Large bet 2 - 6/7

はあー・・・、と誰かが息を吐くのが、最前列で見ていた紫希達の耳に届いた。
無理もない。

正に圧巻。溜息しか出やしない。

暴力的なくらいの勢いで観客を飲み込むビードロズの演奏は、いつか音楽室で聞いた時よりも格段に上達している。

しかし。

1曲終わったから休ませてくれる・・・などと思うのは甘い。

(照明・・・)

紫希が少し其方を気にしたのと同時。
スポットが消えて、カラーライトが回りだす。

赤、青、緑、黄色。
暗い中でめくるめく色に又胸が躍って、そして。




紀伊梨の声が、再び全員を引っ張る。




「Nobody knows our tomorrow♪Everybody knows true happiness♪」




再び光るスポットと、動きのスローになるカラーライトの中で、2曲目。
ポップに飛び跳ねるスタッカート気味の音達が、講堂中を跳ね回る。

アップテンポな曲しか縁が無いなどと思うなかれ、紀伊梨はバラードもお手の物だ。
ノリの良い曲の時は元気を感じられる声音がとてもマッチするけれど、スローテンポになると、少し幼さを感じる紀伊梨の声は、曲に幼気さを添えてくれる。




「ねーえ・覚えてる♪何かをはーじめた、時の♪
抑えきれない♪無我夢中になってしまう、気持ちを♪」





歌う紀伊梨の後ろから、千百合は目で幸村を探した。

カラーライトに染まる、大好きな人の顔。
彼の為にこの曲は作られたのだ、と知ったら、幸村はなんて思うだろうか。




『おおお・・・・これはこれはwなんというローテンポw』
『えらく曲調が大人しいわね。あんたにしちゃ。』
『これは、どういうテーマの曲なんですか?』
『ふっふーん!これはねこれはねー!ズバリ!ゆっきーの事を考えて作った曲だよ!』




「そう、いつまでも♪変わらぬ想いなど、なーい♪
けどこの空♪どこでだーって♪繋がるからー♪」





千百合の口が、ほんの少し開いた。

(精市・・・)

マイクも無いし、ボーカルでもないし、絶対絶対、誰にも聞こえないけれど。
ただ、貴方にだけ聞こえれば良いと思って、千百合は紀伊梨の陰でそっと、歌った。




「ど・う・かー♪笑っていてー!君が決めた、そ・のー、道で♪」




紀伊梨が、紫希に詩を書いて欲しいと言った意味が、千百合は入学してから漸く分かった。
国語の問題だけじゃない。
紫希はいつでも、自分達の心を的確に表現した詩を書いてくれる。




「寂しくなったら、会いに行く♪その時は、抱きしめてー・・・」




(こんなものだったのだな、軽音楽というのは。)

真田は、ビードロズというバンドの存在は幸村から聞いていても、実際に聞くのは此れが初めてだった。

ハッキリ言って、真田はロックとかポップが苦手である。何が良いのか分からないし、煩いし。
だからビードロズの応援も、「友人がやるから」というだけだった。
音楽的な興味が其処にあるわけじゃなかった。

でも。

(・・・これは悪くないな。)




「君の背を・ただ♪追いかけてーいた、日も、ある♪
でも、何故かな♪懐かしいだけじゃー、ない、気がーする♪」





(すげえ・・・!)

桑原はただただ感心しきりだった。

真田とは逆に、音楽が好きでロックでもポップでもそれなりに聞く桑原は、実は小学校の頃1度レインボーフェスタにも行った事がある。

コンテストでもなんでもないフェスタは、正に玉石混合。
レベルの高いバンドも、反対にそれなりでしかないバンドも居たが、その何れと比べてもビードロズはレベルが高いと言わざるを得ない。

(高校生顔負けだな。)




「わーすれても、良いさっ♪もう一度おもーいだーして♪
やりたいとー思った時のーこーとっ♪さあいざ、Re start♪」





(流石だ。思った通りだった。)

柳はステージを見ながら微笑んだ。

周りを見渡して、分析しなくたって分かる。
皆、呑まれている。
ビードロズというバンドの放つオーラに。

目が離せない。
息も吐けない。

3人が3人共フルパワーでぶつかってくる所為で、観客側も本気になる。

来る、と分かっている自分だってそうなのだから、何も知らないでいきなりこれを見せられた観客は、尚更そうだろう。




「Everybody knows true dreams♪Everybody hopes true dreams♪」




(これはええもん見せてもらっとるぜよ)

バルコニーに凭れたままステージを見る仁王。

気分が良い。
大体は静かなのが好きなのに、今、この大音量の中に居てそれを心地良いと思っている。

それはビードロズの実力。
手を抜かない、全身全霊のサウンドが聞く者に不思議な快感を与える。
一音、一音。一言、一言に全身全霊で。

見ろ、階下の様子。
皆中てられて、浮かれて、嬉しそうに。

人のポカン顔が何より好きな自分だけど、こういうのも悪くない。

(さて・・・)

皆がステージに釘付けになっている中、仁王はそっと下に目を走らせた。

(良し、ええぞ。)

微笑む仁王の目線の先。
ステージの最前列。

柳生比呂士。