「なあ。」
「はい、何ですか?」
「幸村君と黒崎って、どこ行ったの?」
何となく2人を見送った丸井だが、何しにどこへ行ったのか全く分からない。何だか当たり前みたいに出て行ったけど。
「幸村君のお家です。お花にお水をあげに行くんです、幸村君の毎朝の習慣なので。」
「へえー!こんな日まで?」
「行ける距離ですし、幸村君にとっては趣味というか・・・楽しみの一つなので。」
「ふうん。何か幸村君らしいな、手抜かない感じが。」
「ふふっ。そうですね、まめですよね幸村君って・・・あ。」
「ほい、スプーン。」
「有難うございます。」
義務だったら、こんな日くらいと思ってさぼる事もあるかもしれない。
でも、好きな事だからさぼらない。寧ろ進んでやりたい。
幸村は趣味をガーデニングとしているが、実際問題手をかけられる時間は減っているので、猶更出来ることはやりたいと思っているのもある。
「・・・あれ?」
「どうしたんですか?」
「黒崎って、花好きなわけ?」
「え?」
「だって、幸村君の事待ってたじゃん?デートしたかっただけ?」
「ああ・・・ううん、そうですね・・・」
千百合は幸村を待っていた。
今日もおそらく朝の水やりはするだろうことも知っていたし、水やりというのは基本朝にする事なのも千百合は知っている。特に夏の日差しのきつい日は猶更。
ただ。
あの知識とか行動が、花が好きゆえかと言われると。
「・・・正直、嫌いとは言わないですけれど、そんなに好きでもないとは千百合ちゃん自身が言ってます。」
「やっぱり?」
「はい。でも水やりに行こうと思うのは、やっぱり幸村君が好きだからだって思いますよ。」
「幸村君が好き、ねえ・・・あれ?俺塩入れた?」
「さっき入れられてましたよ。胡椒がまだです。」
「あぶね、サンキュ!」
「ふふっ・・・千百合ちゃん、あんまり物事に興味がない方なんだって、自分の事を言うんですけど。でも、大切な人の大切なものを大切に出来る子なんです。私、千百合ちゃんのそういう所、とっても素敵だと思います。」
千百合はよく、どうでも良いと言う。
世の中にはこのどうでも良い、という言葉を、嫌いという意味で使う人間も多いが、千百合は文字通りの意味で使う。
どうでも良い。は、どうとも思っていないという事。
だから大切にしたいと誰かがーーー恋人が、友達が、家族が言うのなら千百合はそれを大切にする。
大切にしない理由はないけど、大切にする理由はあるから。
自分の大切な人が、大切だと言う。千百合にとっては、それで十分だ。
「そうだな、彼奴そういう所可愛いよな。」
「はい!」
「・・・はははっ!」
「な、何ですか?」
「お前って、人が可愛いって言われてるとすげえ嬉しそうにするよなー。自分が言われると急にがちがちの顔になるのに。」
「そ、それはまあ・・・だって、」
「嫌なの?」
「い、嫌っていうわけじゃ・・・嬉しいとは思うんですけど、ただその、恥ずかしいですし、それに何か、信じられなくてというか・・・気を使われてるのかなとか、考えてしまって・・・」
「別に今更気を遣うも何もねえだろい?友達なんだし。」
「そ、そうかもしれませんけど・・・」
「まあ良いや!嫌だってんじゃないんなら、これからも言って良いんだろい?」
「え、」
「良いよな?」
「いえあの、良いというかその、無理してそんな事しなくても、」
「別に無理なんかしてねえよ?」
「・・・・・・」
「はははははっ!」
「どうして笑うんですか・・・!」
「だってお前、本当に今言ったような顔して・・・あはははは!」
嬉しい。
恥ずかしい。
でも猜疑心あり。
そう書いてあるような顔をしている紫希は、丸井にはまだまだ理解できない発想も多いけど、でもやっぱりいつも素直だと思う。
そして、そういう所がいつも。
「・・・可愛いよな、お前。」
「お願いですから、包丁を持っている時にそういう事は言わないで下さい、危ないですから・・・!」
「そう?じゃあ包丁終わったら言って?」
「ええええ・・・・!」
手が止まってる紫希に、丸井はまた笑う。