Solicitation:1st game 2 - 2/6


「さて。こちらの番ですが・・・実はもう決めています。」
「そうなんですか?」
「はい。正に貴方ですよ春日さん。お願いします。」
「えっ・・・・」

柳生は最初から、桑原の後に紫希を持ってくるべきと決めていた。
幸村と並んでテニスの上手い真田に、調整の意味で殿を勤めて欲しい。
となると、向こうは千百合が最後尾と言っていたので、桑原の後ろか仁王の後ろという事になるが、紫希の性格からして仁王の後に据えるわけにはいかない。
良い的になってしまうのがオチだ。

「わ・・・分かりました、頑張ります・・・!」
「そう気負わなくても構いません。リラックスです。」
「柳生の言う通りだ。余計な力は抜かねば、出来る物も出来なくなる。」
「リラックス・・・リラックス・・・」
「・・・難しいようですね。」
「まあ、それでこそ春日だよ。」

リラックスって、度胸が要るよね。
幼馴染組の面々は、紫希が何がしかでがちがちになるのを見るとつくづくそう思う。

「なあ。」
「はい・・・?」
「お前この前の自信は何処行ったんだよ。」
「自信!?私、自信があった事なんて、」

ない、と言いかけて紫希は口を噤んだ。

いや。
あった。
そう言えばあった。

1週間ほど前、棗を説得した時。
皆と楽しむ自信ならちょっとはあると、確かにそう言った。

そういえばあの時も丸井が居てくれたっけ。

「あったろい?」
「・・・はい。でも、」
「なら大丈夫だよ。」

大丈夫。
大丈夫だ。
きっと出来るよ。

丸井は何時も紫希を正面から見てそう言ってくれる。

「・・・・はい、行ってきます。」
「おう、行ってらっしゃい。」

トン、と軽く背を押されて、紫希はパネルの方へ歩いて行った。

「・・・驚いたな。凄いね、丸井。」
「ん?」
「自分の事であんなに自信に溢れてる春日は、滅多に見られないのに。」
「自信に溢れていますか?」
「いや、明らかにまだ足らんだろう。」
「そんな事無いさ。確かに普通の人レベルになるのはまだまだ遠いけど、苦手な事に対してあんなに落ち着いている春日は、本当に珍しいよ。」

「さてw覚悟は良いですかw」
「あ、ちょ、ちょっと待って貰って良いですか?ちょっと思い出したくて・・・」
「どうぞw」

深呼吸を1つ。
頑張れ。
思い出せ。
あんなに色々教わったじゃないか。
丸井にも、塩飽にも小口にも。

「・・・すみません、やります。」
「おっけーwいっきまーすw」

パシュ、と音を立てて発射されるボール。

(は、速いです・・・いえ!)

落ち着け。
先日丸井に教えて貰った日、(嫉妬に狂った)塩飽のサーブの速さと容赦の無さはこんなもんじゃなかったろ。
あれに比べたらこんなの。こんなの。

「・・・えい!」

どうか何処かに当たりますように。
せめてボードの部分には返りますようにと願いながら打った紫希の球は、枠縁とパネルの境目に当たって、4番の部分に穴を開けた。

「おおー!凄ーい!凄いぞ紫希ぴょーん!」
「・・・吃驚した。」
「本気で驚いているな。」
「いや、悪いけど正直紫希は出来ないと思ってて・・・」
「フォームのぎこちなさは今迄で1番じゃがな。」
「仁王・・・」
「分かっとる。」

柳生も紫希も、予想を超えて出来る。これは思ってたより厳しいかもしれない。

「え、あれ、で、出来、まし、た?」
「ええ。4番パネルを落としましたよ、春日さん。」
「ああ。危なかったが、成功は成功だ。」
「春日。」
「丸井君・・・」
「大丈夫って言ったろい?」

不敵に笑う丸井の顔に、紫希は漸くじわじわと出来たのだと言う実感が湧いてきた。

「・・・はい!」

紫希も笑顔になり、一同の雰囲気が明るくなったところで、幸村はゆっくり棗の方を向く。

「・・・さて。次だね。」
「お題ですねw」

「は・・・!」

そうだった。
当てて終わりではないのだった。

「何が出るかなw何が出るかなw」
「それちょー懐かしー!」

あの音ではないけれど音と共に出るお題。

【任意の人を1人選び】

「ああああああ・・・・!」
「この時点で春日には辛いね。」
「幸村のように、自分1人で完結するものもあるにはあるのだろうが・・・」
「そうそう上手くは運びませんね。」
「ま、気楽に選べよ。」

そう言われたって気楽になんか選べない。
それこそもしさっきのビンタみたいなのが来たらどうしよう。
でも誰かは選ばなくちゃ。
しかも柳生の為を思うなら、相手チームから。

「ううう・・・」
「紫希、別に誰選んだって恨んだりしないから。」
「そーそー!誰でも良いっすよー!」
「・・・じゃあ、ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な・・・」

相手チームで未だお題を当てられていないのは、紀伊梨と柳。
その2人の間で、天の神様に聞いてみた結果。

「・・・柳君。」
「分かった。」
「ごめんなさい・・・」
「いや、気にしなくて良い。別に悪い事に当たると決まったわけでもないのだからな。」

でも良い事と決まったわけでもないですよ。
などと思っていると、棗は楽しそうにお題の続きを出した。

【(名前)お兄ちゃん(お姉ちゃん)呼びで、何かおねだりを1つ】

「おい。おい、クソ。」
「とうとう「兄貴」までも外れたか・・・」
「当たり前だろ!何このお題は、変態か!」
「えー!なんでー?楽しそ「当たっても許される組は黙ってろ。」
「確かに、言っちゃなんだけど、春日に当たったから救われてる感はあるな・・・」
「自分に当たってたらと思うと心底ゾッとせんぜよ。」

「・・・・・・・」
「真田、今当たらなくてホッとしてねえ?」
「お気持ちは分かります。私も呼ばれる側なら兎も角、呼ぶ側に回れと言われると厳しいものがありますから。」
「春日は呼ぶのは平気だろうね。寧ろ・・・」
「・・・ねだる方か、難があるのは。」

(どうしましょう、何か・・・何かお願い、何か・・・)

幸村の想像通り、柳をお兄ちゃん呼ばわりする事には紫希は然程抵抗が無い。
実際年上と見紛うほどしっかりしていると常日頃から思っているし。
ただ、何かおねだりと言われると。

「因みに、お願いを柳が達成出来なくても、クリアにはなるよw」
「そうなんですか・・・?」
「願うだけで良いと言う事だな。それなら、何でも遠慮しないで言うと良い。」
「ううん・・・」

叶える義務は柳には生じないのだから別になんでも、それこそコンビニでお菓子買って、とかでも良いのだが、真面目な紫希はどうしても真剣に柳への頼みごとを考えてしまう。

「・・・よし。決めました。」
「良いか。」
「はい。ゴホン・・・

・・・蓮二お兄ちゃん。よろしければこれからも、紀伊梨ちゃんと仲良くしてあげて下さいね。」

「・・・およ?私?」
「ええ。」

思えば完全に成り行きから始まった紀伊梨と柳の友情だが、今ではすっかり紀伊梨は柳に甘える事に遠慮しないし、柳もなんだかんだ面倒見るのを楽しんでいる節がある。
丸井や仁王など、あくまで対等な友達として紀伊梨と遊んでくれたり。或いは真田のように尻を引っぱたいてくれたり、そういう友達は居るけれど、良い意味でちょっと上から目線になって、紀伊梨を見守ってくれる友達が紀伊梨には居なかった。

いや、居た。
かつては居たのだ、幸村精市という名のその立場の人が。

でも千百合と恋人になって幸村が千百合のものになってからは、今迄幸村に対してしていた甘え方をする人の当てがなくなってしまっていた。
別に良いけれど、ちょっと寂しいな・・・と思っていた所に、柳は登場してしかも其処に甘んじてくれている。

いつか、柳も其処に居られなくなる日がくるだろう。
でも、それまでの間で良いから、叶うならよろしくしてやって欲しい。
柳と居る時の紀伊梨は、いつにもましてのびのびしている。

「困ったな。」
「え?」
「此処でいいえと言うと、俺は悪者になってしまう。」
「ちょっと待ってやなぎー!いいえって事は、やなぎー紀伊梨ちゃんと仲良くしてくんないの!?」
「さあ、どうだかな。」
「どうだかって結局どっちなのさー!ねー、やなぎー!やなぎーってばー!」
「・・・ふふふっ。」
「あー!紫希ぴょんまで笑うー!」
「あ、いえ、違うんですよ、」

「楽しそうだね、柳。」
「あれ、楽しそうなの?」
「楽しそうだよ。ちょっと分かりにくいだけさ。」
「・・・ふうん。」
「千百合は、嬉しそうだね。」
「まあね。」
「柳みたいなしっかりしてるタイプが五十嵐と仲良くしてくれると、こっちとしても嬉しいよね。」
「うん。」

(そういうお前らは我が子を見守る夫婦みたいじゃと言ってしまいたいナリ)
(おい、止めろ・・・)
(言わねえの?)
(おい、ブン太!)
(えー、だって言ってみたくねえ?)
(言いたいのは山々じゃが、自分のチームを攻撃する事になるぜよ)
(まあな。幸村君はノーダメージだろうし)

「・・・・」
「どうした真田w怖い顔してw」
「・・・彼奴は、又人の事ばかり願うと思っていただけだ。」
「まあまあw考え方を変える難しさはお前や千百合はよーく知ってるっしょw」
「ぐ・・・!」
「方向が違うだけで、目下努力中なのはお前らも一緒よw長い目で見ておやりよw」

それにもしかしたら。
誰より早くひと皮剥けるのは、千百合でも真田でも無くて紫希かもしれない。

(なあ、ウィザード様w)

「っくし!」
「ブン太?風邪か?」
「いや、引いてねえ筈。なんだけど。」