールってあんなに速く飛んでいくのか。
マジか。

驚きに目を丸くしている間に、幸村はもうリターンの姿勢に入る。

テニスを知らない千百合は、リターンという言い方すら知らないけど、幸村が返そうとしているのはわかった。

「はっ!」

今度はもっと速い。
そう思ったときには、もう幸村のショットが相手側に入っていた。


「15-0!」


「・・・・・・・」

本当にやってるんだ。
テニス、やってるんだ。本当に。
あの幸村が。
筆を持ってる所しか見たことない幸村が、今はラケットを持って、走って跳んで、ショットを打っている。

あんな姿は初めて見る。

(・・・逆か。)

こっちが、本来の幸村なのか。

そう思ったとき、あっという間に幸村が1ゲーム先取して、サーブが変わる。

トスを上げる。
それを目で追うと。

「・・・・・わあ。」

抜けるような青空。
太陽。

眩しくて。
眩しくて。

千百合は初めて、幸村が絵に描くほど焦がれてやまなかったものがわかった。