そしてとうとう、本番のS3戦が始まった。
「はっ!」
「えいっ!」
しばらくラリーが続き、ゲームカウント1-1。ここまではお互い、目立った動きがないが。
(でも、そろそろ仕掛けてきそう・・・きたっ!)
相手が前へ出てきた。
今までずっと可憐を左右に振ってきたから、咄嗟に対応できまいと思っているのだろう。
でも、可憐の中では、まだ想定の範囲内だ。問題は、想定できていても、対応できるかが別である事。
(この姿勢からで、相手の予想出来てなさそうなとこっていうと、あの辺に・・・でも、)
でも。いつも練習の時は、まさにそういう風に打ったショットが返されがちなのだ。
その度に可憐は、ああ読みが足りなかったかと頭を抱えているのだが。
でも、今日は違う。
(・・・ううんっ!勝てるっ!私、勝てるはずっ!)
「・・・やあっ!」
覚悟を決めて、可憐は打ち返した。
「15-0!」
「・・・えっ?」
ボールは黄色い軌跡を描いて、綺麗に相手のコートに入った。
(・・・入った?)
しかも。見間違いじゃなければ、相手は明らかに逆方向に走ったような。
「・・・・」
「レディー・・・・レディー!桐生選手!」
「ああっ!は、はいっ!」
慌ててサーブの準備をしながら、可憐は心の中に、むくむくと希望の芽が育つのを感じた。
(・・・もしかして、もしかしたら、本当に、)
今日は勝てるかもしれない。
「ゲーム氷帝!4-2!」
「おー!勝ってんじゃねーか、しかも結構上手い感じで。」
「上手やろ、あの子。」
「あれ?侑士知り合い?」
「・・・まあ、少なくとも友達やで。去年同じクラスやったし。」
「へー・・・お、また入った。」
(やっぱりな。)
可憐が、なぜあんなに自信がないのか。
それは、部活でほとんど勝てないからだ。
では、なぜ勝てないのか?
それは、部内では可憐の思考の深さを皆知ってるからである。
一歩外に出て、可憐のことをろくに知らない人間が相対すると、まあこんなもんだ。
当たり前のように裏をかかれ、当たり前のようにリードされる。
忍足は知っていた。可憐の優秀さも。公式試合ー--普段試合をしていない人相手にこそ強いことも。
ずっと見ていたから。