ここは、大広間。
跡部は玉座に座っていた。
側に控えている樺地は、ジュエリークッションを持っていて、その上には綺麗な指輪が乗っている。
グラスが付けていた、魔法の指輪だ。
それを跡部は手に取って、人差し指に引っ掛けて、やや無造作にくるくる回してみせた。
「で?結論としては、どうなんだ?」
「えっと、その・・・・
私、昔からずうっと、忍足くんが好きでしたっ・・・!」
可憐の言ってる王子様。
それは結局、ボトルメッセージの相手の王子様でーーーつまり、忍足であった。
グラスは、可憐本人が記憶喪失であることを聞いて、王子の名を騙った偽物だったのだ。本人が詳しいことを覚えてないのだから、矛盾や曖昧なところがあってもいける。と判断したらしい。
まあそれは、まあまあ正しかったわけだが。
「黒髪と短髪はなんだったんだ?」
「それなあ、多分謙也やねん。」
「謙也・・・お前の従兄弟か。」
「そう。」
忍足は一度だけ、親について遠方の国へ行かなければいけないことがあった。
その間、ボトルが気がかりで。
だから、可憐のボトルの回収を、謙也に頼んだのだが、その時謙也は可憐に見つかってしまったのだ。
ボトルを拾う所も見た。
その時は、しまった誰か他の人に拾われたと思ったのだが、数日後にちゃんと返事が返ってきた。
その時に可憐は察したのだ。
相手が本当は王子じゃなかったことも。
自分のボトルは、どこにも行ってなかったことも。
全部わかっていて、楽しませてくれていたことも。
それ以降、可憐は彼のことを、王子と呼ぶようになった。
身分が王子じゃなくても。
自分の運命の相手になって欲しい人、という意味で王子だとみなした。
まあそれが結果的に、混乱の元になったわけだが。
「バレへんように夜に行け、言うといたんやけどなあ。ほんまあいつ、自分の足の速さ過信しよってからに・・・」
(そんなことまで考えてくれてたんだ・・・)
「おい、見惚れてないで話の続きをしろ。」
「ああっ、ごめんなさいっ!ええと、だから、私がその、謙也くんっ?を、メッセージの相手だと思っちゃってっ!」
「お前の従兄弟は、明るい茶髪じゃなかったか?」
「あれ、大人になってから変えてん。ほんまは黒髪やで。まあ、まだ顔の確認はしてないけど。」
「あっ!そうだ、顔は・・・」
「こいつが原因だ。」
跡部は、指輪をクッションに戻した。
「魔法がかけてあってな。付けて対象者を選ぶと、相手の見たい顔に見えるんだと。」
「なるほどなあ。俺達は顔わからへんから、別人に見えててもええんか。上手いことやるわ。」
「跡部くん、いつ気づいたのっ?」
「まあ、半信半疑だ。お前が言ってたろ?顔が記憶のままだってな。」
「うんっ。」
「それがまずおかしいんだ。8歳に見た顔が、今でもそっくりそのままなんてことがあるかよ。」
可憐はしきりに言っていた。
記憶そのままだ、間違いないと。
でも普通は、面影がある程度だと思う。もう少し迷うのが当然だ。
あそこまで言い切ってる時点で、跡部は何か変と思っていた。
「それに、あいつは身支度なんて要らないと言ってたろ。」
「えっ?それって変っ?」
「それ自体が変と言うより、そんな貧相な生活をしている割には、格好が小綺麗過ぎたからな。元王子という設定に引っ張られたんだろうが、まあ演出のミスだ。」
「へえ。」
「お前もこのくらいは気づくと思っていたがな。というより、いつものお前なら気づいただろうに、動揺し過ぎなんだよ。笑いを堪えるのに苦労したぜ。」
「しゃあないやん。目の前で好きな人の結婚の話がトントンまとまって言ってんのにから、平気でいられへんわ。」
可憐はかあっと顔が赤くなった。
忍足はこういうことを結構サラッという。
と言うのは、片思いが両思いになって数時間で、よくわかった。
「まあそれでも、考え難いとは言え、決定的に不自然だとか、あり得ねえってレベルではなかったからな。半分は信じたぜ。」
「そうなのっ?」
「ああ。ただまあ、前も言ったが、本当かどうかと結婚するかどうかは、別の話だからな。俺にとっては最初から、あいつが本物かどうかなんて、どうでも良かったんだ。」
跡部は最初から、誰より早く結論に辿り着いていた。
あの時はあの時。
今は今。
結婚は今の話なんだから。
相手は今の可憐が決めれば良いのだ。
まあ結果として、話は最初に戻ってきたわけだが。
「ところで。」
「「?」」
「俺様としては、一応あいつとの結婚がまとまる可能性を考えて、1ヶ月ーーーまあ、今からだと2週間後だな。その時に、婚姻の儀をあげる手筈を整えていたわけだが。あいつは偽物だったし、結局姫もあいつとは結婚の意思がない、ってことで帰ってもらった。」
「・・・だからっ?」
「今まで準備した側としては、ついでにこのまま花婿だけ代えて進めてしまいたいんだが、どうだ?」
可憐が忍足を見上げると、忍足は目が合い、小さく微笑んだ。