その頃、紫希は埋め合わせとして、丸井と映画に来ていた。
ポップコーン(紫希はSサイズキャラメル味だが、丸井は塩&キャラメルのハーフ&ハーフタイプLサイズである)とドリンクを抜かりなく買って、席を探して座る。
「おお!結構人入ってるな。」
「そうですね。シリーズの中でも、人気な話なので。」
「へえ。ああでも分かる気もするぜ、主人公がいっちばん良い男だろい!」
「そうですね。他のシリーズの主人公は、結構皆義務感で動いてる感じがしますけど・・・」
「日下部は、自分で決めて自分で動くよな。読んでる時も、『こうすりゃあ良いのに』って思った通りに動くから、すげえ気分良かったぜい?」
「ふふふ。そうですね、そういうのって楽しいですね。登場人物とシンクロするっていうか・・・あ。」
「お。もう始まるのか、結構早え。」
ふっ、と照明が暗くなる。
スクリーンに各種映画の予告編や、注意事項が流れ出すと、ああ映画見に来たなあという感じがする。
今日見に来た映画、『憂暮れ』は、ジャンルとしてはジャパニーズホラーである。
しかし、ただただびびらせにくるだけではなく、ストーリーがちゃんとあるし、結構ややこしい設定や複雑なヒューマンドラマもある。
紫希は元々このシリーズのファンで、小説をずっと読んでいた。丸井も予習の為に読んだので、大体のことはわかる。
だから軽ーい気持ちでポップコーンに手を付けながら、丸井は始まるのを待ったのだが。
(おお・・・おお・・・うわ、止めとけってそっち行くの!ここ読んでる時も思ったんだよなあ、ろくなことにならねえだろい・・・)
怖い。
結構普通に怖い。
取り立ててホラー苦手なわけじゃない丸井でも、ちょっとびびる程度には怖い。
本を読んでいても、結局のところ映像的にはあまり怖いわけじゃないのだ。
だが、映画となると話が違う。視覚とか聴覚とか、本では絶対使わなかった感覚が恐怖を煽ってくる。
隣の紫希も似たようなものであった。というか、紫希の方が少しではあるが、より酷い。ホラーが苦手というより、煽られるとまともに受けるタイプ。
(ううう・・・・!お願いですから、お願いですから引き返して、ああ!後ろ!後ろ!ああう・・・!)
さっきから幽霊がばん!と出てくる度に、反射的に肩をびくつかせてしまう。
こういう時は混んでいて良かったと思う。がら空き状態で自分一人で見ろとか言われたら、結構な苦痛。
(丸井君が居てくれて、本当に助かります・・・ああ、またこのシーン・・・!)
今回映画化されたエピソードは、主人公とその友人が、トンネルに入る所から始まる。
トンネルを抜けたら見知らぬ廃墟に到達してしまい、様子がおかしいと戻るのだが、トンネルを引き返してもまた違う廃墟に出るだけで、現実の世界に帰れないのだ。
主人公達は何度も何度もいろんな理由でトンネルを通るのだが、そのトンネル内部の場面も普通に怖いため、何回も見るのが割としんどい。
(ポップコーンを食べる気になれない・・・丸井君、平気なんでしょうか・・・)
ちら、と横を見やると、丸井はたまに口が「お」の字に開いてたり、たまに上体がちょっと引いたりするものの、紫希よりは断然大丈夫そうである。
そして手に抱えているポップコーンは、普通に減っている。Lサイズなのにもう半分以下。人によっては「ホラーなんて物食いながら見るもんじゃない」とまで言われることもあるのに。
いろいろと凄い・・・と思っていると、丸井は紫希の視線に気づき。
自分のポップコーンを間に置く。
(・・・え、あ!そ、そうか、私がキャラメル味を食べているものですから、)
塩味欲しがってる、と思われたらしい。違う、そうじゃない。
ぶんぶんと首を振って、ポップコーンを手で押し戻して「大丈夫」アピールをし、また前を向いた。
しかし、向いたら向いたでやっぱり怖い。
『おい、太助・・・今、そっちに・・・!』
『え・・・うわあああああ!』
(う・・・)
もうポップコーン後にしよう。
諦めの境地の紫希は、自分の分のポップコーンをひじかけの備え付けスペースに置いた。
丸井はそんな紫希をしばらく伺っていたが。
「・・・・・!」
いきなり何かが肩をとんとんして、びく!としたら隣の丸井が声を殺して笑っていた。
ちょっと気恥ずかしくなりつつ、目でどうしたのか伺っていると、丸井はひじ掛けをとんとんと人差し指で軽く叩いた。
(・・・・・?あ、もしかして、もうポップコーン要らないと思われてるんでしょうか?)
残すんだったらくれ的なことか。なるほど。
そう思って紫希が自分の分を差し出すと。
丸井は紫希が出したそれを受け取り、元あった場所に戻す。
そして「えっ、」と思ったまま空中に浮いている両手の内、自分に近い方を握って。
ひじ掛けの上に着地。
(・・・・え、)
何が起こったのかわからなくて、映画のことを束の間忘れて、ひじ掛けの上の握りあった手を見る。
「・・・・~~~~!」
かっと顔が熱くなった。
恥ずかしい。色んな意味で。
男子と手を繋いで映画を見るのも恥ずかしいし、怖いんだと思われているのもちょっと情けない。怖いのは本当だとしてもだ。
やめてもらわないと、引っ込めないと、と思って抗おうとした。
瞬間。
『いやああああああああ!』
映画館に居た半数以上がびくつくような、渾身のホラーシーンの始まりであった。
そこかしこから「ひい!」とか「きゃあ、」とかいう声が漏れている。
丸井もびっくりした。もちろん紫希もびっくりした。
『やめてよ・・・やめてよ、来ないでよ・・・お願い、返事をして!誰か!誰かあ・・・』
(ああ、ここは・・・!)
ここ原作でも怖かったなあ・・・とか思うと、もう身構えてしまう。来るとわかっているから余計に怖い。
怖いけど。
「・・・・・・・」
左手があたたかい。
丸井が繋いでくれてる方の手が。
安心する。
(丸井君・・・・)
どうしよう。正直、頼りたい。あとでお礼はするから、甘えさせてくれるとすごくありがたい。普段だったら、どんなに怖くても誰にもこんな真似しないけど。
どうしてなんだろうか。丸井には甘えてしまいたくなる。
ちょっとだけ手に力を入れたら、丸井はぎゅっと繋ぎ返してくれた。
それで紫希には十分だった。