十手団は、瞬く間にその場を包囲した。
千百合達は全員その場に座らされ、廊下などに居た人間も順に捕まっているのが犯人達の様子から伺えた。
時折、倉庫はどこだ、とか聞こえてくる。
つまり、まだ箱を探しているのだろう。
(馬鹿みたい。)
もう中身はないのに。
あると思って、空箱を必死になって探しているなんて。
そんなもんのために、今自分の親友は刃物を突きつけられて、べそかいている。
「うううう・・・うええええ・・・」
「おい、めそめそ泣くな!鬱陶しいんだよ、殺されてえか!」
「うああああん!だってえええ!」
千百合は溜息を禁じ得ない。
とんだ茶番だ。今紀伊梨が恐怖している意味なんて、自分達はおろか十手団側にもない。
本当に無い。
そのことを、千百合だけが知っている。
「おい、やめろ!彼女はうちの侍女なんだ!」
「うるせえな!こいつの命が惜しいんなら、黙って見てろ!」
「黙ってられるわけないだろう!下働きを守るのは、雇い主の義務だぞ!俺が人質になってやるからーーー」
「くそったれな冗談だな。男なんか人質に取れるかよ、面倒くせえ。」
「く・・・!」
(・・・そっか。)
千百合は、何故今まで思いつかなかったのか自分でも不思議だった。
紀伊梨はたまたま人質になったのではない。人質候補が最初から決まっており、その中から選ばれたのだ。
男だと反撃されて困るから、反撃できそうにない女性。さらに言うと、体格が良いと面倒なので、普通程度、もしくはそれ以下。
ここには十に満たないくらいの小さい子供も居るのだが、あんまり子供過ぎると大人の言うことを聞かないので、それも却下。
結果として、適齢期の女性だけが残る。
なるほど。
それなら。
「私。」
「あ?」
「私が代わりに人質ってことで、どう。」
周り中がどよめいた。
千百合の両親も含めてだ。
「おい、千百合!」
「何。ですか。」
「何ですかじゃないだろう、お前はーーー」
「下を守るのは上の義務なんでしょう。」
「そーーー」
「千百合、それなら私が、」
「良いです。お母様はお体が弱いですし、私は丈夫ですから。」
もう卒業は目前。
結婚も目前だ。
もうすぐ愛する友人達とは離れ、気乗りしない結婚に人生を捧げるようになる。
それなら紀伊梨を失くしておめおめ生きながらえるよりも、紀伊梨に生きてもらって自分が死んだ方が、千百合自身いくらか楽であった。
「お辞めください、千百合嬢。貴方が侍女などの身代わりになる必要はありません。」
背中から婚約者の声が聞こえた。
自分が代わりに、とは言わないんだなあ。なんて思うのは、思う方が流石に酷だろうか。
「そうでしょうか。」
「そうですよ、誰だってそう考えます。これからの貴方の人生ーーー結婚や子どもの誕生や、そういった幸せが、」
「ですね。」
「え?」
「私も、そう思います。」
そう。
これから先の人生。
愛する人と結婚して、愛しい我が子を腕に抱いて微笑んで。
紀伊梨なら、それが叶う。
切原から、紀伊梨に結婚を申し込みたいけれど黒崎家は許すだろうかと相談を持ちかけられたのは、わずか3週間前の話だった。
あの時は、自分が決められることじゃないからと返事した。
でも。
「紀伊梨。」
「千百合様ーーーー」
「私、許すよ。」
「へあ・・・?」
「って、言ってたって言っておいて。」
「・・・へ?」
何の話かは教えてやれない。
結婚の申し出は、本人の口から聞いた方が幸せだろう。
父母がどう思ってるかは知らないが、愛娘の遺言なら無下にはできまい。
双子の兄が風邪で欠席していて良かった。
説得する人数が少なくて済む。
「おい!こっちを無視して長々話してるんじゃねえ。結局なんなんだ、お前が人質になるのか?」
「なります。」
どうせ人質に取るのなら、侍女より華族の方が良いに決まってるのだ。
十手団はあっさり千百合の要求に応じ、千百合を人質にした。