今日は、決勝を含め数試合ある。
だが勝ち進んでも、紀伊梨と切原の関係はまったく改善の兆しを見せず、昼挟んだらもう決勝して終わりという所まであっという間に来てしまった。
「うえええん・・・」
「よしよし・・・よしよし。」
「氷あるー?」
紀伊梨は朝から泣きっぱなしである。
あんなこと言われて、凹まない人は少なかろう。友達でもきついのに、無自覚とはいえ好きな人からなんてなおさら。
普通でもきついけど、紀伊梨は感情を取り繕うことができない。
普通のふりするとか、表面上平常でとか、そういうの苦手なのだ。
「リーダー、どうする?」
「困ったなあ・・・」
「五十嵐さん抜きでやります?」
「なんのために今まで居てもらったのよ!」
「だってー!」
「決勝用のダンスは、全員揃ってないとできないよ・・・」
「というか、こっちが悪いわけじゃなくないですか。切原は?」
これが一番困った点なのである。
テニス部のためにやってるのに、そのテニス部がこっちの妨害をしてくるのだ。
本当なら切原を問いただしたいが、なんせまだ試合があるし。
「とりあえず形だけでも謝ってもらうとかは?」
「できないでしょあの子、そういうのは。」
「でも、やるにしろやらないにしろ決めないと。間を取るとかそういうことできないわけだし。」
「うーん・・・・」
「・・・・何か、難航してるね。」
「そりゃそうよ・・・」
「ひっく・・・喉、」
「え?」
「喉乾いた・・・」
「あ、ああ!飲み物か!えーと、クーラーボックスにもあるし、」
「というか、一度バスに戻ってもらう?」
「え?」
「だってほら、ここ外だし・・・こんな、無駄に目立って暑くてお尻痛いとこに居なくて良いじゃん。どうせあと1時間もしたらお昼でしょ?まだ他校の試合終わってないから、誰も食べてないだけでさ。」
「確かに!良いじゃん紀伊梨、そうしよ?ね?あそこなら、後部座席に横になれるしさ。エアコン効いてるし。」
「う”ん”・・・」
ぐし、とタオルで涙を拭いて、紀伊梨はふらふら立ち上がった。
無駄に暑い日差しの中を、切原は当てもなく歩いていた。
空気悪くなるから解決してくるか、もしくは皆の休憩場所から離れとけと言われたのだ。
見ようによっちゃ冷たいのだろうが、切原にはちょうど良かった。
じっとしてるといらいらする。疲れるけど、歩いてる方がいくらかマシ。
「・・・・・・ちっ!」
もう、今日何回やったかわからない舌打ちの回数に+1。
(解決してこいとか、簡単に言うなってんだよ!)
解決策はわかる。
バカだバカだと常日頃言われてる自分だけど、今回に限ってはわかる。
謝って、普通の風を装って仲良くするのだ。
でもできない。
難しすぎる。
テニスで勝つより多分難しい。
じゃあどうするんだ。
思ってる事を紀伊梨にわーっとまくしたてるのか。
それは解決になるか?
何が嫌だったのかはわかって貰えても、結局根本的な解決になってなくないか。
謝るのは簡単だけど、謝って済む問題じゃない。
自分の気が収まらない。
ああ腹立つ。いらいらする。すごい焦燥感。
大っ嫌いである、こういう状況。
せめてひどいこと言う前にと、目の前から消えてもらったのに、居なかったら居なかったで焦ってしまってしょうがないというこの矛盾。
ー--今日が、最後なのに。
「~~~~~~~~~!」
切原は立ち止まった。
だめだ、ままならなさ過ぎて頭が沸騰しそう。
叫びだしたい。今すぐ試合したい。体を動かしたい。
もうその辺ぐるぐる走ってやろうかな、なんてとこまで考えた辺りで声がー--ずっと聞きたかった声が聞こえてきた。
「やだよ、離して!」
左手方向を見ると、離れたところに紀伊梨が居る。
チアの衣装を着て、知らない男子に手首を掴まれている。誰だか知らないけど、私服だから部外者は確実。
離れててもはっきりわかるくらい、紀伊梨は泣いていた。
ぽろぽろと大粒の涙を零して。
ああ。
誰がそんな顔させてるんだ。
あいつか。
「ー--紀伊梨先輩!」
反射的に行った全力のタックルが、男子の細めの体を正確かつ強烈に吹っ飛ばした。