そろそろ戻ろうか、と言い出したのは幸村だった。
が、実際の所どちらかというと、戻りたいのは千百合の方だという事は、2人ともお互い分かっていた。だから幸村は気遣って自分の方から言い出した。
あまり長時間離席していると、皆はそれだけ長い時間いちゃついてるんだなーと思うだろう。千百合はそういうのが嫌いだった。
後それから、もう一つ。今日はもう一個だけ、ちょっとしたイベントがある。それには全員揃っていないと締まらないから。
でも、それはいつもの話。
今日は流石にちょっとそれが辛かった。
一瞬だけ触れた唇が、まだちりちり熱い。
微かに甘い痛みさえ感じて、どう頑張っても意識がそこにばっかり向かう今の状態で、戻って皆に混じれと言われても流石に難しい。
どうしていれば良いのか分からない。自分を客観的に見られない。普通に振舞えているのかどうかがわからない。
冷蔵庫にしまっておいた夕食とか、零したお茶とか、そんな騒ぎじゃない。
何も飲み食いできる気がしない。
想像はちょっとくらいはしたことがあるけど、知らなかった。
ファーストキスってこんな感じなんだ。
「・・・・・・」
「・・・・ううん。」
「・・・精市?」
「ああ、何でもないよ。ただ、どうやって戻ろうかなと思って。困ったな。」
浮ついた気分なのは幸村も同じだった。
キスの直前まで別れる別れないの話をしてたせいで、猶更落ち着かない。
本当は、手だけでも良いから今はずっと繋いで居たい。
なんだか、まだ油断すると千百合が離れていくような気がしてしまうから。
「まあでも、流石に戻らないと五十嵐と丸井が可哀想だしね。ケーキがまだだし・・・あ。」
「え?」
「・・・そうだ、千百合。悪いんだけど、ちょっと先に一人で戻っていてくれないかな。」
「え、何で。出来るけど。」
「大したことじゃないんだけどね。でも、誰にも見られたくないんだ。ちょっとしたサプライズだから。」
「????・・・まあ、分かんないけど分かった。すぐ来るんでしょ?」
「うん。すぐ行くよ。」
何なんだろうか。
良くわからないけど、何だかやたらに楽しそうだし。
まあ。良いか。
千百合は手を軽く振って、その場を後にした。