切原赤也は野心に溢れた若者であった。
やるからにはトップを狙いたい性格をしていたし、紆余曲折を経て世界でも屈指のSP集団、立海に入った時もスタンスは変わりなかった。
確かにボスや幹部にはまだ及ばないけど、それでもその次くらいの力量はあると自負していたし、やれると思っていた。
思っていたので、彼は現在の配置に、とってもご立腹だった。
「・・・・・・・」
「赤也、地図のここなんだけど・・・ってお前、何?まだ拗ねてんの?」
「拗ねてません!」
「嘘吐けよい。」
拗ねてます、と顔に書いてあるような風体で、赤也は先輩ーーー丸井、桑原、仁王、柳生と車に乗って、クライアントの家に向かう。
1個前の車には、自分達の組織のボスと幹部である、幸村、真田、柳が乗っている。
秘密の作戦会議中らしい。
切原はもう、そこからして気に入らないのだ。
そこの輪に自分も入れろよ、とナチュラルに思っている。
「そこまで悲観することもないんじゃないか・・・?」
「お前さんはお前さんで、ええ役貰っとるじゃろ。」
「そりゃまあ、家の警備よりは良いかもしんねえっすけど!俺は、あっちに入れて欲しかったんっすよ!」
今回のクライアントからの依頼は、家宝であるイエローダイヤモンドを警護して欲しいというものであった。
何でも、ダイヤモンドを狙う怪盗が居て、近日盗りに来るというのは確定らしい。ご丁寧に予告状が届いたそうだ。
ただ、全員がダイヤを囲んでずらっと並んでいても、さほど意味はない。
なので役割が分かれる。
一番のメインーーーダイヤの守備係は、幸村、真田、柳。ボスと幹部達だ。
丸井、桑原、仁王、柳生は、屋敷の警護。
と表向き言われているが、実際は警護もしつつ、身内に内通者とか、変装した怪盗が居ないかどうか見て回る役割もある。
こっちはこっちで結構目端の効きを要求される。
そして切原。
「なーんで、俺だけお嬢様の警護なんすかねえ・・・」
切原の役は、クライアントの一人娘の警護であった。
何でもこの娘、悪い人間ではないのだが、どうも素でトラブルメーカーになる体質らしい。悪気なく厄介ごとを起こす可能性が高いため、誰かお目付け役が居るということで、今回切原に白羽の矢が立った。
良いじゃない、女の子の騎士役だよ、とかボスからは言われたけど、切原的には「体よくメインから外された」と感じられてどうしようもない。
「情報によると、ご令嬢は年の割に、少々幼めな性格をしておいでのようですよ?」
「ははは!精神年齢近いってこと?」
「ちょっと、それってガキだってことでしょ!?俺は違いますから!もう成人してますから!」
「今話してるのは、体の年齢の話じゃないだろ?」
「そういう所がお子様なんじゃき。」
「~~~~~~!」
「まあまあ、そう拗ねんなって。結構可愛いらしいぜい?お前のお守りするお嬢様♪」
「知らないっすよ!」
そりゃ可愛い方が良いに決まってるけど、そういう問題じゃないのだ。
ふん!と鼻を鳴らして窓の外を見ると、風景が変わってきた。
もうすぐ到着だ。
屋敷に着くと、クライアントである屋敷の持ち主が妻だという女性と共に挨拶をして、迎え入れてくれた。先頭にクライアントの夫妻とボス、後ろにSP一行がぞろぞろ連れ立って歩き、殿をメイド2人が付き添う。
先頭では、今回警察は居るのとか居ないのとか、警備体制なんかを話し込んでいる。
ただ、後方に居る切原には聞こえない。
こういう疎外感も嫌なのだ。
いちいちイライラしてしまう切原のすぐそばで、全然平気そうな柳生がメイドに声をかけた。
「ところで、お嬢様とやらはご不在ですか?」
「・・・紀伊梨お嬢様でしたら、そのう・・・今は、書斎に。」
「書斎?」
「お嬢様は、勉強が苦手なので。本来ならもう学習の時間は終わりなんですが、基本的に毎日補修があるんです。」
「千百合ちゃ・・・」
「伏せても無駄だって。3日も居たらバレるから、お嬢様の生活態度は。」
「う・・・・」
「まあ、そろそろ終わるころですので、終わり次第ダイヤの部屋においでになるかと。今日皆さまが来られることは知らせてありますから。」
「そ、そうなのか・・・・」
「良かったじゃん、気が合いそうで♪」
「どういう意味っすか!」
「ですが、妙にかしこまった成績優秀過ぎる方より、多少補修を受けるようなタイプの方の方が、切原君としては付き合いが楽なのでは?」
「それはまあ、そうっすけど・・・」
「結局、適材適所じゃった、っちゅうことじゃのう。」
何か納得がいかない思いを抱えて言い返しの言葉を考えていると、クライアントが足を止めた。
「着きました。ダイヤはこちらに。どうぞ。」
「他の警備は?」
「まだおりません。予告の日まで、後2週間はありますから。」
扉を開けられると、部屋の真ん中には、拳ほどもあろうかと思われる美しい黄色のダイヤが鎮座していた。
警備の人間は居ないが、警備のシステムは作動しているらしく、機械の音が微かに聞こえる。
「見事な品ですね。」
「ええ。手前味噌ですが、我が家の宝でして。売れば少なくとも5兆はくだらないと言われていますな。」
(5兆・・・)
「あの・・・彼は何をしておいでで?」
「ああ、気にしないでください。」
「おそらく、桁がよくわかっていないので、数えて居るんでしょう。」
「はあ・・・」
一、十、百、千、と指を折って数える切原は、クライアントの怪訝な眼差しにまったく気づかない。
(千億・・・1兆!)
うわ、すげえ。
と切原が零したのと、目の端に居た丸井が側にいたメイドの腕を引いたのが見えたのは同時だった。
何だ。
丸井は何を避けたんだ。
と思って振り向こうとしたら、その前に背中に衝撃。
「~~~~~!」
「あいったー!いたーい!」
「こっちの台詞だ、何すんだよ!って・・・」
背中から重いのが退いた、と思ったら、人形のような整った顔が眼前に迫っていて、切原は思わず言葉を吞んでしまった。
「これ、紀伊梨!お客様に向かって、何をしているか!」
「だってー!急に止まれなかったんだもーん!」
紀伊梨。
ということは。
「・・・五十嵐、紀伊梨サン?」
「ん?うん!そうです!」
こうして初対面の場では、2人とも磨き上げられた床に座り込んでの挨拶となった。