ゴロ。
ゴゴゴゴゴゴ・・・・
「又腹減らしてんのかw」
「ちーがーうー!なっちんわざと言ってるっしょー!」
「雨降りだしそうだな・・・」
「降り出しそうというより、間違いなくくる。後30分少々の間に雨になる確率は97.50%だ。とはいえ、予報では今日は一日晴れということだったが。」
「まあ、山の天気は変わりやすいって言うしな。春日とブン太は大丈夫か・・・」
「そうだな。途中で足止めを食らっていなければ、計算上はギリギリで間に合う所だが。」
「およ?ギリギリなの?紀伊梨ちゃん迎えに行こっか?」
「「「しなくて良い。」」」
「五十嵐は元気そうじゃの。」
「ああ。紀伊梨って確かにホラーは嫌いだけど、台風だとかは別に平気よ。今はまだ真っ暗って時間でもないし。」
「なんじゃつまらん。」
「つまらんとはなんだ、つまらんとは。」
「仁王君。そういう冗談は止めなさいと言った筈ですよ。」
「ふふっ。柳生も苦労するね。」
「ええ。今日は春日さんにもよろしくない冗談を言った所で・・・」
「あんたね、相手は選びなさいよ。」
「じゃから選んどるぜよ、いかにも仕返しに来なさそうな奴を。」
「しばくぞ。」
「おい!それは弱い者いじめというのだぞ!」
わあわあ騒ぎつつ未だ登頂しない者たちを待つ一同。
だがこうしている間にも頭上の雨雲が、都会ではなかなかお目にかかれないスピードでもくもくと積み重なっていく。
「ねえ、郁!丸井君に言っちゃうよ?良いよね?ね?」
聞こえてきた林の声に、一同は振り返った。
「ねーねー!ブンブンの話したー?どったのー?何言うのー?」
「あ!ああ、あのね?ええと話せば長くなるんだけど・・・私と郁、途中まで丸井君と登ってたんだけどね?郁のスマホが落ちて下の道の方に転がってっちゃって・・・」
「・・・丸井が取りに行ったのかい?」
「・・・僕は良いって言ったんだ。」
「郁!」
「本当のことだ。僕は自分で拾いに行くって言ったんだ、なのにああだこうだ理由を付けて結局行ってしまって・・・どういうつもりなんだか。」
幸村は隣に居た千百合の手をトン、と叩いた。
抑えて、の合図である。千百合が郁の物言いにイラッとしているのを感じているのだ。
「成程。春日は兎も角、丸井はもう登頂していて然るべきと思っていたが。」
「そういう事情なら、今居ないのは頷けるね。」
「えー、でもでも早くしないと雨降って来ちゃうお!」
「桑原、もう遅いかもしれないが一応連絡を取ってみてはくれないか。」
「ああ・・・」
「紫希にも連絡しないとなw今どのへんなんだろw」
「しかし、降ってきよったら急かすのもそれはそれで不安じゃの。」
「そうだな。足元に気をつけて、もしなんなら雨が納まるまでどこかで足を止めても良い。」
「いえ、そこまでしなくとも良いと思いますよ。」
柳生の落ち着いた声が割って入った。
「なんでー?」
「こういう時に備えて、手は打ってありますから。おそらくそろそろ来ると・・・」
「お、居た居た。よっ!」
「お疲れ様です・・・」
「あー!紫希ぴょん!ブンブン!お帰りー!」
柳生の言う通りであった。
もう今正に振りだそうかと言う時に、ギリギリで紫希と丸井はホテル前まで辿りついたのだった。
「良かったー!間に合ったんですな、2人とも!」
「あ、いえ、間に合わなかったんです・・・」
「何それ。どういう事?」
「あっちのリフトで登ってきたんだよ。ほら、雨降りそうだろい?」
「手は打ってあるってこれの事かw」
「ええ、雨の中登らせていては怪我人が出るかもしれませんので。こういった時は先生方が後ろの方の生徒から、順次リフトに乗せて行く手筈になっているんです。」
紫希と丸井はスマホを拾った後、まだ登山中の生徒を回収していた新海に拾われて、こういう時は元々こうする準備があった事、怪我をしては元も子もないからなんて話を2人で聞きながらこうして山頂まで運ばれてきたのである。
「え、そんな手が使えるんだったら私もそうすれば良かった。」
「たるんどる!最初から怠けようとするな!」
「あーうっせ、うっせ。」
「もう止めとけお前ら・・・で?ブン太、携帯はあったのか?」
「あ、そうだ!一条は?」
「・・・!」
郁はちょっと肩を揺らして丸井を振り向いた。
その眼に、申し訳なさと言うより何か威嚇の様な色が混じっているのを見て、丸井はいっそ感心した。よくこの状況で身構えられるものだ。
「あったぜ!ほら。」
「・・・・」
手渡された包みを開くと、見るも無残な汚れ具合のスマホカバーがお目見えした。でもさらにその中を開くと、ちゃんと自分のスマホが中に納まっていた。
「わ。ピンクだ、タオル可愛いね!」
「それ、春日のだからな。」
「「え?」」
「手伝ってくれたんだよ。落ちてく所見てたからって、探してくれてたんだぜ?」
「あ、あ、丸井君それは、」
紫希的には言わなくて良いのである、それは。
恩に着せるつもりがないのもあるし、一条にはなるべく丸井を良く見て欲しいから、丸井にはどっちかというと自分の事をもっと言って欲しい。
「・・・そうか。有難う、春日さん。恩に着るよ。タオルは洗って返そう。とはいえ、泥が落ちるかどうかわからないがね。」
「いえ良いんですそんなの!私何もしてませんから、たまたま通りすがっただけで、」
丸井には一言もお礼を言わないで、それでいて紫希には丁寧に謝辞を述べる。
よくもまあここまで露骨に無視が出来るものだ。周りに角が立つ事を全く厭うていない。
これは想像を遥かに超えて作戦が難航しているぞ・・・と、紫希は思ったし周りも皆そう思った。
丸井と、それから幸村以外は。
「皆さーん!」
パン!と、不思議と良く通る上里の手拍子の音がホテル前に響き渡った。
「全員揃ったようですので、これからホテルに入りまーす!各部屋の代表者は担任の所へ!ルームキーを取りに来てくださいまし!」