5周年記念企画:また会いましょう - 6/6


千百合にしては極めて珍しいことだが、受験から合格発表を経て入学式になるまで、2ヶ月ほどの間があったのに、幸村のことを忘れることはなかった。

普段だったら、会っても居ない人間のことなんかすぐ忘れてしまうのに。

たった一回、数時間会っただけだったのに。

「桜きれー!すごーい!」
「お天気で良かったですね。」
「わかるw雨の入学式とかすげえだるいw」

友人たちが会話しているのを聞きながら、まだ全然こなれてなくて固い制服に身を包んで、千百合は学校までを歩く。

今日から立海生。
今日から1年生だ。

(・・・合格してんのかな。)

千百合は、幸村の受験番号を見ていなかった。
だから、合格したのかどうかさえ知らない。

それこそ、不合格だったら待つもへったくれもなく、絶対に校内で会うことなんてないのだ。

でも何故か、千百合は不思議と凪いだ気持ちだった。

「クラス一緒だと良いねー!」
「あほか。」
「あほ!?」
「全部で何クラスあると思っとるw」
「あはは・・・すごい数ですよね。友達ができれば良いんですけど・・・」

クラス分けのボードは、すごい人だかりだった。
何か所かに分かれているけど、それでも多い。千百合は見ただけで嫌になった。

「お前見て来いよ。」
「なんで俺だよw」
「えー、千百合っちも一緒に行こうよー!」
「絶対いや。あんな人だかりに突っ込んでいくとかマジで嫌。」
「あ、じゃあ私見てきます。」
「良いよw俺が行きゃあ良いんでしょw」
「分かってるじゃん。」

そもそも千百合は、クラスがどこかなんてさほど興味もないのだ。
自分で見に行きたいとかそういうの無い。

だから遠慮なく兄に任せて、千百合は桜の下で日をよけて待つことにした。

あたたかい。
珍しく、タイミング的にばっちり桜が咲いている。

(つい数か月前まで雪降ってたとか、嘘みたい。)

上を見上げると、桜が降ってくる。
雪に似ている。

あの時の雪ほど、冷たくはないけどー--

「黒崎さん。」

千百合は目を見開いて、上を向いていた視線を前へ戻した。

緑の制服。
自分と同じ、指定の鞄。

あの時持ってなかったラケットバッグを持って、あの時と同じ微笑みで千百合を見る幸村が、そこに立っていた。

「ごめんね、待たせたかな。」
「・・・・・ううん。」
「そう。それなら良かった。」

そう言って笑う幸村の顔は、すごく嬉しそうだった。

何がそんなに嬉しいのか、千百合にはよくわからない。わからないけど、幸村が嬉しそうなのは良いと思ったから、千百合も微笑んだ。

「・・・・うん。」

千百合が小さく笑うと、幸村は綺麗な笑みをもっともっと深くした。

「幸村、その・・・」
「ああ、真田。黒崎さん、覚えてるかな。受験の時も俺と一緒だったんだ。真田って言うんだよ。」
「ああ。でかい声の。」
「あはは!」
「む・・・ごほん。真田弦一郎だ。」
「ふうん。」
「真田、彼女が黒崎さん。黒崎千百合さん。綺麗な名前だろ?」

千百合さん、だって。
同級生の男子に、名前にさんを付けて呼ばれる日が来ようとは千百合も思っていなかった。

でも別に嫌じゃない。
むしろなんだか良い気分になって、真田の「風流だな。」というコメントが半分耳に入ってこなかった。

「千百合っちー!ただいま・・・あれ?誰?」
「ふふ。はじめまして、幸村精市です。受験の時ぶりだね。」
「・・・あー!電話で聞こえてきた千百合っちのお友達だー!」
(マジかよこんな美形捕まえてたのか妹ながら)
「春日紫希です、はじめまして。」
「紀伊梨ちゃんは五十嵐紀伊梨ちゃんです!はじめましてー!」
「真田弦一郎だ。よろしく頼む。」
「黒崎棗ですw妹がお世話になってw」
「あはは。とんでもないよ、お世話になったのは俺の方だから。ね?」
「どこが?」

千百合は幸村を世話した記憶など一度もない。

「それで千百合ちゃん、クラスの方なんですけれど、千百合ちゃんはB組でしたよ。」
「ああ。そうなんだ、ありがと。紫希と紀伊梨は。」
「紀伊梨ちゃんE組!です!紫希ぴょんA組だよねー、別れちゃったよー!」
「ちょっと、俺はw」
「お前どうでも良い。」
「ひでえwねえ、誰かF組居ないのw」
「俺はE組だ。」
「あ、じゃあ紀伊梨ちゃんと一緒だー!よろよろー!」
「ああ、よろしく頼む。」
「幸村君は、何組なんですか?」
「俺もB組だよ。」

千百合は目を丸くした。

「・・・そうなの。」
「うん。ああ・・・・・うん、よろしく。」
「何その言いにくそうなコメント。」
「あはは。ううん、1年間よろしくね、って言いかけたんだ。」
「そのまま言えば良いじゃん。」

「でも、1年だけじゃなくてずっと仲良くしたいから。」

そう言って桜の舞う中に居る幸村は、それは綺麗だった。

千百合が小さく頷くと、幸村は楽し気に笑ってくれた。

春の、話。