「しんど・・・」
「忍足くん、大丈夫っ!?休んで休んでっ!」
「ありがとうございます・・・」
良いよ。
と言ったが最後、跡部の行動は早かった。
待ってましたと言わんばかりに、今からやってもらわなければいけないことを、リストごと忍足に押し付け。
忍足は、その消化に追われることになった。
今朝は、グラスにムカつきながら自宅でめがさめたのに、今は自分が花婿役で、城の一室でぐったり休んでいる。
一日でいろいろあり過ぎた。
「忍足くん、お水っ。」
「ありがとうございます・・・」
「・・・・・」
「・・・姫?」
水を渡してくれた可憐は、何か言いたげな顔をしていた。
怒ってるわけではなさそうだが、何かちょっと不満そうな顔。
「・・・前からちょっと思ってたんだけどっ。」
「はい?」
「忍足くんって、跡部くんと仲良いんだよねっ?」
「仲良い・・・まあ、昔からよう知ってる仲ではあります。」
「跡部くんって王様だよねっ。」
「はい。」
「忍足くんは、王様だけど跡部くんだから、普通に喋るんだよねっ?」
(・・・・・ああ。)
もしかして、それか。
それか。
「ふっ!」
「もうっ!どうして笑うんですかっ!」
「すいませんあの、つい。」
「何がついなの、もうっ!・・・さっきお話した時は普通に喋ってたから、期待したのにっ!」
一度部屋を出て、忍足が「姫、使ってええ部屋ありますか?」と聞いてきたとき、可憐は大層がっかりした。
跡部を羨ましがるなんて、さすがに心狭いかなと自分でも思うけど。
「堪忍してください。俺なりの自衛やったんで。」
「・・・自衛っ?」
「振られるてわかってんのにから、あんまり仲良うなってもしんどいかなて。」
「う!そ、それを言われると・・・」
「いや、責めたいわけやないんです。ただ、意識的に徹底してたところがあるんで、急に辞めえ言われると。」
それを言われると、可憐としては辛い。
わざとでないにしても、結果的に遠回りしてしまったのは、可憐の記憶喪失が原因ではあるので。
「まあただ、それこそ今は今やから。」
「・・・うんっ。」
「直・・・直すわ。」
「うんっ!」
直します、と言いかけて、忍足は直した。
危ない。
と思いつつ、忍足はつい口元が緩む。
直して良いんだ。
これからは堂々と。
「姫・・・ああ。」
「?」
「姫呼びも、辞めなあかんな。」
「あっ!そう言えば、そうだねっ!」
「そっちもやで。」
「えっ?」
「忍足くんは変やん?夫になんのに。」
「そっ・・・」
可憐は顔が熱くなった。
そうだ。
確かに、自分側も直す所がある。
そうだね。
夫に対して苗字+くんはおかしいね、そうだね。
ただ。
「あのう・・・それについてなんだけど、1個お願いがっ。」
「?」
「1回で良いから・・・王子、って呼んでみて良いっ?」
「王子?」
「わかってるよ、本当の王子様じゃないよねっ。でも、そのう・・・私にとって王子っていうのは、昔からずっと好きだった、手紙の向こうの人の名前でもあるからっ!だから・・・」
「ああ。」
そうか。
そうだった。
手紙の中では、自分はいつも王子と呼ばれていて。
そして、自分はいつもちゃんを付けて呼んでいた。
「ええで。」
「じゃあ・・・王子。」
「・・・可憐ちゃん。」
その時、可憐と忍足はお互いに実感した。
ああ。
ああ。
自分達は本当は、ずっと一緒だったのだ。
ずっと前からすごく近くにいたのに、随分遠回りして。
そして今やっと、過去も今も折り合えた姿で、隣に居られるようになったのだ。
そしてこれからは、未来を一緒に過ごしてゆく。
王子でも医師でもない忍足と。
庶民でも姫でもない可憐とで。
ずっと一緒に。