Overnight party 4 - 3/7


千百合は早起きをした。

今日は早起きしようと思っていた。
だから早起きした。

取り合えず手洗いに行きたくて、それから喉が乾いてるから何か飲みたくて、まだぼんやりした目で階下に行こうとすると、階段の時点で何だか良い匂いが鼻をくすぐってきた。

スマホを見ると、まだ5時45分。
相変わらず親友は勤勉だなあ、なんて思いながらダイニングへの扉を開けた。

「・・・・・!」

「よっ、よっ・・・そお、れい!」
「・・・・!凄いです丸井君、私フライパンであおるの出来なくって、」
「だろい?まあ女子は出来なくてもしょうがねえよ、フライパンって重いし。落としたら台無しだしな。」
「そうなんです、それが怖くて・・・あ、マジックソルトは要りますか?」
「あ、要る要る!取ってって言おうと思ってたんだよ、サンキュ♪」

千百合は暫し呆然とした。色んな意味で。
てっきり紫希は、いつものように一人で先にキッチンに立って、静かにとっくりとっくり朝食を作ってると思っていた。

そしてこの品数。
いや11人分だから、量は絶対必要なんだけど。でも今の時点でこれだけ出来てるって、相当頑張ったんじゃないのか。一体何時から起きているんだ。

「あ、千百合ちゃん!おはようございます、何か飲まれますか?」
「ああおはよ・・・水頂戴。」
「はい。」
「はよ。お前も早えな、昨日遅かったからもっと寝てると思ってたぜ?」
「ああまあ、もっと寝てたいは寝てたい。」
「?寝れば良いじゃん?」

紫希はコップに水を入れながらちょっと苦笑した。
うん、寝れば良いんだけどね。

「言っておいてくれれば、起こしに行きましたよ?」
「いや、そこまでして貰うのも。こっちの都合だし。」
「?」
「良いの、こっちの話。それより、あんたはなんで起きてんの。」
「俺いつもこのくらいに起きてるけど?朝飯と弁当作らねえといけねえし。」
「あー、そっか。あんたも作れる方なんだっけ。」

どうも千百合は、紀伊梨がそうであるせいも手伝って丸井の事を食べる専門として見がちだ。昨日のケーキは美味しかったけど、あれもお菓子だったし。
そうか、飯も作れるのかこの男。

「・・・紫希。」
「はい、何ですか?」
「・・・楽しい?一緒に作るの。」

「はい、とっても!」

千百合は小さく溜息を吐いた。
こういう所だ。どうあがいても丸井しか出来ない所。
どんなに仲が良くても、自分達じゃこうはいかない。

こんなに友達が増えたのに。この顔をさせられるのは、現状で丸井一人だけなのだ。

「・・・・・」
「・・・あ!ご、ごめんなさい、私、その、」
「え、何。何か謝るような所あった?」
「違うんです、これはお詫びなのに私が楽しんでいては・・・」
「詫び?何が?」
「昨日運んだから。」
「・・・・あー、」

そうか。それで今こうなのか。
いや。仮にもし詫びの話がなくても丸井なら、起きて紫希が一人で朝食を作っていたら混じるだろうけど。

千百合は丸井のこういう所が嫌い・・・というか鼻につくのだ。
本当にこの丸井ブン太という人間は、現実を自分の都合の良い方向へ持っていくのが上手。

「っていうか、別にお詫びだから楽しんじゃだめっていうのもおかしくねえ?良いじゃん、楽しい方が。楽しくしてろい。」
「いや、何かを詫びるのって、普通詫びる方はしおらしいもんじゃないの。」
「で、ですよね・・・」
「駄目。」
「でも、」
「だーめ。駄目なもんは駄目、被害者命令だからな?」
「何その当たり屋かヤクザみたいな響き。」

言いながら千百合は水を貰って、テーブルの方に戻った。
色々感じる所はあるけれど、取り合えず今この場で邪魔をする気はない。
ある意味居る事そのものが邪魔と言えば邪魔なのかもしれないけど、まあ。
どうせすぐ出ていくことになるから。




「・・・・ん、」

幸村はゆっくり上体を起こした。

スマホを見ると、今正にアラームが鳴る寸前で、鳴る前に自分で止めた。
この時間なら、紫希はもし起きられれば朝食を作ってくれているだろう。
後は皆寝ているんじゃないだろうか。

部屋を見回すと、本当に皆・・・真田と柳まで二度寝を決め込んでいて、幸村は小さい声で笑った。しやしないけど、確かにこういう光景はちょっと撮りたくなる。例え起きたら本人達から抗議されると分かっていてもだ。

「・・・・あれ?」

部屋を出ようとした時、はたと気づいた。
全員居ると思っていたが、居ない。

丸井が居ない。




階段を下りると、誰の物とも特定出来ないほど少しだが人と人が会話する声が聞こえてきて、ああやっぱりと幸村は思った。
紫希一人なら、いつも誰も起こさないようにと実にひっそりひっそりと作っている。

「おはよう、春日に丸井・・・千百合?」
「はよ。」

千百合は、扉を開けてすぐ正面にあるテーブルに座って、何をするでもなくぼんやり水を飲んでいた。

キッチンの方ではやっぱり紫希と丸井が居て、実に楽しそうに料理している。

「マスタード大さじ1・・・幸村君、おはようございます。」
「おはよ、幸村君。マスタード入れんのそれ?味の想像つかねえんだけど。」
「美味しい・・・と、思います。私は好きでというか、うちの家はずっとこうなんですけれど。」
「へえー・・・味見して良い?」
「あんた、さっきから何回それ言うのよ。」
「美味そうなんだよ、食いたくなるだろい?」
「飯食う前に腹いっぱいになるわ。」
「ならねえよ、心配すんなって。」
「ふふふっ!どうぞ、丸井君。」
「サンキュ♪・・・あ、美味い!すげえ!」
「本当ですか?それなら良かったです。」

基本紫希と丸井が話していて、偶に千百合がそこに挟まる。
ごくごく穏やかな朝の時間に、幸村は微笑んだ。

「千百合、早いね。」
「うん。まあちょっと頑張った。」
「頑張った?別にお休みなんだし、頑張らなくても良いと思うけど・・・」
「だって今日も暑いじゃん。」
「?そうだね、晴れてるから。」
「だから。」
「・・・・?」

紫希は小さく笑った。
幸村は偶にこういう事をする。いや、この場合幸村に気づけというのも酷だけども。

「幸村君、朝はパンにするか御飯にするか、先に言っておいて下さい。」
「先に?」
「取っておきますから。」
「・・・・・・!」

幸村が目を見開いた。やっと気づいてくれたらしい。

「・・・有難う。じゃあ、今日は御飯にしようかな。」
「分かりました。じゃあお気をつけて。」
「うん。ごめんね千百合、待たせちゃって。行こうか。」
「ん。」

そう言って、2人で出ていく千百合と幸村を丸井と紫希は見送った。