「ビードロズの皆さんは、今年入学してきた1年生のみで構成されたバンドです!南湘南小学校でも活動されていたそうですので、知っている人も中には居るんじゃないでしょうか!リーダーの・・・五十嵐さん?お友達は居ますか?」
「すみません、失礼。通して下さい、失礼!」
柳生は進む。
ステージに向かって進む。
記憶力は良い方だ。仁王がどの位置に居たのかは、さっきの一瞬でちゃんと頭に入っている。
柳生が迫っている事など露知らず、司会からMCを回された紀伊梨は、元気のいい大声で挨拶をした。
「はいはーい!皆初めましてー!ビードロズでーす!」
「「いぇーい!」・・・って、あれ?皆、声を出すんじゃないの?」
「おい、ちゃんとやれよ。」
最前列の幸村と丸井が、訝しげに他の面々を見つめる。
「しまった、今か。」
「その、悪い!」
「すまん・・・」
やり取りに観客が笑う。
棗も笑う。
「wwwww」
「彼奴らはもう。」
「ちょっとちょっとー!やなぎーは分かってないっぽかったけど、桑ちゃんと真田っちは今恥かしがったっしょー!いけませんよそんなんじゃ!よーし、もっかいだー!」
すう、と息を吸う紀伊梨。
「皆さん初めましてー!ビードロズ、でーす!」
「「「「「いぇーい!」」」」」
今度は、皆。
観客の皆も声を出してくれた。
(もう少し、もう少し・・・)
柳生は急ぐ。
追及は兎も角、確保は今しておきたい。
もう其処に見えているのだ。輝く銀髪で前方を見るその姿。
さっきから見ているあの携帯で。
誰に何を指示しているのだろう。
「皆ありがとー!さてさて!じゃあ早速始めよっかな!・・・本当は、ちょっとメンバー足りない気もするけど。」
挨拶しながら、紀伊梨はちゃんと最前列を探していた。
幸村が居る。
真田も、柳も、桑原も。
さっきまで居なかった丸井と仁王も、ちゃんと居た。
でも、紫希は居ない。
いや、見当たらないだけだ。きっと居るんだ。
紀伊梨は必死にそう自分に言い聞かせる。
「まあ、気の所為だよね!それはそれとして、そっちの友達はめっちゃ携帯見てるしー!ニオニオ!ニオニオの事だよ!もー始まるんだからこっち見てよー!」
(まあ、待ちんしゃい。)
仁王はゆったり微笑んだ。
もうすぐ揃う。
ちゃんと揃うから。
「ようし!じゃあ行くよー!1、2ーーーー」
「待った!」
遮った声は柳生の物だった。
紀伊梨は目をパチクリさせて、千百合と棗は若干不安を抱いた顔で、柳生を見た。
「すみません、少しそこの人に用があるんです。」
其処の人。目の前で携帯を弄っている仁王である。
千百合は思わず、うわ、と呟いてしまった。
「お邪魔してしまってすみません。どうぞ、ライブは続けーーー」
そう言って柳生は仁王に腕を伸ばした。
瞬間。
指が触れる寸前に、右腕が捉えられる。
「・・・女の子に用事があるなら、もっと丁寧に。紳士なんだろい?」
「は・・・!?」
腕を掴んでいる丸井。
その傍らで、携帯から顔を上げる人。
喉仏が無い。
そう思った次の瞬間、男子よりも細い右手が銀髪をーーー銀髪のかつらを取った。
「「「ーーーー紫希!」」」
「皆・・・!」
最前列。
丸井の隣。
携帯を見るフリをして、俯いて顔を隠し続けていた紫希を見て、柳生は混乱のあまり状況を忘れてしまった。
なんだこれは一体。
どういう事だ。
呆気にとられる柳生の腕を、丸井は引っ張った。
「ちょ・・・!」
「まあまあまあ!折角来たんだから、見てから用事とやらに行けよ!な?」
「いや、そういう話では、」
「騙されたと思って見ろって、損させねえから。最前列だぜい?ライブとか嫌いか?」
「いえ、嫌いというわけではないですが、」
「なら良いじゃん!ほら、こっちこっち♪」
「しかし、それでは、」
「ねー!本物のニオニオはー?」
紀伊梨がマイクのスイッチを入れたまま尋ねた。
それである。
柳生が気にしているのは正にそれ。
「ここじゃ。」
全員が一斉にそっちを向いた。
ステージの前方上。
2階のバルコニーに凭れ掛かって居るのは、生徒会長、須藤。
ではなく。
「・・・プリッ。」
かつらを取って、表れる銀髪。
くるくると生徒会の腕章を回す手は左。
「・・・・・!凄いぞニオニオ!」
皆が呆気に取られる中、紀伊梨はニコッと笑って、サムズアップした。
「・・・よーーーーし!皆揃った所で!改めまして、いっくよー!其処の眼鏡の男子も!」
「わ、私ですか?」
「そう!」
紀伊梨は柳生に向かって、ウインクを飛ばした。
「しーーっかり!見ててよね!」
ビードロズ、始動。