中庭には、ストラックアウトで良く見受けられるあの、3×3の9マスのパネル。
一同は各々自前だったりレンタルだったりのテニスラケットを持ち、パネルの前でチーム別に固まって居る。
「では公平なじゃんけんの結果w先攻はAチームになりましたのでどうぞw」
さて、トップバッターである。
ルールのおさらいをしよう。
パネルを弾く。お題をクリアすればその数字は消え、1~9まで消えたら1ポイントで、3ポイント先取したら勝利。
外してもお題は出るので、どちらにしろお題はやらねばならない。
の、ならば。
「取り敢えず、五十嵐。行ってきんしゃい。」
「うお!私?良いけどなんで?」
「お前さんならどんな目に遭っても構わんきに。」
「ええええええ!?ちょっと待ってよ理由はそれ!?酷くない!?」
「ほれ行け。リーダー命令じゃ。」
「ずーるーいー!ねえ!皆もなんとか言ってよ!」
「行ってら。」
千百合は軽快に片手を振った。
「それじゃない!」
「骨は拾ってやるから安心しな。」
「それでもない!ねえ桑ちゃーん!やなぎー!」
「まあ、仁王にも考えがあるのかもしれないし。な?」
「う・・・」
「どの道、お前に選択権はあまりない。リーダーは仁王なのだし、俺達は所属チームのリーダーの為に尽力しなければこのゲームは成り立たない。」
「・・・・ううう~~~!」
その通り。
柳の言う事は正論である事を、企画側である紀伊梨はよーく知っていた。
「もー!もー!分かったよ、行けば良いんでしょー!」
「準備は良いすかw」
「おうよ、なっちん!どんとこい!」
「む・・・五十嵐が先頭か。」
「仁王も茶化してはいるけれど、人選としてはかなり妥当だね。」
「五十嵐さんですか。彼女は、スポーツなど得意なのですか?」
「おう、大概なんでも出来るぜ。体を動かすことならな。」
「ええ。紀伊梨ちゃんなら、パネルは絶対落とせると思います。」
などと話している間に、棗がマシンのスイッチを入れる。
「そらw」
パシュ、と音を立てて飛び出てくるテニスボール。
紀伊梨はレンタルラケットを適当な・・・つまり自分にとってやりやすい姿勢で振りかぶった。
「そお・・・れええい!」
紀伊梨の返球は十分なスピードと威力で、真ん中5番のパネルを綺麗に抜いた。
「ほお、やるな。」
「彼奴、運動神経は良いからね。」
「綺麗に抜いたな。」
「ああ。あの分なら、少なくとも当てるのは楽だろう。」
「えへん!どんなもんだい!・・・で?お題は?」
その時棗のPCから、ピロピロピロン♪と音が鳴った。
ディスプレイがキラキラと輝き、ランダムに選ばれたゲームが浮かぶ。
【任意の人を1人選んで下さい。】
「・・・にんい?って読むの?ねーやなぎーどーいう意味ー?」
「意に任せる。つまり、自由にして良い、好きにしてよいという意味だ。」
「ほうほう!という事は、誰か好きな人を1人選ぶって事ですな!」
(やっぱりこういう事か)
(まあ、そうくるだろうとは思っていましたが)
これは所謂、巻き込まれ型ゲームである。
お題を当てたのは紀伊梨だが、紀伊梨に指名される事により、間接的にとばっちりを食うのだ。
「んー、じゃあリーダーだしニオニオ!」
「断る。」
「なんでー!?」
「残念だけど任意だからw選ばれた方に拒否権は無いのよw」
棗がもう1度Enterを押すと、続きが浮かび上がった。
【その人の良い所を3つ上げて下さい。】
「ふむ。罰ゲームと言っていたがこのような題目もあるのだな。」
「ええ。言い方上罰ゲームと言ってしまっていますけれど、やっぱり楽しい気分で遊んで頂きたいですから。」
「でも、仁王に良い所って3つもあるか?」
「ブン太・・・」
「どうじゃ、言えるか?」
「えーとね!先ずニオニオは、良い奴だよね!ライブ手伝ってくれたし!ありがとー!」
「・・・・・そうか。」
「柳生。」
「黒崎さん?」
「良く見とけ、あれ仁王の照れてる時の反応だから、覚えといたら得するかもよ。」
「ほう、それはそれは。興味深いお話です。」
「ふふっ。良いのかい、敵に塩を送って?」
「送れるような塩作る方が悪いって事で。」
「後ね、後ねえーと、変装!凄いよね!」
「まあ、本分じゃからな。」
あれ?おかしいな、今の自分達の本分は勉強じゃなかったっけ。
「後はー、えーと・・・あ!顔!」
「「「「「「「顔?」」」」」」」
「うん!かっこいー!イケメーン!ってクラスの女の子が言ってた!」
「ああ、俺もそれ聞いた事あるわw」
「マジか。眼科行った方が良いんじゃない。」
「でも仁王君、整ったお顔していらっしゃいますよ。」
紫希の発言に、皆なんとなく視線が仁王の顔面を向くが。
「・・・・確かに、あまりマジマジと顔など見る機会はなかったが。」
「ああ、十分「整っている」と形容して差支えない顔立ちだな。」
「表情も大人っぽいしね。」
などと、三強メンバー辺りは手放しで褒めるが。
「なんじゃ。」
「いや、その、かっこいいとは思うぜ?ただな、その、なんというか・・・」
「どう言ったものでしょうかねえ。」
「なんかこう、あー・・・あ、分かった!
お前五十嵐顔なんだ!」
丸井の発言に幾人かは吹き出し、仁王は固まった。
「・・・どういう意味じゃ。」
「改めて顔見ると、美男子だし美少女だな、綺麗な顔してんなって思うんだけど。でも付き合えば付き合うほど気にならなくなるっていうか、美男子とも美少女ともなんとも思わなくなるっていうか、そんな事忘れるっていうか?」
例えば、幸村の顔も丸井は美男子だと思って居る。
そして日常のふとした瞬間にも、ああやっぱり男から見ても綺麗な顔立ちだな、と思ったりする。
が、紀伊梨や仁王に関してはそんな事一切思わない。
こうして人から言われないと、いや言われたって、そうだっけ?そう言われればそうだったかも?程度の認識しか出来ない。
「ブンブン君wはっきり言い過ぎでしょw」
「え、そう思わねえ?日頃の行いっつうかよ。」
「えー!どうして、紀伊梨ちゃんは日々真面目に生きてるじゃーん!」
「俺だって品行方正に生きとるぜよ。」
「「「「「「嘘吐け。」」」」」」
「う、ううん・・・」
「春日、無理して擁護する必要はない。」
ねえわ。
とほぼ全員が思った。
「まあしかし、自分で言うのもなんじゃがもう少し地味な顔に生まれたかったとは思うナリ。」
「とんだナルシスト発言ですね。」
「言い方を選べよw敵が増えるぞw」
「ケロ。イリュージョニストとしては、顔を簡単に覚えられるのは避けたいんじゃ。」
「でも、基本的には顔は良いに越した事はないんじゃないか・・・?」
「それは違うのではないか?顔の造形など、人間の1要素でしかないではないか。」
「裏を返せば、要素の1つでは確かにある。人は見た目が9割という本も出ているし、見目というのは印象の上では大きい。」
「そーなの?じゃーさじゃーさ、私も実はけっこー印象良い?」
「ああ、良いんじゃないか?」
「桑ちゃん、ほんと!?」
「俺は少なくとも悪いと思った事はないけどな。」
「ああ。印象「は」良いぞ。」
「やなぎー、今なんか変な言い方しなかった?」
「気のせいだ。」
「お前は姦し過ぎるのだ!少しは大人しい女子になれ!」
「えー!無理ー!」
「んでも、顔が良い方がモテるから、そういう意味では単純に羨ましいだろい。」
「丸井君もかっこいいですから、羨ましがる必要はないと思うんですけれど。」
「いや、あのな・・・」
「はい。」
「・・・・・・・・」
嘘吐いてるだろ、とは言わない。
そうは言わないけれど、お前は性格的に友達皆、美少女と美男子に見えてしまうんだろ、とは思う。
要するに紫希の顔の評価と世間様からの顔の評価の間には乖離があって、だから褒めてくれるのは嬉しいけれど、紫希に褒められてもあんまり裏打ちにはならない。
と。
言いかけたのだけど。
「はい?」
「ううん?なんでもねえよ?」
「そうですか?」
「うん。」
裏打ちにはならないけれど、少なくとも紫希が自分をかっこいいと思ってくれてる事は今分かったから。
それで良いかなと思うと、丸井はなんだか訂正する気が失せたのだった。
一方。
「・・・・・・」
「うん?なんだい?」
「べっつに。」
もう少し地味な顔で生まれて欲しかったというのは、千百合が常日頃幸村に向かって思ってる事である。
もしそうだったら自分が背負っている苦労とかもやもやとか、もう少しマシになったかもしれないのに。
別に幸村が世間から見て美形じゃなくたって、自分は幸村が好きなんだから、
美形だからって寄ってくるのは止めてほしいと思う。
(いやでも、精市が美形なのは精市の所為じゃないから、あんまり機嫌悪くするわけにもいかないんだけどね。誰が悪いわけでもないし、精市の顔そのものは好きだし・・・)
美形だからとかじゃなくて、この顔が好きなのである。
口には出さないが。