「さあ、次はこちらの番ですね。」
「2人目だな。誰が行ったものか。」
「そうですね・・・因みに、どなたか希望の順番はありますか?」
「別に?いつでも良いぜ。」
「俺も構わん。何処だろうと、やるべき事をやるだけだ。」
「私も、出ただけで足を引っ張りますからせめて皆に都合の良いタイミングで・・・」
「・・・・ふむ。」
現状、あっちで残っているのが、仁王、千百合、桑原。
こっちは後攻なので、向こうの動きを見てから動けることを考えると。
「・・・では、私が出ましょう。」
「マジか。」
「良いのかい?大将が早々に出るような真似をして。」
柳生はその発言に苦笑する。
「残念ですが、私は大将としてはあまりにも武器がなさすぎます。例え形だけはリーダーであっても。」
「武器だと?」
「ええ。テニスに長けているわけでもなければ、皆さんの事を良く知っているわけでもありません。この中でもっともつぶしが効かないのが私です。」
「そんな・・・」
「良いんです、春日さん。本当の事です。」
でも、勝つのを諦めるつもりはない。
「勝つ為に、今出ておくんです。皆さん、フォローをお願いします。」
「ああ、勿論だよ。」
「頑張ってください!」
「はい。」
レンタル用ラケットを持って、柳生はパネルの前に立つ。
「ほう、あっちは柳生が出るんか。」
「あいつ、テニスはした事あるのか?」
「データによると、知識として大体のルールは知っている程度だ。実際プレイした経験となると、おそらくほぼ無いと言っていいだろう。」
「おー・・・もしかしたら外しちゃったり?」
「するかもね。」
「気の毒だけど、練習とかはないよw」
「勿論です。いつでもよろしいですよ。」
柳生が構えると、あのパシュ音と共にテニスボールが飛び出る。
(なかなか早い・・・慣れない人間には辛い速さですね)
「ハッ!・・・!」
しまった、という言葉と同時に、柳生の返球は真ん中の5番パネルを落とした。
「・・・・!」
仁王が目をちょっと見開いたのと同時に、桑原は柳を振り返った。
「おい、今の動き・・・」
「ねえねえ!なんか普通じゃなかったー?」
「分かるけど分かんないこと言ってんじゃない。」
「ああ・・・練習してきたようだ。」
教科書のようなフォームで返球した柳生は、自チームを振り返って少し頭を下げた。
「すげえじゃん!ちゃんと出来てたぜ?」
「うむ、手本のようなスマッシュだったぞ。」
「練習したんだね?」
「ええ、黒崎くんから、テニスでゲームをするとは聞いていたものですから。」
仁王は先日、棗からゲームするぞと前振りされていた。
しかし、柳生も同じように前振りされていたから、対策として自主練していたのである。
「お褒めに預かり光栄ですが・・・春日さん。」
「え?」
「すみません、端を落とすつもりだったのですが、中心に当ててしまいました。当てやすいところは女性に譲ろうと思っていたのに・・・」
「そ、そんな事良いんですよ!柳生君は出来たんです、私の事はお気になさらず!ずっと真ん中が残っているわけでもないですし・・・」
「うむ、春日の言う通りだ。順番が巡れば、端しか残っていないことなどザラに出てくるだろう。」
「それも含めてフォローの内だろい。気にすんなよ。」
寧ろテニス部組3人からしてみれば、柳生と紫希はパネルを落とせないと考えて丁度良いくらいと思っていた故に、良い意味でちょっとビックリした。
嬉しい誤算というやつ。
「お話中悪いけどwゲームの方行くよw」
「ああ、そうでしたね。どうぞ。」
ピロピロピロン♪
【各チームから2人任意で選び】
「・・・成程、こういう事もあるのですね。」
「はいw」
相手へのアタックの為に、誰かを選ぶ場合はなるべく相手のチームから。
それが定石になるのも、棗は織り込み済みである。
「・・・では、満遍なくという事で。真田君に、春日さん。それから、黒崎さんに桑原くん。」
「分かった。」
「はい。」
「マジか。」
「まあ、そう面倒がるなよ。」
男女比は平等に、且つお題に既に当たった仁王は避けて。
なるべくフラットな人選をしたつもりだ。
「よし、じゃあ行くよw」
【第一印象をそれぞれに述べよ。】
「なんじゃ、つまらん。」
「えー?面白いと思うけどなー?」
「確かにありがちなお題ではあるが、問題は返答だ。」
そう。
返答次第で平和にも波乱にもなるのが、この手のお題目の特徴である。
「そうですね、では先ず・・・桑原君。」
「俺か?」
「ええ。実はライブの件の前から、食堂や廊下などで度々拝見して居りまして。」
「それは知らなかったな。で、なんだ?外人だなあ、とかか?」
「いえ、お財布は大丈夫かと。」
ピシ。
と桑原の顔が固まる。
「・・・・・」
「丸井、目逸らしは感心しないよ。」
「いやあ、な?」
「財布?なんの話だ?」
「先ほど度々見かけていたと言いましたが、見る度見る度丸井君に何か与えていましてね。何か小さいゲームをしている事が多いのですが、ジャンケンしては負けて奢って、競争しては負けて奢って、単にねだられてはしょうがないと言いながらお菓子を出して。カツアゲとかそういう雰囲気ではないですが、あまりに一方的なので、他人事ながらあれで良いんだろうかと思っていたんですよ。」
「それー!それ本当そう思うー!」
紀伊梨が指差して言った。
「待て、お前に言われる筋合いは流石にないだろい!」
「だってブンブン、こっちに頂戴頂戴って言うばっかりで、そっちからは何にもくれないじゃーん!ふびょーどーだよ、ふびょーどー!」
「人聞きの悪い事言うんじゃねえ!平等だろい、いつもジャンケンして勝ったらやるって事になってるんだから。」
「そのジャンケンで勝てないんだってばー!」
「おい、ジャンケン強いのは俺が悪いのかよ!?」
「う、ううん・・・」
「微妙な所じゃのう。」
丸井はある意味では、徹底して平等である。
ジャンケンしようぜ、勝ったらそれ一口くれよという条件を相手に持ち込むし、逆に自分が言われても受けて立つ。
ジャンケンーーーこの必勝法の無いゲームを採用している時点でイーブンの筈なのだが、食べ物が絡むと丸井は兎に角運が強い。
故に結果だけ見ると一方的に搾取する形になるが、ジャンケン強いのが悪い事かと言われると、本人に非はないのであるからして。
「競争だってそうだぜ。走るのはジャッカルのが早いくらいなんだからな。」
「へえ。そうなの、柳?」
「ああ。確かに、50m走のタイムとしては、丸井の方が数秒単位で遅れを取る。」
「そうだろい?」
「なら、何故負けてしまうんだい?」
「何時も何かが起こって負けるんだ・・・俺だけ先生に呼び止められたり、2人して人にぶつかったのに俺だけ怒られたり、その日に限って上履きの据わりが悪くて途中で靴が脱げたり・・・」
「お前さん、桑原の運でも吸い取っとるんじゃなか?」
「人を吸血鬼みたく言うんじゃねえよい。」
「五十嵐さんも、そのような具合で負けるのですか?」
「良くぞ聞いてくれやした、そーなんだよー!なっちんから色々教えて貰ってね?コイン投げて表と裏当てる奴とか、サイコロ振る奴とか、普通にしてたら勝ったり負けたりするのに、お菓子を賭けたら絶対ブンブンが勝つんだよ!」
「紫希は?」
「はい?私ですか?」
「丸井と結構仲良いじゃん。大丈夫なの?物取り上げられたりしてない?」
「そんな、滅相もない!私はあげたいからあげているだけですし、無理矢理何かを取られた事なんてありませんし、それに・・・」
「それに?」
今のこの空気ではなんだかちょっと言い出しづらいのだが。
「・・・丸井君って、そんなに何もくれないでしょうか?」
「えええええーーーー!?」
向こうで話していた紀伊梨がバッ!と振り返った。
「くれないよ!何言ってるの紫希ぴょん、くれないよ!」
「おい!」
「本当じゃんかー!」
「でも、入学式の日は苺のムースポッキーをくれましたよ?」
「う・・・・」
「そうだったのか?」
「うん。その時は、丸々1袋くれたらしいね。」
「そう言えばそんな事もあったねw」
「なんかもう懐かしいわね。」
月日が流れるのは早い。
本当に。
「ほらみろい。」
「で、でもでも!じゃあ他には?」
「ええと、ライブの作戦で私が待機してた時は、お皿に盛ってたケーキを食べろって言ってわけてくれました。」
「他には?」
「公園で会った時はジュースを買ってくれましたし、ケーキバイキングに行った時も私がお皿を見ていたら、一口要るかと。後・・・」
「冗談だろ・・・」
「大丈夫ですか桑原君?些か遠い目になっているようですが?」
そりゃあ遠い目にもなる。
丸井だぞ、あの丸井。
寄越せと強請る事はあっても幼児以外には絶対に食物を進んでは分けない奴が、自ら人に食えと差し出すなんて。
「なあ春日、前から聞きたいと思ってたんだけどな。」
「はい・・・?」
「お前は何者なんだ?」
「えっ?」
「どうやったらブン太をそんな風に出来るんだ?教えてくれ、主に俺の懐の為に。」
「えっ!?え、いえ、あの、別に変わった事は何も、」
「どうなのですか?」
「ん?」
「いえ、実際桑原君や五十嵐さんが春日さんのような扱いを丸井君から受けられるようになるには、どうすれば?」
「それよ、それー!それ超聞きたいー!」
「え、無理じゃね。」
「無理!?」
「なんつうか、気が進まねえんだよなー。」
「えー!そんなのないよ、なーに気が進まないってー!」
「はあ・・・あのな、五十嵐。」
「うん!」
「お前は、お前だろい?」
丸井は真っ直ぐな・・・少なくとも真っ直ぐに見える目で言った。
「・・・うん?うん。紀伊梨ちゃんは紀伊梨ちゃんだよ。」
「そ。ジャッカルはジャッカルだし、春日は春日だし。」
「うん・・・」
「だから、春日みたいに、なんて言うなよ?お前ら皆それぞれで、代わりは居ねえんだからな。」
「ブンブン・・・うん!ごめんね、もう言わないよ!」
「おし。」
「ブンブン君誤魔化し方上手過ぎじゃねw」
「手慣れていますねえ。」
「彼奴、弟がぐずった時は大体あんな感じで上手い事言い包めるんだ。」
転じて、紀伊梨は7つ下の丸井の弟と同じ知能レベルであると取れなくもない。