「さて、次はこちらの手番だな。」
「折角だから柳生が決めちまえば?リーダーなんだし。」
「私ですか?ふむ・・・そうですね。」
とは言いつつ、自分が決めていいのであれば柳生は迷わない。
「では幸村君、お願いします。」
「ふふっ。良いよ、任せてくれ。」
「頑張って下さい、幸村君。」
「うん。」
「あっちは幸村か・・・」
「ま、そりゃそうよね。」
「手堅い人選じゃの。」
「えー?なんでー?」
「1番回ってくる回数が多いからだ。」
先頭打者というのは、動く回数が1番多い。次の手番が回ってくる確率が誰より高いからだ。
だから先頭に出来る人間を置くと、それだけで不利な状況を避けられる。
「行くぞ、プレイボールw」
パシュ、と発射されるボール。
(へえ・・・専用じゃない機械にしては、なかなかのスピードだ。)
「はっ。」
それでも自分の脅威には全くならない。
幸村の返球は左隅コーナーの1番パネルをサクッと落とした。
「おお!」
「やった!」
「ええ、素晴らしいです、幸村君!」
「うむ。流石は幸村だ。」
「そうかい?有難う。」
「ゆっきーすごーい!」
「大したもんじゃのう。」
「普通の顔して、当てにくい所を落としてくるな・・・」
「まあ、あっち紫希も居るしね。」
「ああ、中心部を残して置いたほうが良い、という配慮だろうな。」
ただ当てるだけでなく、後続が楽になるように配慮する。
その余裕が幸村にはある。
ピロピロ、の音と共に画面に表示されるお題も。
【今行きたい旅行先は?】
「ほらもーwこいつ運すらも味方に付けるからどうにもならないんだよーw」
「ふふっ。これはラッキーだね、答えやすくて。」
もっとも、幸村が易しいのを引いた分、後続は難しいのが残ってしまうわけだが。
「旅行先か。色々行きたいけれど、やっぱりフランスかな。」
「言うと思ったわよ。」
「お前は本当に美術が好きだな。」
「そうだね。千百合も弦一郎ももう少し、興味を持ってくれても良いんじゃないかと思うんだけど。」
「気乗りしない。」
「感性の表現はどうも苦手でな・・・」
「フランス良いなー!」
「俺も行きてえな。」
「ほう。五十嵐さんと丸井くんも、美術に興味がお有りなのですか?」
「柳生、この2人はフランス料理目当ての確率100%だ。」
「そちらでしたか。」
「いーじゃん!美味しーじゃん!」
「そうだぜ!ラタトゥイユとかガレットとかスフレオムレツとかファルシとか!」
「それなーに?」
「お前は食いてえんならもう少し勉強しろい。」
「モンサンミッシェルは外から見るのが一番綺麗らしいの。」
「そうなのか?」
「元々、彼処の中心部は修道院なんです。ですから、中の見学となると観光名所としての華やかなイメージとは変わって、結構素朴な雰囲気だそうですよ。」
「へえ・・・」
「周りを囲んどるのも軍事施設じゃしな。」
「あ!ただ、軍事施設の更にその周りは住宅なんかが並ぶ街ですので、ショッピングなんかも風情があると言われてます。」
「家もあるのか。土地代どのくらいだろうな・・・」
「なんじゃ、唐突に遠い目になって。」
実際の所、この中でヨーロッパに行った事があるのは紀伊梨、千百合に棗、幸村、仁王。
幸村はそれこそ、ダイレクトにフランスに家族旅行もした事がある。
「幸村くん、もう何度か既に行かれてますよね?」
「うん。でもまだまだ見たいものが沢山あるし、1度見ても2度目3度目になるとまた違った発見があるからね。」
「成程。幸村君と旅行すれば、学術的な旅になりそうですね。」
「美術館とかめっちゃ回りそうだよねー!」
柳生と紀伊梨の言うことは当たっている。
周り「そう」ではなくて、実際回るだろう。
美術とお花大好きな幸村は、どうしても趣向がヨーロッパに偏りがちなのだが。
「ああでも、一生に1度くらいは、ハワイ辺りに行っても良いかもしれない。」
「へえ、珍しいじゃん。良い所だけど、趣味じゃなくない。」
「うん、俺の趣味ではないよ。でも、新婚旅行の定番って言ったらハワイだ、って母さんがね。」
しまった、藪を突いた。
と、思った時にはもう既に遅し。
「ああ、確かに定番だろい。ハワイとかグアムとか?」
「そういえば、うちの両親も確か新婚旅行はグアムだったとか・・・」
「春日さんのお宅もですか、私の所もです。」
「リゾートって、やっぱりいいもんだよな!」
「はい。雰囲気が華やかですし、暖かくて穏やかですし。」
「海なども綺麗ですね。丸井君は、ハワイ料理等も楽しみのうちでしょうか?」
「そうそ、分かってきたじゃん♪」
「おおー!新婚旅行ー!良いな良いな、新婚旅行でハワイとか良いなー!」
「おい、よもやついていく気ではないだろうな。」
「しないよ!?真田っち私の事なんだと思ってんの!?」
「いや、お前さんは言い出しかねんぜよ。」
「ニオニオまで!?」
「まあ、幸村ならみすみすついて来させたりはせんじゃろうが。」
「うむ、その点は安心だな。」
「2人とも私の事勘違いしてないー!?ラブラブな新婚さんの邪魔なんかしないよー!」
ラブラブとか言うんじゃねえぶっ飛ばすぞ。
と、千百合は自らの喉の端まで出かかっているけど、紀伊梨より先にこのクソ兄貴をどうにかする方が先か。
「幸村さんのお好みは、熱海とかよりハワイの方ですかw」
「そうだね。熱海も良いけれど、熱海に行く機会は他にもありそうだから。」
「成程、ハワイは新婚の機会でもないと行くことがないだろうとw」
「うん、やっぱり基本的には趣味じゃないから。千百合もそんなに、行きたがらないだろうし。」
「黒崎、止せ、な?ラケットは武器じゃないんだから・・・」
「分かった、じゃあ拳を使うことにする。」
「気持ちは分からないでもないが、大人しくしておいた方が良い。幸村があちら側に居る以上、カウンターを食らう確率のほうが高い。」
だからって大人しくはしていられない。
ああ恥ずかしい、消えてしまいたい。
唐突にこの場で何かのっぴきならない大事件が起こって、この空気を霧散させてくれたらいいのに。
「ねえ千百合はどうしたい・・・千百合?」
「どうしたんだい妹よw今にも人に殴りかかりそうな顔しちゃってw」
「おい煽るなよ!」
分かっているくせに尚も挑発する棗。
宥めている桑原には良い迷惑である。
「・・・どうしたいって何が。」
「新婚旅行は何処が良いかっていう話だよ。千百合は何処が良い?」
そもそもなんでそんな話になって、しかもそれを此処まで引っ張るんだろうか。
おかしいと思わないのか、にこにこしてるなよ。
大体新婚旅行って事は、前提として自分達が結婚しているという体で話をしてるのであってさ。
しかももっと細かく言うと、自分に意見を伺うその聞き方がもう、お互いとこのままゴールインしたとしてという、仮定の上に成り立っているのを感じるのが余計恥ずかしい。
お付き合いもまだまだこれからなのに、なんもかんもすっとばして結婚の話とかしてて、幸村は恥ずかしくないのだろうか。
ないんだろうな、多分。
で、なんの話だっけ?
新婚旅行?どこ行きたいか?
というか、その質問が
「っていうか、ゆっきーのその聞き方がもう凄い新婚さんぽいよねー!」
彼奴言いやがったな後で昼食のデザート食ってやる。
「お前も煽るのかよ!」
「あおる?」
「桑原、多分分かっとらんぜよ。」
「紀伊梨ちゃん、あの、今はまだ違いますから、ね?」
「いずれそうなるのだろうから、構わんのではないか?」
「真田・・・」
「あの真田君、そうなんですけれどそうではなくてですね、そのう・・・」
「お前さんもデリカシーに欠ける奴じゃのう。」
「なんだと!?」
「プリッ。」
「ほう・・・・・」
「柳生、どうかしたか?」
「いえ。これが噂に聞く、立海テニス部エースとその恋人のやりとりですか、と思うと不躾ながら少々感慨が。」
「成程。しかし、黒崎には気の毒だがすっかり有名になったものだな、あの2人は。」
「ええ。黒崎さんは兎も角として、幸村君の名前を知らない人は、加速度的に減って行っていますからね。」
「千百合、どうかな。」
「・・・・・」
「千百合?」
「・・・何処でも。」
そう。別に何処だって良い。
ハワイ行きたいとか、ヨーロッパ行きたいとかそんな事言うキャラじゃないし、そもそも此処が良いとかそういう強い希望も無い。
だって。
「あれでしょwあなーーーーーあがあっっ!」
「ああ!な、棗君大丈夫ですか!?」
「綺麗なアッパーですね、黒崎さん。」
「そ、ありがと。」
「ひゅー!いったそー!なっちん生きてるかーい?」
「紀伊梨、お前昼飯の時覚えてろよ。」
「なんで!?」
双子というやつは面倒くさい。
そこ気づかなくて良いんだよ寧ろ無視してと思うことに限って、変なテレパシーでも発動してんのかと聴きたくなるくらい、ピタリで当ててくる。
「それで、お前は結局何処を希望しているんだ?」
「良いよ、弦一郎。さっき聞いたから。」
「む?しかしさっき・・・」
「何処でも良い。そうだよね、千百合?」
「・・・うん。」
俺も突き詰めると何処でも良いんだけどね、と笑う幸村は多分分かってくれている。
貴方の隣なら何処だって良いです。
とかいう、死ぬほど恥ずかしい本心を。