その後も可憐は一人で本を探し続け、しばらくした時だった。
「あ・・・・」
ふと目に留まったのは、さっき網代が見ていた本。
タイトルに「月姫奪還」とある。
さっきはタイトルまではっきりと見えなかったが、閉じた時に表紙は目に入った。この本だ、間違いない。
(へえ、シリーズだったんだっ。)
よく見るとこの辺には、ほとんど同じ背表紙デザインのものが、ずらりと並んでいる。
背表紙をよく見ると、小さい字で「アルデバランシリーズ」と書かれていた。
「月姫奪還」は1巻ではなく、全体から見ると結構中盤の方であった。
というか。
(な、長いっ・・・・!これ何冊あるのっ!?そもそも、もう終わってるのかなっ?)
まだ続いてるのかそうでないのか、それすらもわからない。
網代が手に取っていたし、ちょっと興味が沸いていた所だったのだが、シリーズの中盤、しかもかなりの長編となると手が出しづらい。途中からいきなり読んでも、わけがわからないだろうし。
やっぱり戻そうかな・・・としまいかけた所に、背後から声がかけられた。
「あれ、桐生さん。」
「あっ、滝く・・・ああっ!」
「わっ!大丈夫!?」
戻しかけた所で視線を本棚から移したために、可憐は戻すどころか隣の本を棚から落としてしまった。
「はい、どうぞ。」
「ご、ごめんね滝くんっ。」
「いや・・・ああ、アルデバランシリーズか。」
「滝君、知ってるのっ?」
「うん。僕もまあまあ好きだよ、これ。桐生さんは?」
「実は、私は読んだことなくてっ。面白い?」
「うん。ただまあ、結構コテコテのファンタジーだから、そういうのが苦手な人は駄目かもねー。」
「ふうん・・・・」
可憐は、手に持った1冊を見て、ふと思った。
「・・・・あの、」
「うん?」
「これって、難しいお話っ?」
「確かに、シリーズには悲しいお話もちょくちょくはあるけど、どれ・・・ああ、月姫奪還か。」
「どうっ?」
「うーん、まあちょっとハラハラはするよ。冒険ものだしね。でもこれは、そんなに難しい部分は無いと思うけど。どうして?」
「ちょ、ちょっと・・・これを難しい顔で見てた人が居たから、そうなのかなって・・・」
なんと。
たったこれだけなのに、滝は笑って言ったのだ。
「網代さん?」
「えっ!?」
「あはは、当たりだ。僕も結構やるねー。」
「ど、どうしてっ!?」
「いやあ、網代さんはこれ嫌いだろうなあ、と思って。」
「そうなの!?」
「うん。趣味に合わないと思うよ。シリーズ通してだけど、特にこれは・・・・」
滝は「月姫奪還」を手に取って見下ろした。
「・・・感情移入出来ないんじゃないかなあ。特にヒロインに。」
「そうなの・・・?」
「ああでも、別に桐生さんにもそうだとは言わないよ。読んでみても良いと思うし。ただまあ、どっちみち最初からの方が、わかりやすいけどね?」
「あ、あはは・・・・」
この膨大なシリーズを、最初から。
流石にちょっと腰が引ける。
でも。
ちょっと、月姫奪還を読んでみたい気持ちもあった。
何かと秘密主義な網代の、思考の片鱗に触れられそうな感じがした。