「さて柳生、回答を有難う。次は柳だよ。」
「分かった。」
「あ、優しい人は却下で。」
「駄目か。」
「ふふふ、駄目だよ面白くないし。それに世の中の人の大半は、異性の好みで「優しい」っていうのは大前提だと思うからね。」
「確かに優しくない人を進んで好きになる方はあまり居ない、と考えられますね。」
「そういう事だよ。さ、柳。」
「ふむ・・・」
(柳の好みか。部では幸村と良く3人話すが、そういった話はした事がなかったな・・・)
(柳かー。やっぱ、大和撫子とかか?)
(物静かな和風美人さん辺りが似合いそうですね)
(やなぎーの好きな女の子・・・!おお!気になる!)
(気になる、これは正直かなり気になる)
(気になるんだが、聞いても良いんだろうか・・・)
(寧ろ正直に言うかがそもそも疑問じゃな)
皆気になるのでなんとなく静かになって耳をそばだててしまう中、柳はとうとう思案を纏めて口を開いた。
「・・・そうだな。強いて言うなら。」
「言うなら?」
「計算高い女子が好みだな。」
ピシ。
と空気の固まる音がした。
幸村の周り以外。
「成程、そうきたか。ふふっ、なかなか面白いね。」
「幸村は、俺がなんと言うと思っていた?」
「柳も読書が好きだから、読書家とか勉強家とか言うと思っていたんだよ。若しくは、おしとやかだとか静かだとかね。」
「ほう。柳生もか?」
「え、ええ・・・私も、てっきり嫋やかな女性などを挙げると思って居まして・・・」
というか、外したとしてもまさかこんな外し方をするとは、さしもの柳生も思っていなかった。
計算高いて。
「なんというか・・・本当に、そうきたか、っていう感想が1番ぴったりくるな・・・」
「まあ良いんじゃねえ?少なくとも人と好きな奴がかち合うって事は少なそうだし。」
「それに、柳に似合っている。少なくとも、計算が下手な女子とは合わないだろう。」
「まあ、似合うとると言われるとそうじゃろうな。」
「計算高い・・・」
「あ、あはは・・・」
「紫希ぴょーん、計算高いってなーに?」
「え?ええと・・・そうですね・・・辞書的に言うと、計算。つまり、損得の勘定が得意な方を言います。」
要は、天然の真逆である。
自分の振る舞いが誰にどう取られ、どういう影響を及ぼすか。
それを常に図りつつ、自分に都合が良くなるよう行動する人の事だ。
「ほほう!損得?損するか得するか?」
「そうですね。なるべく自分が損しない様に。最大限、得するように行動するのが得意な方です。」
「それってまどちゃんみたいな人?」
紫希は漸く解れかけた顔を又引き攣らせねばならなかった。
「・・・・・」
「あ、い、いえ、あの、そのう・・・」
「違うの?あってる?」
「いや、あの、なんというか、その、」
「五十嵐。」
何故紀伊梨はこの幸村を前に平気な顔で振り向けるのか、紫希は不思議でならない。
「うん?」
「柳の好きな女の子は、計算高い人なんだよ。」
「うん!聞いてたお!」
「じゃあ、三門さんが計算高い人だとすると。」
「うん。」
「柳は三門さんに会ったら、三門さんを好きになるという事だね。」
(精市、それは紀伊梨にしか効かないわよ)
(流石にその三段論法は無理があるかと・・・)
でも、これに騙されるのが五十嵐紀伊梨という少女なのである。
「それはないね!」
「そうだね。つまり三門さんは?」
「おお!まどちゃんは計算高くない!」
「うん。覚えておこうね。」
「はーい!」
綺麗に騙されてるなあ・・・と思う千百合と紫希だが、真実を追求するのはまあ後にしよう。
「のう、なっちん。まどちゃんっちゅうのは誰じゃ?」
皆が聞きたかった事を仁王が聞いてくれた。
「その話は今は止めよう・・・」
「聞かん方がええか?」
「いや別に、そう大した話じゃないんだけど・・・」
「けど?」
「今この話題を掘り下げたら、今度こそ俺の命が危ない。」
((((((ああ・・・・))))))
テニス部の面々は何かを察した。
別に話しても良い。
でも兎に角、今は駄目。やめて。
折角幸村が平常に戻ったのに、また戻すような真似をしないで。
「又今度ね、今度・・・」
「い、いや、無理して話してくれなくても良いって。な?」
「ああ。大方、小学生の頃の話だろう。聞かなかったからと言ってどうという事もあるまい。」
「忘れた頃位で良いぜ?」
「・・・・・・」
「柳君?如何なさいました?」
「ああ、いや。なんでもないんだ。」
幸村はみかどさん、と言った。
紀伊梨はまどちゃん、と言った。
まど、と付く名前は通常女性名の「まどか」であるから、高い確率で、その人物のフルネームは「みかどまどか」である。
(・・・まさかな。「みかど」も「まどか」も、そう珍しい名前じゃない)
でも、可能性はあるとして覚えておく。
柳はそういう性格で、脳味噌の持ち主だった。