そして土曜日はあっという間にやってきた。
「あ!可憐の姉御、ちわっす・・・あれ?どこ行くんすか?それに何すか、その恰好・・・」
「あ、安音ちゃんっ!ち、違うのこれは、忍足君とこれから出かける予定でっ。私服持ってないから、皆が助けてくれて・・・・」
「へー!いい感じじゃないっすか、良いっすよ良いっすよ!俺服とかよくわかんねえけど!」
「そ、そうっ?かなっ?」
待ち合わせ場所を店が入るビルヂング1階の、安音の居る新聞社にしたのは、正解だったのか不正解だったのか。
良いよ良いよーと褒めてもらったことで、可憐はちょっと自信がみなぎってきた。
「忍足とねえー・・・忍足だけっすか?跡部とかは?」
「あ、跡部・・・安音ちゃん、せめてさんを付けない?」
「え、なんで。嫌っすよ。華族は皆!贅沢しててむかつく!く~!羨ましい~!毎日牛肉食ってんだろうな~!」
「そういうものかなあ・・・」
どうも安音は、自分より立場が良い者に対し敵意むき出しな所がある。
彼女も貧乏故と言うより、大きな力に反抗する事そのものが楽しい、みたいな感じが透けて見えるが。
「・・・しかし。」
「えっ?」
「ってえことは、あれですね。逢引ですね?」
「・・・・・ええええっ!?」
一気に顔が赤くなる可憐だが、だからと言って追撃を緩めてくれるような安音ではない。
「だあって、2人なんでしょ?そうなんすよね?」
「そうだけどっ!そうだけど、そういうつもりじゃないっていうか、」
「え、でも可憐の姉御ってあいつのこと好きでしょ?」
「ええええ!?」
「え、違うの?俺そうだと思ったから、あいつの悪口はなるべく言わないようにしてるんすよ!あいつも華族だからなー・・・いつ見ても金持ちの気配出しやがって、くっそ!」
足を踏み鳴らす安音だが、可憐はそれどころじゃない。
(お・・・忍足君を好きっ!?私が!?た、確かにかっこいいし優しいけど、そういうわけじゃ・・・・な、なんで私こんな言い訳じみたこと考えてるのっ!)
ぶんぶん顔を横に振る可憐の、そのまた向こうに安音は見知った姿を見つけて、手を振った。
「おう、忍足!噂をすれば影だな!」
どき!として思わず飛び上がる可憐。
どうしよう。どういう顔で振り向いたら良いんだ。
「安音ちゃん、今日も元気やな。」
「ビンボー人は元気だけが取柄なんですーう!べー!」
「言うほどの貧乏とちゃうやん・・・可憐ちゃん?」
「は、はいっ!」
「ごめんな、待たしてー--その恰好、」
「こ、これっ!どうかな・・・・?」
自慢じゃないけど、可憐は男の子と出かけたことなんてない。
こじゃれた服とか持ってないし、お金もあんまり持ってない。
そもそも家がそんなに裕福じゃないのだ。貧乏でもないけど、華族が着るような服がおいそれと買えるようなお金はない。
自分の中で一番可愛い服は・・・一番可愛い服は・・・と考えて考えて考え抜いた。
結果。
「エプロン取ってあるん?」
「そ、そうっ。それでその、織紐をたくさん付けてもらって・・・」
可憐が持ってる中で一番上等で可愛い服は、卡薩布蘭卡亭の制服であった。
それを皆に話したら皆手伝ってくれて、縫い付けてあった前掛けを取り、織紐(リボン)を要所要所にあしらってくれたのだ。
「ええな。」
「ええ?」
「可愛いやん。」
「か・・・・」
「おい、えぷろんって何だよ?」
「前掛け。」
「それなら前掛けって言えよ!ったくよー、いちいち華族面しやがって!」
「そういうつもりやあらへんけど。」
「へん!ほらもー、とっとと行け!こっちは忙しいんだよ!」
「そっちで絡んできたんやんか。」
言いながら、可憐の肩を抱くように歩き出す忍足に、可憐は思わず変な声が出てしまう。
「あ、う・・・・」
「ああ、あかんかった?堪忍な。」
「え、あ、いや、大丈夫・・・だだだ、大丈夫って言うかそのっ!き、気にしてないから、っていう意味でっ、」
「おおきに。あかんなあ、外人さんと絡んでると、ついこういうのんに鈍なってまうわ。」
「外人さん?」
「親父のお客さんにも多いし、まあまあ会う機会あんねん。学校にも何人か居るし、ひとりは友達やし。」
「へえ・・・」
「可憐ちゃんは会うたことないん?店とかに来おへん?」
「一回だけ、日本人のおじさんと連れ立ってきた人が居たなあ・・・あははっ。多分、店の名前が読めなくって、何屋さんかわかんないんだよねっ。」
「確かにそやなあ。外人さんにあれをカサブランカて読めていうのんは・・・・読めても花屋やと思われそうやな。」
「あははっ!」
(はあ良かった、普通に戻れた・・・)
今日一日ずっと意識し続けることになるかと思った。
今日だけじゃなく、安音はちょくちょく心臓に悪いことを平気で言う。
『え、でも可憐の姉御ってあいつのこと好きでしょ?』
(・・・・いやでも、ないない・・・)
だって。
生きてる世界が違うもの。