Camp school:Mountaineering 2 - 1/8


千百合は苦労が嫌いである。

特に頭に「無駄な」がつくそれなんか、最悪最悪アンド最悪だ。
手を抜いて良い場面があるのなら、思う存分抜けば良い。便利な物があるなら使えば良いし、ショートカットがあるのなら先ず間違いなく自分はそこを進むタイプ。

だからこういう時、千百合は機嫌が急降下してしまうのである。

「ふざっ・・・けんな・・・死ねっ・・・」

「黒崎さん、怒ると余計しんどいよー?」

(わかってるわ!)

昼食を摂った山の中腹から、山頂のホテルまではまだ山を上らねばならない。

が、なんと。
此処から先は、バスに乗せては貰えないのだ。

バスが通れないわけでは無い。
でも、教師陣としては初日の今だけで良いから登山させないと、山道を歩かせる機会を逸してしまうのである。

バスの道がどこへでも通っているからといって移動の全てをバスにしてしまったら、何の為の林間合宿なんだかわからないじゃない・・・という学校側の考えは、教育としては極めて妥当なのである。

教育としては。
千百合はそういうのが死ぬほど嫌いなのだが。

(ああ苛々する・・・・)

最早誰から何と言われたって苛々の種にしかならない事を自分で良く分かっているから、今千百合は同じクラスの紫希からも誰からも離れて黙々と1人で歩いている。

別にもう小学生じゃないのだし、教師側もいちいち山道で列になって歩けとかクラスごとに固まれとかそういう事は言わない。その点だけは気楽であった。

(暑いし。怠いし。面倒くさいし時間かかるし。)

「・・・・・・」

ザッザッザッザッザッと速い足音のペースで、俯いてガンガン進んで行く千百合に、周りは何か言い知れぬ気迫を感じてつい道を開けて遠巻きにしてしまう。

(せめて車道を歩かせろよな。何、登山者用ルートって。そんなのわざわざ作らなくて良いんだよ。)

ザッザッザッザッザッ。

(ああ怠い怠いもう嫌。1秒で良いから早くホテル着きたい。)

「・・・黒崎?」
「・・・・・」
「黒崎。」
「あ”あ”?ああ、なんだ桑原か。」
「お、おう・・・」

桑原は思わずたじろいだ。

桑原は出発順の関係で、ずっと千百合の前方に位置しながら歩いていた。
しかし苛々と共にペースが上がる千百合の足取りは徐々に差を縮めて行き、終いに桑原をそれと知らず追い抜いたのだった。

桑原としては友人が真横を通ったので何気なく声をかけただけなのだが、振り向いた千百合の不機嫌丸出しの表情に、声をかけたのをちょっと後悔した。

だが千百合的には桑原だったからまだ相手をする気になれたようなものだ。
真田と今かちあったら先ず間違いなく怒鳴り合いは避けられなかっただろう。これでもちょっとイライラを抑える気にはなったのである。しんどいのは何も桑原の所為ではないのだし。

「何?」
「いや、何って言うか用事があるわけじゃないんだが・・・どうしたんだ?何か急いでないか?」
「こういうの嫌いなの。怠いからとっとと終わらせたいだけ。」
「ああそういう事か。でも、ペース的にそんなにしんどそうには・・・」
「体力が辛いんじゃない。車道があるのに歩かされるのが嫌いなの。別に上るのがきついから苛々してるわけじゃないわよ。」

(ハイキングとか散歩とか全否定だな・・・)

時間の無駄だとか思ってそう、と思う桑原の推測は正にぴしゃりである。
アウトドアの類は基本千百合にとって大敵で、わざわざ苦労をする為にあれこれ工夫してるようにしか見えないのだ。

「まあ・・・そういう事なら急いでる所を引き止めて悪かったな。」
「いや、それは逆にこっちこそこっちの都合で愛想無くてごめん。でも今はマジで苛々してるから、見かけてもなるべく話しかけてこないでくれたら助かる。」
「ああ、そうする。」

しかし千百合も稀有な人種だと思う。
体力きついから登山嫌いという人は沢山居るが、体力余裕だけど登山が此処まで嫌いな者も少なかろう。

「じゃあね。」
「ああ。・・・って、おい!黒崎、黒崎・・・」

言うが早いか又さっさっと登りだしてしまう千百合の耳に、桑原の声は最早シャットアウトされている。

(・・・あれは良いのか?いや、良くない気がする。しまった、さっき気づいて言えれば良かったんだが・・・)

どうしよう。
ペースを上げて再度追いつくか。

でもそうすると今度は自分のペースが狂うし、何よりペースを上げた所であの勢いの千百合に追いつくかどうか。

どうしようかな、でもやっぱり放っておいて何かあったら千百合が可哀想だし、今から頑張れば比較的すぐ追いつくだろうから・・・と早足になりかけた桑原の耳に、神の声が。
いや、神の子の声が。

「やあ、桑原。」