Overnight party 3 - 1/6


たらふく食べて、お風呂に入って。
ひと段落したら、後はもうやらなければいけない事なんて殆ど残っていない自由時間である。

棗がこんな事もあろうかとと買っておいた何組かのトランプとUNOを合わせて、個人になったりチームになったりしながらやいのやいのやって。

ものの1時間もすると、まあ。

「zzzz・・・・」
「マジで此奴、こういう時にいの一番に寝るんだからさあ。」

紀伊梨は、ソファベッドの上で実に堂々と寝ていた。

「まあまあ。もうお疲れなのでしょう。観戦しかしていなかったとはいえ、今日一日色々ありましたし。」
「そもそも紀伊梨は早寝だからなあwここまで起きてただけでも頑張ったよ、もう22時だしw」
「む?もうそんな時間か?普段なら、夕食と入浴を済ませた後でも、もう少し時間があるが。」
「まあ、今日はね。食事もお風呂も、沢山時間をかけて楽しんだから。自由時間が短くなるのは、当然と言えば・・・・んん、」
「お前も眠そうねえw早寝組だもんなw」

そう、欠伸を嚙み殺す幸村も、どちらかというと早寝。
普段だったらもうとうにベッドに入っている時間である。

「健康優良児じゃのう、夜はこれからじゃないんか。」
「お前はそう言って朝に寝坊をしているだけだろう!たるんどるぞ、先月も何度朝練を抜けたんだ!」
「プリッ。」
「お前達2人は平気そうだな。」
「ああ、まあ。俺は、店の掃除とか手伝ってたらこのくらいの時間になる事はよくあるし。」
「俺も。弁当の準備とかしてたら、普通に寝るの夜11時とかになっちまうし・・・ん?」

そういえば、紫希も早寝な方だった。以前夜電話した時にそれは知った。

「春日ーーーーあ。」

「zzz・・・・」

紫希は壁に背を預けて眠っていた。
ソファベッドで大の字になって眠る紀伊梨と正反対に、紫希は体育座りをするように膝を立てていた。

「春日さんも眠っておいでですか。」
「まあ・・・元々春日は、体力がちょっと心もとないしな。」
「まあ疲れとるんじゃろうの。」
「えー、でもどうしよ。2人とも眠いなら部屋まで引き上げたいけどさ。」
「運べるかって話よねw紫希にはどうにか起きてもらって、紀伊梨はもう今日だけ幸村に我慢して貰って、えーと後は、」
「そもそも、運ぶのはそこまで難しくはないと思うが。」
「「え?」」
「別にいけるだろい、大人でもねえし。同級生の女子の一人くらい。」
「いやいやいや、幾ら2人とも重い方じゃないからって、そんな・・・え、いける?マジで?」
「可能だ。心配なら、丸井。やってみせてくれ。」
「俺?」
「この中ではお前が一番非力だからな。理論上、お前が出来るなら全員出来る事になる。」
「OK。」

何かちょっと、男子としての自信のようなものが薄れていく棗の前で、丸井は紫希の隣に腰を下した。

「・・・・・」

(・・・やっぱ、チビ抱えるのと何か違うんだよな。)

いや、幼児より圧倒的に大きいし重いから当たり前なんだけど。

でもそういう事だけじゃなくて、なんだかさっきのケーキみたいに思ってしまうのだ。
丁重に丁寧にしないといけないような。
幼児より丈夫だと分かっているのに、肩に腕を回すことさえ何だか乱暴にはしづらい。

「よい・・・しょっ。」
「うわ。マジだ。」
「持ち上がるのかよw嘘だろ信じられんw」
「どうじゃ、重いか。」
「そこまで?真田のスマッシュのが重いだろい。」
「殺人事件じゃんかw」

今までずっと三強怖いと思っていた千百合と棗は、認識を改めた。
三強だけが怖いんじゃない。此処にいるテニス部全員、徐々に規格外に片足を突っ込みだしているのだ。

「じゃあ、五十嵐は誰に頼もうかな。」
「では俺が行く。さっき話も出たしな。」
「話が出たとは?」
「いや、大した事じゃない。こちらの話だ。」
「というか、柳も出来るの。マジで?」
「まあ、この程度はな・・・よし。」
「ああ、柳はおんぶなのか・・・」
「どんなやり方でも運べるが、これが一番楽だ。誰か、扉を開けてくれ。」
「ん。」

この中でもう起きてる女子は千百合のみである。
それを自覚して、千百合は部屋までの先導役を買って出るべく、客間の扉を開けた。
そして丸井がそこを通ろうとする。

「・・・ちょっと待って。」
「え?何?」
「・・・・・はい。」

千百合は、だらんと下がった紫希の腕を、胸の上に置いてやる。

「別にぶつけねえよ?」
「そういう話じゃない。」
「?」
「・・・まあ、おまじないというか気休めみたいな感じ。」
「む、腕を下げていると何か良くない事でもあるのか?」
「へえ、知らなかったな。そうなのかい、千百合?」
「いや・・・・・・悪いことがあるっていうか、こっちのがよりよい。と思う。みたいな。」
「ああでも、ベッドとかで腕だけはみ出て下がったりしてると、なんとなく怖いよねw」
「確かに、体の一部だけ放り出されているというのはなんとなく不安を覚えますね。布団などから、足だけ出てしまっている時などもそうですが。」
「ふむ。確かに、それは良い事とは言えん。是正すべきだな。」
「ほう?これしきの事で不安になるのは、たるんどるっちゅうわけじゃないんか?」
「そういう見方も出来るが、そもそも日本人として境界を跨ぎ続けるというのは極めて好ましくない事であって、」

良い感じに話が逸れて内心でホッとしつつ、千百合は廊下を進んで部屋を2つほど通り過ぎた所・・・紀伊梨の部屋の扉を開けた。

「はい。」
「お邪魔しまーす・・・お。結構綺麗じゃん。机の上以外。」
「ああ、机の上以外はそうだな。」

別に机の上も、汚いというわけではない。
ただ、乱雑なのである。埃こそ無いが、教科書とかノートがもうめちゃくちゃに積まれていて、そこに普段近寄ってないのがとても良くわかる。

「えーと、じゃあベッドの上に紀伊梨。で、そこに紫希。そこは私だから空けといて。」
「ベッド柵付き?」
「此奴寝相悪いから。」

だからこうして1ステップ増えるのだとでも言いたげに、千百合は紀伊梨のベッドの柵を開けてやる。

「はい、柳。」
「すまないな。五十嵐、行くぞ。」
「そんな気遣いしなくても、どうせ起きないけど紀伊梨は。」
「zzzz・・・・」
「逆に紫希は起きるよ。」
「分かってるって。そうっと、そうっと・・・」

ちょっとした事で覚醒するのは幼児そっくりなんだな、とか思うとちょっとおかしくて、丸井は笑いながら布団の傍にしゃがんだ。

「よっ、とーーーー」

「んう・・・・」

「・・・・・!」

丸井は心臓が止まるかと思った。
ずっと腕の中で力を抜ききって眠っていた紫希が、急に身じろぎをして、丸井の方にそっと顔を寄せてきた。

頬が触れる。吐息が触れる。
近い。

「・・・・・落とすかと思った。」
「よくやったな。」

苦笑しながら柳に肩をポンと叩かれて、丸井はどっと息を吐いた。

本当に落とすかと思った、真面目に。
落としたらこれ、自分が悪いんだろうか。そうか?いや、紫希が悪いとも言いづらいのだが。

今度こそ布団にちゃんと眠ったままの紫希を下ろして、丸井はやっと立ち上がれた。
ああ恥ずかしかった。

「・・・・・・」
「流石に今のは叱るのが気の毒だ。」
「分かってるわ。」
「叱る?何が?」
「何でもない。」
「こっちの話だ。」
「ふうん?」

早く気持ちを切り替えたいと言わんばかりに、心持ち足早に廊下に出る丸井を追うように、柳も部屋から出ようと歩き出す。

「・・・任命しても良いと思うが。」
「ライト消すけど・・・え?何、何か言った?」
「いや。何でもない。」