5周年記念企画:My diamond - 4/9


それから数日。
いよいよ予告の日が迫ってきた日の夜、切原は紀伊梨の寝室でぼうっと椅子に座っていた。

年頃の娘の寝室に男のSPが入って良いのかという問題は、幸村の「あいつにその手の度胸はないですから」の鶴の一声であっさり解決した。(とは言いつつ、切原本人は知らない事だが。)

なのでこうして、完全に寝ないように気を付けつつ、ここの所毎晩夜間の見張りをしてるわけだが。

「・・・・・・」


『値段以外で役に立つ事?』
『そう!』
『えー?・・・きれい?』
『そうじゃなくってえ!何かこう・・・持ってると超能力が使えるようになるとか・・・何かそんな・・・』
『超能力~?』
『例えばっすよ!例えば、そういう何かこう、高い以外の何かってねえかな、って・・・』
『えー、紀伊梨ちゃん知らなーい。』
『そっすか?』
『おとーさんに聞くー?ダイヤだったら、おとーさんが一番詳しいよ?』
『いやまあ、そこまでは良いっすよ。』


話してもらえるとも思わないし。
とは言わないでおいた。
SPの切原はともかく、愛娘にも聞かせられないとかいうことになると、紀伊梨がいたずらに傷つきそうだと思ったからだ。

(あの人らは知ってんだろうなあ・・・)

多分、直接ダイヤの警備にあたるあの3人は、知っているのだ。
ダイヤを何故守らなければいけないのか、その本当の理由を。

いや、もしかしたら特別な深い理由とかはないのかもしれない。
単に本当に、金が惜しくて守ろうとしてるという線もあるけど。

「・・・・・・・・」






同じ頃、静まり返ったダイヤの保管室では、明かりがまだ煌々と点いていた。
幸村・真田・柳の3人が、警備体制について打ち合わせをしているのである。

「首尾はどうだい、柳。」
「滞りなく進んでいる。予告の日には間に合うだろう。」
「そうか。しかし、気は抜けんな。」
「そうだね。特に、この予告状は、俺達とクライアントのご夫妻以外の目に触れると、トラブルの元だから。」

幸村は手に持ったファイルに目を落としながら言った。
開かない。
誰がどうやって見ているかわからないからだ。

今回の警備作戦の肝は、正確な予告情報を人目に晒さないことにある。
予告状の全文がバレたら、怪盗の取り逃がしどころか、出し抜かれる可能性さえある。
それはいけない。
これの中身は、幸村達3人と、屋敷の主人と妻。それから犯人本人しかわからない状況の方がありがたい。

「時に2人とも。赤也の話だが。」
「赤也?」
「赤也がどうかしたのか。」
「いや。彼奴は、勘付いている可能性はないのかと考えていてな。ダイヤの担当から外れたことについて相当根に持っていたし、彼奴は頭は悪いが、仕事には熱心で勘が良い。俺達を探ってくるやもーーー」
「それはないんじゃないかな。」

幸村は実にさらりと言った。

「・・・何故そう思うのだ。」
「赤也は、ああ見えて根が優しいから。」
「・・・?」
「弦一郎が心配する気持ちもわかるが、俺としても同意見だ。内心はどうあれ、今の所赤也に不審な動きはない。気づかれているとは思えないな。」
「そうか・・・まあ、お前達2人がそう言うのであればーーー誰だ!」

「ひい!」

部屋から覗いてる気配がして、真田の声に3人が振り向くと、入口の所で固まっている切原の姿が見えた。

「赤也!貴様、職務をーーー」
「待った、真田。赤也?こんな所に、何をしに来たんだい?」
「水飲みに来ただけっすよ!」
「水?」
「まあ、飲みたがってたのは俺じゃねえんすけど・・・」

3人が切原の影を覗き込むと、暗い廊下に恐れ戦いて、切原に捕まりながら頻りに後方を振り向く紀伊梨が居た。

幸村は紀伊梨の姿を見ると、いつものように優しい微笑を浮かべた。

「それで、水を飲むついでにこんな所へ?」
「電気ついてたからっすよ!もう泥棒が来たのかも、って言うし。かといって、一人で寝室も嫌だって言うし・・・」
「だって暗いの怖いんだもん!」
「たわけが!本当に賊が居たらどうするつもりだったのだ!お嬢様、あなたもです!一般人の身分で、わざわざ賊が居そうな所にのこのこ来るなど、危険極まりない!」
「大丈夫だよ!赤也君が守ってくれるもんね!」
「いやまあそうなんすけど・・・部長?」
「あははははは!あはははは!」

幸村は、おかしくて堪らんと言わんばかりに笑っていた。

「一本取られたなあ。それを言われちゃうと、こっちは何も言えないね。」
「えへん!」
「ただそれはそれとして、もうこんな夜更けです。寝室にお戻りください。俺達は打ち合わせしていただけですし、どっちにしろもう戻るので。赤也もね。」
「「はーい。」」

赤也君、部長って呼ぶの?
最初部署の部長だと思っちまって、それから流れでなんとなく・・・
なんて、毒にも薬にもならないような雑談をしながら、暗い廊下をライト1本で進んでいく2人の背中を、幸村は満足感と共に見送った。

「ね?大丈夫そうだろう?」
「しかし、ここに来たのは事実であってーーー」
「あれは、お嬢様が来たがったからだよ。お嬢様が帰る気になったら、食い下がらないですぐ帰るよ。今だって、ぐずぐずしないで戻ってるじゃないか?」
「・・・まあ、それはそうだな。」
「何にせよ、今の段階でこの状況は良いことだ。赤也には、あまりこちらを気にされても困るからな。」

もうすっかり誰も居ない廊下に、柳の声が落ちた。