「さて、こちらの番ですね。丸井君、出られますか?」
「大丈夫ですか・・・?」
「おう!任せとけ。」
「うむ!気合十分だな!」
「まあな。今の俺に怖いもんはないぜ。」
「ふふっ。頑張って、丸井。」
もう今ので最大級の恥をかいた。
あれを上回る酷いことなんて多分起こらない。
「良いじゃんw微笑ましいじゃんw」
「うっせ。」
パシュ。
(お、これはなかなか。)
なかなか、なかなかだ。
ただ、自分には何も辛くない。
「よっ。」
軽ーい調子で丸井の返した球は、狙い通りに7番パネルを貫いた。
「やった!」
「ほう。全く狼狽えて居ませんね、丸井君は。」
「彼奴は、コントロールに関しては部内でも上級生レベルだからな。」
「そうだね。こういうのは得意分野だと思っていたけれど、予想通りみたいだ。」
「うーん、開き直られたか。ちいとまずいぜよ。」
「ブンブンすごーい!余裕のよっちゃんだー!」
「古い。」
「ぐ!」
「しかし実際、ブン太を揺すれなかったのは痛いな・・・」
「そこまで?」
「パネルを選ばない人間が、少なくとも3人になる。そういう事だ。」
「上手いなwビビったわw」
「ま、当然だろい♪で?ゲームの方は・・・」
パーパラッパッパー
「お?」
「アタックチャンスだw頑張れw」
「おう!よっしゃ、来いよ。」
【同性、異性から1人づつ選んで下の名前で呼ぶ】
「・・・へー。」
「存外簡単だね。」
「簡単か?同性の男は兎も角、女子の名前は呼びづらいのではないか?」
「呼びづらい人も居るでしょうが、丸井君の性格的にはそれ程難しくはないでしょう。」
「はい。ラッキーです!」
「仁王。」
「なんじゃ。」
「参考までに聞くが、そのスマホは何の為に起動しているんだ?」
「録音以外に何があるんじゃ。」
「あんたね。」
「えー?録音してどーすんのー?」
「あんたもね・・・」
さて。
好き勝手言われてる丸井だが、簡単なのは本当だ。
ただ、先ず男子は。
「なーんか、相手チーム誰選んでも面白くねえんだよな。」
「まあ、そうだろうな。」
「俺は普段から呼ばれてるしな・・・」
「丸井君。恐らく、男性はアタックなどという意味では、するだけ無駄でしょうから。誰でも呼びたい方を選んで頂いて構いませんよ。」
「そお?」
別に丸井に名前で呼ばれたからって何か思う男などこの場に居はしないだろう。
幸村から、とかなら言い知れぬ緊張のようなものが走りそうだけど。
「んじゃあ、幸村君。」
「俺かい?」
「おう。一度呼んでみたかったんだよな、精市君?」
「わあ・・・ふふっ。新鮮で良いね、呼ばれる方もなかなか楽しいよ。」
「わー、懐かしー!」
「何が懐かしいんじゃ。」
「初めてゆっきーと会った時の事思い出すなーって!」
親に手を引かれて、知らない大人に会って。
おじさん誰、と聞く前に、そのおじさんの足元から男の子がひょこんと顔を出した。
『紀伊梨。幸村精市君だよ。』
『幸村精市です。よろしくね、五十嵐・・・紀伊梨ちゃん。』
『・・・うん!よろしくね、ええと、』
「それでセイウチ君って言った!」
「たるんどる!人の名前を間違えるな無礼者が!」
「そもそもセイウチが人の名前だと思うなよ・・・」
「わざとじゃなかったのー!もーお母さんにも怒られたんだから許してよう!」
母、皐月はそれはもう怒ったが、当の幸村は可笑しそうにクスクス笑って、良いよ別に、と言った。
『セイウチくんじゃないの?』
『せい、いち。幸村精市って言うんだよ。』
『そっかー。あ!じゃあ間違えないように、精ちゃんって呼ぶね!』
『良いよ、紀伊梨ちゃん。』
「・・・そういえば紀伊梨ちゃん、初めてお会いした時は幸村君の事を『精ちゃん』って呼ばれてましたね。」
「ほう。それは知らなかったな。」
「今はやめたのか?」
「まあ確かに、今の状況では誤解の元になりかねませんしね。」
「誤解?・・・ああ。」
「るさい、こっち見んな。」
「わ、悪い、つい。」
「へえ。精ちゃんだったんだな。」
「もう結構昔の話だけれどね。」
「もはや懐かしいなwまあそれは後にしといて、ブンブン君女子は?どうする?」
「とりあえず黒崎は却下な。」
千百合を名前で呼ぶなんて、そんな怖い事出来ない。幸村から一言頂く事だけは避けられない。
無理。怖い。無理。
「しくじったの、なっちん。」
「ほんまそれよw」
「しくじっただと?」
「このお題はね?名前を呼ぶ人を選んで、って言う事で、なんだお前その子の名前呼びたいのかよ、って囃し立てるのが目的なのよw」
でも、丸井はその辺に対する気負いが他の者より薄いので、この中のメンバーでも特に効果的とは言えないのである。
「どうせならお前か仁王が良かったなw」
「なん・・・!?た、たるんどる!」
「趣味が悪いのう。」
「なんというおまいうw」
「紀伊梨ちゃん、丸井君に呼ばれた事は?」
「うん?ないお?」
「それなら丸井君、紀伊梨ちゃんを呼んであげて下さい。」
「春日は呼ばれた事があるのか?」
「ええ。初めてお会いした時、お前が紫希か、って言われました。」
「それ紀伊梨が「紫希ぴょん」としか呼ばなかったからでしょ。」
「五十嵐。お前はもう少し、改まった時に人を普通に呼ぶ事を覚えるべきだ。」
「柳の言う通りだね。それこそ、要らない行き違いの元だよ。」
「えー!」
(しかし、これは良いアシストですね。流石は春日さんです。)
これで丸井は、任意と言いつつ「紫希が紀伊梨を勧めたから」を言い訳にして、危なげなく・・・つまり恥をかくことなく選ぶ事が出来るわけだ。
まあそこまでしてやらなくても丸井は困らないだろうが、楽が出来る事は間違いない。
あーあ、サッとクリアされちゃったよ、な空気を幾人かが漂わせる中、丸井はあっけらかんとした顔で言った。
「じゃあ、紫希。」
紫希の頭は思わず処理を止めてしまった。
あれ?
おかしくはないか。
自分はいましがた紀伊梨を勧めた筈なのだが。
「おwまwえwここまでお膳立てされといてw何故紀伊梨を選ばないw」
「そーだよー!今ちょーワクワクしてたのにー!」
「え、任意じゃねえの?」
「いや、任意だけどな・・・」
「好きな奴選んだら良いんだろい?」
「確かにそれで良いのだが。」
別に悪い事してるわけじゃないから良いんだけど、突っ込み所多過ぎてもう突っ込みきれない。
「丸井。」
「ん?」
「丸井は、春日を呼びたかったのかい?」
「おう。」
「どうして?」
「なんとなく呼んでみたかったから。」
「駄目だわこりゃあ。」
「梨のつぶてだな。」
「なしのつぶてってなーに?」
「たるんどるぞ!勉強しろと何度言わせれば気がすむのだ!」
「だってー!」
「おい、Bチームリーダー。」
「はいなんでしょう、Aチームのリーダーさん?」
「此処は自傷したとして、リーダーとして、何かペナルティの1つでもくれてやる所じゃないんか?」
「自傷・・・まあ確かに、自傷と言える面はありますね。」
「じしょーってなーにー?」
「お前、向こうに居ったんじゃなかったんか。」
「だって真田っちが怒るんだもーん!で、じしょーって何?」
「自分の自の字と、傷という字で自傷と読みます。まあこの場合、自爆のようなニュアンスなのですが・・・」
自爆、という程自爆なわけでもないかな、と思った柳生がちら、と丸井の方を見ると。
「あの、丸井君、あの、」
「ん?」
「えと、その・・・上手く言えないんですけどその・・・」
「?あ、もしかして嫌だった?」
「違います!いえあの、そうじゃなくてあの、」
「?」
「あの・・・嫌ではないんですけど。」
「うん。」
「・・・なんだか恥ずかしいので、紀伊梨ちゃんも呼ばれたがって居ますし、次からはその、こういうお題は紀伊梨ちゃんを選んで貰えると・・・あ!ビンタとかは私を選んで貰って構いませんけれど、」
「いやそれはしねえけど。」
そんな事を話す紫希は、ほんのり顔が赤い。
それがなんだか、ちょっと可愛くない?なんて思ってしまったので。
「・・・紫希。」
「!?」
「紫希?」
「あの、丸井く」
「紫希ー。」
「止めてください、許して下さい、後生ですから!」
「こんなに鮮やかなフレンドリーファイアは初めて見ましたねえ。」
「やっぱり一言言うた方がええぜよ。」
「そうですね、検討致します。」
「ねえ、精市。紀伊梨じゃないけどフレンドリーファイアって何?」
「ああ、味方からの誤射の事だよ。」
「誤射・・・?」
「うんまあ、今回のあれは丸井は完全にわざとだから、厳密には違うけれどね。」
「黒崎だって紫希って呼んでるだろい?」
「なら棗君みたいに、紀伊梨ちゃんの事も紀伊梨と呼んで下さい・・・」
「え、やだ。」
「どうしてですか・・・!」
「別に良いけど、そこまで取り立てて呼びたいとも思わねえし。」
「酷いー!紀伊梨ちゃんの事も呼んでよ、ブンブンのケチー!」
「あだ、あて!叩くな!」