明治時代。
電話は夜通じなくなる。
この時代、電話交換手に電話を繋いでもらわなければいけないからである。電話交換手が業務を終えれば、その日はもう電話が通じない。
だから、脅迫電話は明日になる。
今日一晩は、ここで過ごすしかない。
「うう・・・・」
可憐と忍足は、居間にいた。2人だけじゃなく、5人の男は全員此処に居る。
こんなんで1晩過ごせないと忍足が上手い事言ってくれたおかげで、なんとか縄は解いてもらえた。それでも丸腰だし、相手は武器を持ってる5人だから、丸腰が2人がかりでも勝てるとは思わない方が良いだろう。
一晩過ごすって言ったって、過ごして明日どうなるか、可憐にはわからない。
明日を迎えたって、明日死ぬかもしれないのに。
「おい。」
「何や?」
「お前、つまんねえやつだな。もうちょっと怯えてみろよ。」
「言われても。」
忍足は落ち着いたものである。
手は打った。
親戚の家と嘯いて相手を行かせたのは、知り合いのー--鬼のように強いと言われる軍人、真田弦一郎の家である。
実は、十手団という組織が騒がれだした当初から、忍足を含む立海勢の知り合いは、真田からある程度「このような事態になったらこのようにしろ」という指南を受けていた。
これもそのうちの1つ。相手がどこかに奇襲を仕掛ける時は、可能そうなら自宅に誘導するように、である。(跡部邸は有名すぎてすぐに気づかれるので、こういう時には使えない。)
多分5人でかかっても真田は勝つ。
問題はその後。
(勝って、真田が居場所を絞って、憲兵が聞き込みしてここまで来て・・・まあ、朝までにはどないかなるやろな。父さんも母さんも探してる思うし。)
今日、誰と何目的でどこに行くのか、両親は把握してる。友達にも何人も会ったから、いつどこで消息不明になったのかある程度絞りやすかろう。
加えて、この朝まで待たないといけない状況。
真田があいつらを吐かせるには十分だ。
高い勝算から、忍足は結構落ち着き払っていた。
だが、それが気に障るやつもいるようで。
特にまとめ役の男は結構冷静そうなのだが、忍足の監視・脅迫担当の男は結構気が短そうである。
「おい、代わってくれよ。」
「代わる?」
「こいつ、すかした顔しやがって怯えもしねえ。そっちの女のが面白そうだ、脅しがいがあるぜ。」
「言うとくけど。」
「あ?」
「そういうことするんやったら、俺は今すぐ死ぬさかいそのつもりでな。」
「ええっ!?」
「当たり前やで。そもそも可憐ちゃんを脅して、俺に言うこと聞かそう思うてんのに、大人しゅうしとっても脅されるんやったら、言うこと聞いてる意味があらへんやん。」
「なん・・・」
「おい!猿轡を、」
「別に舌噛むだけが自殺の方法やないんやし、あんまり意味あらへんで。」
「おい。」
まとめ役の男がとうとう割って入ってきた。
「止めろ、お前ら。」
「しかしー--」
「用事もないのに相手を刺激するな。目的は殺すことじゃねえんだぞ。」
「・・・ちっ!」
「ただまあ、確かに。」
「確かに・・・?」
「脅し方が足りねえのかとは思うな。」
「大人しゅうしてるやん。」
「目が気に入らない。こっちに歯向かおうとしてる目だ。」
流石にまとめ役と言おうか。
冷静と言うか、突いてきてほしくない所を的確に突いてくる。
「・・・何が言いたいねん。」
「お前みたいなやつは、大体何か企んでるんだ。おい!」
「はい。」
「女を隣室へ連れていけ。」
「えっ!?」
急に水を向けられた可憐は、ハラハラ感が一気に動揺に変わった。
「何する気や。」
「さて、何をするかな?・・・って、わからないまま疑い続けるみたいなのが、お前みたいなのには、いっちばん効くんだよなあ。」
何でもないフリしているが、実はこれは図星。
忍足は性格上、大事な人が目の前に居ない状態と言うのに、とても弱い。
まして可憐は一般的な市民である。軍人でもないし華族でもない。
こういうことに対する耐性がほとんど0。
まずい。
「大人しくしてなかったら、殴られる”かも”しれないし、蹴られる”かも”しれないし。なんなら犯される”かも”しれないな?」
「お、忍足君・・・!」
「・・・・・・・」
「おお怖。」
「へへへ、そうだそうだそれだよ!俺はそういう、こっちに対して腹が立って仕方ないって顔が見たかったんー--」
「待て!」
窓際に居た一人が、急に声をあげた。
「どうした?」
「・・・憲兵だ。」
「バレたのか!?」
「いやー--何か声がした気がして、さっき双眼鏡で見たんだが、どうもここの入り口前の庭で揉めてるみたいだな。」
「揉めてる?」
「1人じゃないのか?」
「ああ。男が1人で女が1人で・・・どうもありゃ、女が何かやらかしたな。で、憲兵がそれを追って、女がたまたまここに逃げ込もうとしたんだ。が、入る直前で捕まった、って感じか。」
「なんだよ・・・」
「でも、危なかったな。結構扉に近いから、もう少し遅かったら入られてたぜ。」
「驚かせやがって、迷惑な女だ。」
お前らが迷惑とか言うか、と可憐も忍足も思った。言わないけど。
「でもまあ、ただの女が憲兵に捕まったら、もうそれ以上は逃げられないだろ。」
「まあな。見た所強そうにも見えない、ただの女だった。」
「一応見ておけ。物音に勘付かれたら終いだからな。敷地から2人が出たら、改めてこっちも行動を起こすぞ。女を隣室に連れて行く。」
「はいよー---・・・・!?待て!」
「どうした?」
「逃げた!女が入って来たぞ!」
一瞬だった。
一瞬あれば、今の忍足には十分だった。
「可憐ちゃん、行くで!」
「えっ!?」
「あー--待て!」
待つわけもなかった。