その後千百合は会場中連れまわされ、誰かに会う度に人質として前に出されて、一般の人間が拘束される理由になるのを黙って見ていることになった。
誰か一人くらいは、それがどうしたと言って向かって来るかと思ったが、誰もそんなことはしなかった。
黒崎家って結構偉いのかな、なんて今更ながら思った。
ひとしきり周り終わると、千百合は返されず別室に連れていかれた。
縛られたりはしていない。
この場には2人居るし、丸腰の女1人対武装した男2人だから、そこまでしなくても良いと思っているのだろう。
「わかってると思うが、動くなよ。」
千百合は無言で小さく頷いた。
別に動く気はない。
「・・・こいつ、どうですかね。」
「どう?」
「こいつ、黒崎家の令嬢でしょ。近々結婚するとか言う。」
「それがどうした?」
「婚約者とか、助けに来ませんかね。」
「来ねえだろ。」
男はさらっと言った。
あまりの即答ぶりに千百合がわずかに顔を向けると、男もそれに気づいて続けた。
「お前の婚約者は、保志家の息子だろ。保志伊織とか言う。」
千百合は頷いた。
「知ってるんですか。」
「ああ。弟が従者として勤めてたが、あいつは手癖が悪いわりに意気地なしなんだ。気に入った女を喫茶で引っかけて逢引する傍ら、路地なんかで物取りなんかに襲われたら女を置いて我先に逃げるような男だよ。」
「へえ。よく悪評が立ちませんね。」
「外出時にゃ変装してるらしいからな。」
「はあー・・・女、お前えらいのと婚約したな。」
千百合もそれは今思った。
そんな男だったとは。
我が事ながらえらいのと婚約したな、と思う。
「まあ、これで死んだら結果的に反故になるがよ。」
「まあな。」
「・・・・・・」
これで死んだら。
死んだら、か。
間違いなく死ぬ可能性は高いのに、千百合の心は今、不思議なほど凪いでいた。
死への恐れを不思議なくらい感じない。
刃物を突き付けられた時でさえ、まったく動揺が生まれなかった。
まだ実際痛い目を見ていない、ということもあるかもしれないが。
「切られたりしたら思うのかな。」
「あ?」
「何か言ったか?」
「何も。」
そう言った瞬間だった。
ふっと照明が落ちたのは。
「わっ!」
「なんだ!?電気系統か!」
「わ、」
千百合は小声で呟いたが、見張りの2人には聞こえていないようだった。
千百合は、何かに服の膝部分を掴まれ、引っ張られた。
それに従うまま立ち上がり、まったく視界が効かない中進んだ。
本当に視界が効かない。
今日が曇りということもあってか、月明りも何も入らない中、千百合は引っ張られる感覚だけ頼りに歩いた。
何かにぶつかるだろうと思ったが、見張りの声は遠くなり、いつの間にか閉じこめられていた部屋も出たらしかった。
これが誰ーーーというか何で、どこへ連れていかれるのかまったくわからなかったが、少なくとも状況は間違いなく好転した。
だから良いのだ。
それで良いのだと思いながら、千百合は進んでいった。