(あの人、なんであんなに食べられるんでしょうか・・・)
ディスカバリーフェスの待機時間。紫希は待機ブースに置いてある食事を、一切の遠慮なく食べている丸井に目を奪われていた。別の意味で。
「すげえ食べてるやつ居んねw・・・紫希、大丈夫?吐きそう?」
「吐きそうですけど・・・頑張ります・・・」
「今日ソロあるよw」
「ううう・・・頑張ります・・・!」
(すげえ顔色のやつ居るけど、あんなんでステージ立てるのかよ?)
丸井は丸井で、食べながらひときわがちがちの紫希を眺めていた。
「ブン太、どうしたんだ?」
「ああいや、あいつ。」
「ん?」
「倒れそうー--「ビードロズじゃないか?」
桑原から耳慣れない単語が出てきて、丸井は一瞬動きを止めた。
「ビー・・・トルズ?」
「ビードロズ。俺らと同じ初参戦だけど、実力派っていう噂だぜ。」
「・・・・?」
本当か。と正直思ったのは否めなかった。
ディスカバリーフェスはバンドグループでもアイドルグループでも参加可能だが、できることが変わるためブースは同じではない。
だから紫希はRIKKAIのステージを、袖とかじゃなく正面から見られたわけだが。
「・・・・・!」
すごい。
あんなに踊ってるのに、歌声が全くぶれない。
ステージの端から端まで全部使うような大きいダンス。ジャンプ、バック宙。
堂々としたボーカル。
客に対する目線、表情。
未だに人前に慣れない紫希が、ひっくり返ったってなれない姿がそこにはあった。
「すごー-い!RIKKAIってすごいんだねー!」
「だからすごいって言ってんじゃんw」
「キンキンうるさい。」
「えー?ふつーのポップスだお?」
「観客がうるさいの。」
「・・・・・・」
「ねえ、うるさくない紫希・・・紫希?」
「え?あ、はい!なんですか?」
「いや・・・何かごめん。そんな真剣に見てると思ってなくて。」
「ううん・・・何か、凄いなと思いまして。私、絶対あんなパフォーマンスできませんから。」
「人前苦手だもんなあw」
RIKKAIのメンバーは全員堂々としていたが、その中でも丸井の姿は一際紫希の目を引いた。
メンバーの中で、本番前と本番の差が一番無い人間であった。
どうしてあんなに自然体で居られるんだろう。
あれがアイドルの資質か、と思った。
大歓声に包まれて出番が終わり、30分ほど経った頃。そろそろかいた汗も引いてきたなという時に、バンドブースでビードロズの出番がやってきた。
幸村がビードロズだけはきちんと見ておきたいというので、必然的にRIKKAIのメンバーは全員で揃って見ることになった。
(あーあ。)
紫希はやっぱり不安ですとしか言いようのない顔をしていた。
呼吸が浅い。緊張しているのがばればれ。
譜面飛ぶんじゃないか大丈夫か、と丸井が思っている中、とうとう演奏が始まった。
紀伊梨のカウント。そしてギターソロが始まった途端。
「・・・・・!」
目つきが変わった。
臆病さはなりを潜め、体のこわばりが解けて、軽快な手つきでキーボードを弾き始めた。
むしろ、こんな演奏ができるのに一体何をあそこまで怯えていたのか。丸井は不思議でならなくなった。
「Lala♪ Lalaーla♪ Lalaーla♪ Laーlala♪」
サビに入り始めると、紫希はコーラスを歌いながら笑顔さえ浮かべ始めた。
紫希だけじゃなくて、もうその頃には棗も千百合も全員笑って演奏していた。
笑顔になろうとしてるわけじゃない。勝手に零れているような幸せそうな笑みで、一瞬。
確かに一瞬、紫希はこっちを見たなんて思った丸井ははじめて、アイドルと目が合ったと感じる観客の気持ちが分かった。