5周年記念企画:クリサンセマムの口づけ前編 - 2/8


「・・・・・・」

紫希は息を吸って、椅子から立ち上がった。

目の前のテーブルには、この部屋の鍵が陽光を浴びて光っている。
退去の時は、わかりやすい所に置いておいてね。
そう言われたので、そのようにする。

部屋を見回すと、生活感のある部屋の風景が広がった。
一日だけ、かけた。一日で、出て行く準備をした。

多くのものは、残していく他なかった。
どうしてもどうしても捨てられないものだけ、鞄に入れたけど、本当にー---本当に本当に一番捨てられないものは、鞄には入れられない。

この胸にしまっておくしかないのだ。
そして、それを後生大事に守っていく。

「(紫希、準備は良いか。)」
「(・・・はい)」

紫希は返事をして振り返った。

「ー--お世話になりました。」

誰も居ない部屋に向かって、紫希は頭を下げる。

今日は快晴だ。