「・・・・・・・」
「・・・・・・・すげえ映画だったな。」
「はい・・・・」
上映終了後、紫希と丸井はちょっとの間席に座ってぼーっとスクリーンを見ていた。
他にも何人かそういう客が居た。
もう怖がり過ぎて、ちょっと疲れた。そのくらいびびらされた。
「ラストはいくら良い話って言ってもなあ。」
「そこまでが怖すぎますよね・・・」
「トンネルの中で追いかけられるシーンやばくねえ?」
「そこも怖かったですけど、私玄関を出て庭先に立ってたあのシーンが・・・」
「なあ!ぞっとしたよなあれ。周り明るいくせに、何かやたら怖えだろいあの場面。」
はあ、と疲労の溜息を吐いて、次は荷物をまとめて席を明けないといけないのだが。
「なあ。」
「はい?」
「もう大丈夫?」
「え?・・・・あ、ああ!ご、ごめんなさい、すみません、もう大丈夫です!」
「そう?遠慮すんなよ?」
「してません・・・」
「ははは!」
結局、映画の中盤から、2人はずーっと手を繋いだままだった。
離す隙間もないくらい怖かったし忙しい映画だったので、タイミングが無かったというのも大きいけど。
「あ、あの・・・あの・・・」
「ん?」
「・・・ありがとうございました。私、怖かったので・・・甘えちゃいましたけど、すごく安心しました。」
紫希は元々、手を繋いでくれとか要求したわけじゃない。それは本当だ。
でも、そもそもは怖さに耐えかねて丸井の方を見たのが発端だった。
ポップコーンじゃないなら、怖いのかなと考えた丸井の判断は実に正しかった。
だから紫希的には、甘えてしまったのとほぼ同じようなものだ。
そして丸井はいつも、こういう時明るく笑って言う。
「良いよ。もっと甘えろい。」
「そういうわけに・・・あれ?」
「ん。何か来たな、春日も?」
「はい、LINEです。」
一斉だ。ということは、何かが始まったな。
2人同時にそう思って、スマホを起動する。
カフェを後にすると、もう夕暮れ。
夕焼けのオレンジが町を染め上げる時間だ。
「もう日落ちてるんだ。早。」
「ああ、そうだね。気温はまだまだ下がらないけれど、暗くなるのが随分早くなった。」
ふと上を見ると、空の一部は最早紺色に染まりつつある。
その夜空と、夕暮れの境目の色。
「・・・白か。」
「え?」
「ほら、占いでさ。さっき、薄紫がラッキーとか出たじゃん。」
「うん。」
「だから、こういう時間の空って、赤と青混じって紫になってないかなって思ったんだけど。」
「ああ・・・そうだね、白いね。どっちかっていうと。」
空の色は絵具混ぜるみたいにいかないんだなあ。なんて思っている間にも、空は刻一刻と暗くなっていく。
「・・・・精市。」
「うん?」
「・・・・・あの。」
「うん。」
明日は土曜日である。
でも、部活がない。コート整備でお休みだ。
本来こういうのは夏休みの間にされることなのだが、これはどっちかというと学校側の配慮。夏休みは各部活にとって大切だから、学校始まってからにしてあげようという親切だ。
だから、明日も会おうと思えば会える。
会えるけど、空いてる時間全部自分に割けとは言いづらい。
遠慮深さというよりも、どっちかというと、千百合自身がひとりの時間も必要だよね派だからである。自分はテニス部に比べたら暇出来てるから一緒に居たいけど、幸村は暇じゃない。デート以外にだってやりたいことは山ほどあるだろう。
「どうしたの?」
「・・・・いや、ん?」
「あれ?」
スマホが鳴った。
「誰?兄貴?紀伊梨?」
「あはは!まあ大抵どっちかだよね・・・あれ、違う。」
「誰?」
「・・・弦一郎と柳だ。」
「テニス部の用事?」
「いや。それなら、テニス部のグループラインに来るはずだから。」
画面を覗くと、確かに真田と柳からだった。
『明日空けられる者は居るか?』
『ある程度の人数が集まれれば、宝探しをしないかと思うのだが、どうだ。』
このメッセージの後に、写真が付いている。
倉庫っぽいものの前に2人が立っていて、何やら古い紙を広げている。
「え、何。どこそこ。何それ。」
「ここは、弦一郎の家だね。確か前、蔵だって言ってたかな。」
「この紙は?」
「待ってね、続きが・・・巻物だって。」
「巻物。」
「これを蔵で見つけて・・・宝のありかが書いてある、かもしれないから、確かめないかっていう・・・わあ。」
「レス早。」
テニス部は多忙なのか暇なのかどっちかにしろや、と思うくらい軽快に皆がレスを送る。
何時に何処集合?みたいな完全にノリノリのものから、見つけた経緯はとか何て書いてあるとか、情報を拾おうとするものまで。
「どうする?」
「え?」
「千百合は行くかい?」
「うん。」
丁度良い。
幸村が来なくても、退屈しないで済む。
見ていると、紫希も紀伊梨も来る気があるようだし。
「精市は?」
「うん?」
「明日暇なの。」
「うん。ふふ、やりたいこともあったけど、宝探しの方が面白そうだから。良いや、また今度で。」
幸村は結構こういう所もある。
テニスの場から外れると、割と「面白そう」を優先してしまう所。
「だから行くよ。」
「やった。」
「え?」
「あ、」
しまった。つい口から本音が。
そしてつい視線を外してしまう。これは千百合にとって恥ずかしい時のくせみたいなものなので、振舞としては逆効果なのだが、目を合わせる方が辛いのでやってしまう。
「・・・・・・」
「気を使ってくれてたの?」
「・・・・そんな良い物じゃないけど、」
「あはは!良いのに、そんなこと。どんなことでも、俺にもっとねだってよ。」
「そうは言っても忙しいのに。」
「忙しいからさ。空いてる時間に可愛い彼女の我儘を聞いておかないで、一体いつ聞くっていうんだい?」
幸村以外の人間からこんなこと言われたら、多分千百合は寒くって寒くって仕方がない。本気に見えないんだよとかバカじゃなかろうかとか、そんなことばっかり思うだろう。事実、紀伊梨に言い寄ってくる男の中には、ちょいちょいこういう系統のことを言う男も混じったりしてきたし。
どうして幸村だけがこんなにも特別なのか。
それはまあ突き詰めると、言い回しとかの問題じゃなくて。
忙しいと言って本当に鬼のように忙しい所とか、我儘を聞くと言ったら本当に聞くところとか、そういう部分が好きだからなんだろう。
「今日はもう帰ろうか。」
「うん。」
「明日も、一緒に行こう。」
「・・・うん。」
頭上では、1番星が輝き始めた。