「つぅっ・・・・ーーーーーー・・・・かれた~!」
登山が終わり、部屋に行って荷物の仕度をしたら夕食。そして直ぐに風呂。
それが終わって自由時間になる頃には、生徒の多くはくたびれきっている。
「も~駄目~!私もう一歩も動けないだわよー!」
「あは・・・でも、桃美じゃないけど私も今日はしんどいかも。・・・ふあ。」
「私もしんどいです・・・結局自力で登頂もしてないのに登山が効いてます・・・」
「いや、効くって!誰でも効くって、この山!もー、絶対私明日筋肉痛だわ・・・」
「「明日?」」
「ちょっとー!千百合も美嘉も酷くない!?ねえ!来るわよ、明日来るわよ!そこまでおばさんじゃないわ!」
「あはははは!あれ?紫希ちゃんどこ行くの?」
「ちょっと、喉が渇いたので自販機に行こうかと。確か来る時に見かけたと思うので。」
「紫希、動けない私の分もお願い!何か炭酸!」
「自分で行けよ。」
「ガビーン!いやそうなんだけどさ、ついでって奴で・・・」
「ふふ、大丈夫ですよ。行ってきます。千百合ちゃんと美嘉ちゃんは、何か要りませんか?」
「えー・・・じゃあお茶。」
「私、何かフルーツ系のお願いしたいな。」
「分かりました。じゃあ行ってきますね。」
就寝時間まで後40分。
紫希は部屋を後にした。
もうそろそろ就寝なので、用事の無い人は部屋の外をうろうろするんじゃありませんよ。
なんてわざわざ言われなくても、立海はなんだかんだ出来の良い生徒が多いのでみだりにうろちょろする人間は少ない。それでなくても今日は登山でくたびれてる生徒が居るので、結構廊下はひっそりとしていた。
ぺたぺたぺたぺた、と自分のスリッパの音が聞こえる。
(皆と移動の時は気になりませんでしたけど・・・山の中なのもあるんでしょうか?凄く静かです・・・)
都会に住んでいると、夜であっても遠くの方から車の音が聞こえたり窓から外灯の光が窺えたりするものだが、山中のこのホテルはそういう喧騒は一切ない。おまけにホテルな物だから防音がしっかりしていて、廊下に出ると壁一枚の向こうには生徒が居るのに話し声が殆ど聞こえて来ないのである。
(それに涼しい・・・廊下でじっとしてると、ちょっと寒いくらいですよね。のんびりしてたら湯冷めしそうです。)
自分も疲れているし、早く行って早く帰ろう。
そう思って、財布を胸に移動の時に見た自販機を目指したのだが。
「あ。ありまし・・・」
あった。
あったのだが。
「・・・暗い。」
節電の為であろう。通ってきた太い廊下は電気が煌々と点いているのだが、自販機の設置してある非常用の細い廊下はもう消灯されてしまっていた。
普段だったら殆ど気にならないのだが。
『何ぞ憑いとる可能性もーーー』
(いえ・・・ジョークですよ、ジョーク・・・)
そう、あれはジョークだ。だから大丈夫なんだ。
あの時体が重かったのは、荷物を背負っていたからだ。
今体が怠いのは、登山の疲労が抜けていないからだ。
なんだか寒いのは山の中に居る所為で、しんと静まり返っているのは皆部屋で盛り上がって廊下に出て来ないからなんだ。
だから大丈夫。
大丈夫。
「春日?」
「ひゃうっ!!あ、ああ、桑原君・・・!」
「お、おう。え?どうした?どうかしたのか?」
どきどきする心臓を胸に振り返ったら、そこに居たのは幽霊でもなんでもない普通に元気な友人であった。
ああ良かった。振り向いて誰も居なかったらどうしようかと思った。
「ご、ごめんなさい・・・ちょっとびっくりしまして・・・」
「いや、良いけど・・・どうした?顔色悪いぜ?」
「な、なんでもないんです本当に!ちょっとその、お昼にホラー系統のジョークを聞いたのを思い出してしまって・・・」
「・・・仁王か?」
「え。あ、ええと・・・」
「仁王だな・・・彼奴は直ぐそういう事するからな。」
何故わかったとでも言いたげな紫希だが、桑原からしたら他に誰がそんな事するか、考えてみれば丸わかりである。そういう話をジョークと称していると言う時点で、下手人は誰だか分かったような物。
「あそこの自販機だろ?行こうぜ。」
「いえ、大丈夫ですから、」
「大した事じゃねえよ。すぐ其処なんだから。」
情けない、暗い所にある自販機まで行くのをこの年で怖がってるなんて。
暗い所にあるって言っても、明るい廊下の部分がもうそこに見えてるのに。
「春日も幽霊だとか怖いのか?五十嵐が怖がるのは知ってたけど。」
「紀伊梨ちゃん程苦手ではないですけど・・・そうですね、好きだとは言えないかもしれません。心霊スポットだとか聞くとそこに近づくのは止めようと思いますし、怖い噂だとか心霊写真だとか・・・誰かに「ほら幽霊だよ」って言われてしまうと気になってしまうんです。」
「ああ、まあ気持ちは分かるぜ。周りの奴が騒いでると、なんとなく自分もそんな気になって来るよな。」
「はい。」
紫希もそうだが、桑原もこの場に居ない紀伊梨なんかも素直なのである。
素直だから周りが煽るとその煽りをまともに食らって、どんどんその気になってしまいやすい。
逆に千百合や仁王、棗なんかは根がひねくれ気味なので紫希達とは逆。周りがその気になればなるほど、自分は白けていくタイプだ。
「明日とか、夜間だけど大丈夫か?」
「多分、明日には気にならなくなってるんじゃないかなと。それに基本、グループ行動みたいですし・・・」
「そういえば、何かLINEが来てたな。メンバーの希望はあるかどうかとか。」
「はい。最終的に決めるのは棗君ですけど。今日の夕食時が締め切りだったと思うので、今頃部屋でグループ決めを考えてるんじゃないでしょうか?」
「黒崎のみぞ知る、か・・・」
「ふふふ!大丈夫ですよ、明日はもう暗いですから。事故に遭ったら大変ですし、棗君も冗談でグループを決めるような事はしませんよ。」
「そうか?なら良いんだけどな。」
4人分のジュースを買う紫希と、付き添う桑原。
こうして居る間にも、又明日は近づいてくる。