学校を後にしても、可憐の心は晴れきらなかった。
一方的な嫉妬なのはわかってる。
紫希は悪くないし、そもそも紫希だけじゃなくて忍足の友達は無数に居るんだし。
学校だってちゃんと見たし、それは興味深かったし。
今ももう大部分のもやもやは消えてきたのだが、0にはできないまま2人は町を歩いていた。
「あ。」
「えっ?」
「堪忍やねんけど、用事思い出したさかい、ちょっとついてきてくれへん?」
「あ、うんっ!良いよ、全然大丈夫っ!」
(びっくりした、解散って言われちゃうのかと思った・・・)
用事思い出したから、という言葉の後として、解散は普通に出てくる言葉と思う。
日もまだ高いし、もう少し2人で居たい。
・・・2人で居たい?
(・・・・!ち、違う、これはそういうのじゃなくてっ!も~、出がけに安音ちゃんがあんなこと言うからっ!)
「可憐ちゃん着いたで・・・可憐ちゃん?」
「あ、はいっ!ごめんね、何で、も・・・?」
ここは。
憲兵の詰め所であった。
「え?え?」
「ちょっと、知り合いに用事あるさかい。」
忍足は迷いのない足取りで、入口付近に居た憲兵に近づいて行った。
「ちょっとええですか。」
「ん?誰だお前?」
「丸井か桑原か居りません?話あるんですけど。ここでええんで。」
「どうだった?」
「いやあ、今2人とも出てる気がするけど・・・あ!居た居た、帰ってきた。」
「丁度良かったな。」
振り向いた可憐は、ちょっとぎょっとした。
一人は肌が黒い、外国人風の容貌の男。もう一人は赤毛。後、何か食べてる。
「お帰り。」
「あれ?忍足か。」
「よっ!お、その子誰?彼女?」
「違いますっ!」
「あはは!そう?」
「ブン太。」
「へいへい。」
(皆してもう・・・!)
異性と2人で居る時くらいあるだろうに、なんで皆こぞってこういう方向に話振ってくるんだろう。
「で?どうしたんだ、何か用事か?」
「まあ、ちょっと知っといてもらおと思うて。この子。」
可憐の右肩に忍足の手が乗った。
「桐生可憐ちゃん。今、卡薩布蘭卡亭で働いてる子やねん。何かあったら、相談乗ったって。」
「卡薩布蘭卡亭・・・」
「ああ、あそこな?わかった。」
「え?え?あの、え?」
「お前、十手団って知らねえの?今日も号外出てたろい?」
「あ!ええと、華族の人とか狙ってる泥棒のっ。」
「ああ、それだ。でも、最近どうも華族の家だけじゃなくて、出入りしてる施設にもやらかしてるみたいだからな。」
「跡部とか、うろうろしてるんだろい?目付けられてるかもしれねえから、何かあったら呼べよ。」
「は、はいっ!ありがとうございますっ!」
頭を下げつつ、可憐は安堵感が胸に広がるのを感じた。
なんだかんだ、こうして憲兵が味方になってくれるのは心強い。卡薩布蘭卡亭なんて、店長以外は基本女しか関係者が居ないし。
「俺も一回行ってみてえんだよな。今度行って良い?」
「憲兵服は止めておけよ、ブン太?」
「せやな。その恰好で来られたら落ち着かへんわ。」
「そお?」
「わ、私も、来てもらえるんなら普通の服の方がっ。皆、緊張しちゃうしっ。」
「ふうん?じゃあそうすっかな。」
「ああ、せや。あともう1個。」
「なんだ?」
「立海に、春日紫希ちゃんていう子が居んねんけど、ちょっと気つけて見てたってくれへん?」
忍足の言葉に、丸井と桑原は顔を見合わせた。
「ああ、良いけど・・・」
「なんで?」
「親が片方英国人やねん。その関係で、ないことないこと言われてるみたいやさかい。十手団の手引きしてるとか、なんとかな。」
「ああ、まあ確かにそれは・・・」
「ジャッカルも苦労してるもんな。」
「え、そうなのっ!?」
「十手団は、なぜか日本人の華族しか狙わないんだよな。」
「そーそ。お家柄が良くても金持ちでも、外人は標的の対象外って感じ。だから、犯人は日本人を敵視してる外人とかって言われてんだよな。」
「そ、そうなんだ・・・・」
でも、紫希は無関係だと思う。
きっと。
少なくとも、実行犯ではないだろうと可憐は思いたかった。
あんなきれいで優しそうな女の子が、盗賊団だなんて。団員自体ではないにしろ、噛んでるとも思いたくない。
「まあ、そういうわけやねん。学校居る間は誰かしら一緒や思うけど、放課後はそうもいかへんしな。」
「ああ、わかった。」
「お前は一緒に居てやんねえの?」
「俺はしばらく卡薩布蘭卡亭に居るわ。」
え、と可憐は小さく変な声が出た。
「そうなのっ?」
「まあ、少なくとも騒ぎがもうちょっと治まるまでは。ほんまはその間に、捕まったら一番ええねんけど。」
「悪い・・・」
「こっちも頑張ってるんだぜい?これでも。」
「ああ堪忍な、ちゃうねん。嫌味言いたかったわけやのうて。」
「いや、良いさ。不甲斐ないのは事実だしな。」
「ま、もうちょっと見てろい。近い内に片づけてやるから。」
丸井は明るい笑顔でニッと笑った後に、あ。と小さく続けた。
「でももしかして、捕まえない方が入り浸る理由になったりする?」
「ブン太!」
「え?」
「いや、そのときはもうそれて言うさかい、遠慮のう捕まえてくれたら。」
「へえ?」
「え?・・・・ん?」
「あ、あの、あんまり深く考えないでやってくれ。な・・・?ブン太も、余計なこと言うなよ。」
「はいはい。」
「可憐ちゃん、行こか。」
「あ、はいっ!」
手を振って詰め所を後にする頃には、もう夕方になっていた。
続きます。
すいません。
すいません…