Carino - 6/7


だから可憐は、取り敢えずシリーズ1作目、「花の起こす病」を読んでみることにした。

部活が終わり、片付けも終わって、ジャージから制服に着替える友達を待つ間。
外のベンチで夕日をライトにしていると、なんだかいつもと違って新鮮な感じがした。

アルデバランはとっつきやすいファンタジーだった。
別に難しい所も無い。
話は進んで行くが、今の所人が大量に死んだりとかそういうことも無い。

が。

(・・・・ヒロインって、どれかな!?)

この話。
どうも群像劇みたいな所があって、間違いなくこのキャラがヒロインだな!うん!と断言できるような存在が、いまいち掴めないのである。
女子キャラは何人か出てくるけど、皆同じくらい活躍してるし。

(人物紹介の順番から言うと、ヴィオーラかな・・・?あ、でもこれって単に職業で区別して順になってるだけか、重要度順じゃないんだっ。じゃ、じゃあ誰っ!?)

滝の言ってた、網代が感情移入できないヒロインとやらが誰なのか、まるで検討がつかない。

(やっぱり、月姫奪還まで辿り着かないとだめかなあっ?でもあんな長いシリーズ、部活しながら読み進めても、一体いつになったらあそこまでーーーー)


「アルデバランや。」


はっと顔を上げると、おそらく帰り際なのであろう忍足と向日が、いつの間にか眼前に立っていた。

「よっ!」
「2人ともお疲れ様っ!」
「それ、文学フェアのか?」
「あっ!ち、違うのっ!フェアはまた別の本でやるよっ!それはそれとして、ちょっと興味があったから・・・あははっ!」

今回の課題の性格上、長すぎるシリーズ物はちょっとやりにくい。相当愛が無いと、多分無理である。だから可憐は最初から、フェア用の本としてはみていなかった。

それはそれとして。
興味が沸いてしまったから読んでるけど。

「はー・・・物好きなやつ。」
「まあ、アルデバランは軽く読めるさかい。そんな負担にもならへんと思うで。」
「・・・忍足君、知ってるんだよねっ?」
「結構好きやで。新刊出たら買うてるし。」
「へー。」

知ってる。
ということは。

「・・・ねえ忍足君っ。」
「うん?」
「これのヒロインって、誰っ?」
「は?お前、読んでるのにわかんねえの?」
「ち、違うのっ!だってこれ、何人か出てくるし、同じくらい出番あるしっ!」
「せやなあ・・・」

忍足は、考えを巡らすように、口元に手を当てる。

「・・・まあ、正確なことを言うと、可憐ちゃんの言う通りやねんけど。」
「「え?」」
「群像冒険活劇やさかい、ヒロインて何人か居んねんな。初期に出てきた子ら、皆これからもずーっと同じくらい出てくるさかい。」
「マジ?」
「まあそもそも、ヒロインが1人って決まりはあらへんし。」
「ま、そうかもだけどよ・・・」
「そ、そうなんだ・・・」
「ヒロインがどないしたん?」
「え、えっと・・・実は今日、滝君に「月姫奪還」の話をちらっと教えてもらって、その時にヒロインがどうのって話が・・・」

網代がどうの、は黙っておいた。
網代がこの物語のヒロインに感情移入しにくいであろう、というということが、どういう意味か可憐はまったく掴めていなかったからだ。

しかしここで忍足は、ちょっと目を見開いた。

「「月姫奪還」のヒロインはわかるで。」
「「えっ?」」
「これな、基本群像劇やねんけど。」

忍足は可憐から本を預かり、しおりを刺してめくり始めた。

「漫画とかアニメとかでもあるけど、いわゆるキャラクターごとのソロの見せ場回いうか、1人だけピックアップされて目立つ話ていうのんが、たまに混ざるねん。」
「へー!」
「「月姫奪還」もそのひとつやさかい、他の話ならともかく、これのヒロインて言うんやったら・・・ああ、あったわ。この子や。」

忍足は可憐に、巻頭のキャラ紹介ページ(これだけですでに十数ページ割かれている)の中から、1つの項目を指さして見せてくれた。


ーーーーカリノ・パウロニアン
店の会計を担当する付与魔術師(エンチャンター)。
明るく優しい性格と高いエンチャントスキルでチームの態勢を整える、サポートの要役。
眠りの深い体質であり、就寝、催眠、気絶時回復に時間がかかる。
幼少の頃から続いており、大人になるにつれ眠りはさらに深くなっているようだが…

「・・・・なんか、あんま大した事書いてねーな。性格って明るく優しい、ってだけかよ?」
「そら、登場人物紹介で、そない細かいこと書いても。内容が面白なくなるだけやさかい。」
「そういうもんか・・・で?こいつが何?」
「・・・・・・」
「おい、桐生!」
「あ、ああっ!ごめんっ!何っ!?」
「お前がヒロインがどうのって言い出したんじゃねーかよ!こいつがなんなんだよ!」
「え!えーと、あの、ほら、き、気に入ると思うって言われてっ!」
「まあ、カリノはそない尖った性格もしてへんさかいなあ。設定はちょっとややこしいけど。」

そう。
可憐はそれが気になったのだ。

明るく優しいカリノに対して、網代が感情移入出来ないであろう、と思われるのはなぜなんだろうか。

(性格の話じゃなくて、立場の話なのかなあ・・・?まあ、明るく優しいって言っても、キャラクター性はちょっとづつ違うもんねっ。)

読んでいったらわかるだろうか。

一番尖ってるのって誰?
女の子やったらアネシス。

などと忍足と向日が会話してるのを横耳で聞きながら、可憐は気が済んで本を閉じようとした時だった。

「侑士は?」
「うん?」
「どのヒロインが一番好き?」

可憐は閉じかけた本をまた開いた。
出てきた名前を調べるためである。

「ヒロイン限定なん?」
「別に男でも良いけどよ、今ヒロインの話してっからなんとなく。」
「別に、どれも嫌いやないけど。」
「どれか!」

「・・・・ほんなら、カリノ。」

「えっ?」
「へー!どの辺が?」
「まあ、出てくるとほっとするねん。個人的に。」
「ふーん。」

可憐は固まっていた。

網代が結構嫌っているヒロインを、忍足は曲がりなりにも一番好みだという。

可憐の中で、忍足と網代は感性が似ていると思っていた。
いや、今も思っている。思っているし、本人達もちょくちょく自分達は似ていると考えているような発言をしている。

でも、違った。

単純に、一コンテンツの一キャラクターに対して、好き嫌いが分かれてるだけ。といえば、それはそうなのだが。

「・・・・・・・・」

あの時の、網代の表情が、可憐には気になって仕方がなかった。
あんな顔を網代にさせるヒロインが忍足の好みって、そんなことがあるだろうか。

(ヒロインがってわけじゃないのかなあっ?単純に話の筋が嫌いだとか、そういう話・・・?ううんでも、そもそも嫌いって言うのも推測だし確認を取ったわけじゃないから、もしかしたら思い込みかも、)

などと考えていると、遠くの方から可憐ー!と自分を呼ぶ声がした。

「あっ、あかり着替え終わったんだっ!」
「俺らも行こか。」
「おう!じゃあな、桐生!」
「うんっ!二人とも、ばいばいっ!」

可憐は、急いで本を鞄にしまった。

今日はこれから、さらに網代と新城と4人で帰る予定だった。
網代の前で、アルデバランシリーズを広げるのは、なんだか憚られた。