Solicitation:1st game 4 - 4/8



さて。
次は柳の番である。

ボードは3枚目、落ちているのは4番。

「1か7のどちらかを開けようか、リーダー?」
「1を頼むぜよ。7は俺も1度開けたダニ、なんとかなる可能性が高い。」
「分かった。」

「お前ら開けられる前提で会話すんなしw」
「この柳蓮二が、この的とあの距離で外すと思っているのか?」
「思わないよクソw」

パシュ、と出て来るボール。
ほら見ろ、打ち頃だ。

「はっ!」

危なげなく1番を落とす柳。
三強の名は伊達ではない。

「やったー!」
「・・・・・」
「あり?ニオニオどったの?」
「・・・五十嵐、ちょっとええか。」
「ん?」

「良かった、コーナー落としてくれて。」
「いや、でも・・・お前もさっき落としてたろ?」
「あれはあの時だけよ、たまたま。別に私上手くないんだから、同じ事2度も3度もやれって言われても出来ないわよ。」
「まあ、確かに。」

「さて、ゲームを頼む。」
「はいはいw全くバランスブレイカーなんだからw」

パーパラッパッパー♪

「お。」
「アタックチャンスだw」

((此処!))

仁王と柳生の視線が絡んだ。

今、Aチームはパネル1枚分Bチームに負けている。
このアタックチャンスで成功すれば並ぶ事が出来る。これは大きい。
何故かと言うと。

(春日じゃ)
(春日さんですね、キーマンは・・・)

当初のルール。
もし引き分けながらボード3枚終えた場合、誰かが外すまでパネルを当て続ける事になる。

そうなると、紫希はスペック的に最弱になってしまうのである。

外したら終いというプレッシャーの中で、元々下手なのが当てられるわけがない。
つまり、引き分け状態のままボード3枚終えられたら、Aチームの勝利はほぼ確定なのだ。

(そう・・・だからつまりこの場合、Bチームはそれを潰す為に足を引っ張ってくる筈だ。こういう時は協力してくれるよう自分のチームから敢えて選ぶのが正解、だが・・・)

【相手チーム及び自分のチームから1人づつ任意で選んで頭を撫でる】

「やはり要求が厳しいな。」
「まあねwでも出来るでしょ、恥はかくけどw」

確かに出来る。
やる事は頭を撫でるだけだから。

問題は誰を持ってくるか、である。

(さて・・・嫌でも相手チームから選ばなければならないとなると、どうにかして動揺を誘えるような手合を選ぶべきだが。)

「・・・・リーダー。」
「ん?」
「誰を選ぶべきだと思う?」
「分からんか?」

分かる。
分からない筈がない、このデータマンに。

「ただ、強いて言うなら。」
「言うなら?」
「お前さんに倒れられるとどうにもならん。命は大事にしんしゃい。」
「分かった。」

つまり、千百合は選ばない。

「はいはーい!」
「何あんた。」
「私やなぎーに褒めて欲しいー!ねーねー、紀伊梨ちゃんの事指名してよー!」
「馬鹿か。」
「馬鹿!?」
「五十嵐・・・別に、褒めるつもりで撫でて貰うわけじゃないんだぞ?」
「でも撫でられると褒められてるっぽいじゃーん!」

「・・・・・・」

本当は千百合を指名すべきだった。
先ず間違いなく、幸村を揺するチャンス。
でもそれをすると、柳が死ぬかもしれない。

「分かった。」
「「「え?」」」
「お前を選ぼう、五十嵐。」

マジかよ。
と驚くがあまり、逆に千百合も桑原もマジかよと口に出せない。

「やったーー!本当だよね!本当だよね!やっふうー!」
「い、良いのか?いや、お前が良いなら良いけれど・・・」
「柳、変な気使わなくて良いわよ。」
「あー!千百合っちダメダメそんな事言ったらー!やなぎーがやっぱナシってなっちゃうかもじゃんかー!」
「いや。良いんだ五十嵐で。」

(そうだろう?)
(ああ、頼むナリ)

仁王がさっき、紀伊梨を呼んだ事。

仁王は、紀伊梨にコーナーを当てて欲しいと思っていた。

勿論難しい。
桑原や自分だって外しているのだから。
でも運動神経抜群で、しかも褒められブーストの付いている紀伊梨なら出来るかもしれない。

そう踏んで紀伊梨に頼んだ。
それに向けてバフをかけなければいけない。

「やったー!やったー!いっちょ、気合い入れてお願いしますぜ、やなぎー!」
「気合いを入れるのか、分かった。」
「撫でるのに要る気合いって何かのう。」
「1、2発ぶつって事じゃない?」
「いや、しないだろ・・・で、相手チームからはどうするんだ?」
「それはもう決まっている。」

とっくのとうに決まっている。
こういう場合選ぶべきは1人しか居ない。

「春日。」
「わっ・・・たし、です、か・・・!?」
「そうだ、お前だ。」

何故に、と顔に書いてあるが、こっちからしてみれば狙わない理由が無い。
なんせ叩いたら叩いただけ崩れていくガラスのメンタル。

(それに、相乗効果も狙えるのが大きい。選ばん手は無いナリ)

もしかしたら。
丸井が気を悪くしてペースを崩したり、してくれないかなーというのも期待したい。
なんせあっちのチームは、何事にも動揺しない奴が多過ぎる。

(ただまあ、そこまで春日を好きかっちゅうとそうでもないじゃろうな。気に入りの友達位じゃろ。)

幸村と千百合みたく付き合ってくれてたらこれで一気に崩せるかもしれないのに・・・とか思う男。
仁王雅治は、勝つ為なら敵を増やす事など厭わない。
周りは良い迷惑だけど。

「2人と言われて2人共女子を挙げるか。」
「まあ、そういう作戦だろうね。もうこのボードでゲームは一区切りだし、向こうも必死なんだよ。」
「ええ。男子を指名しても、此方のダメージにならない・・・そう考えての事でしょう。」
「確かに、男子を選んだ所で何も感じないが・・・」

情けないぞ真田弦一郎、と思うが、実際動揺はしている。
あの柳の、ゲームの成り行きとは言え両手に花状態などという光景を見る事になるなんて。

「・・・丸井君は、平気なのですか?」
「ん?平気って何が?」
「いえ、あの、」

くん、と服の裾を引かれる感覚。

振り向くと、幸村が口元に人差し指を当てていた。

「・・・なんでもありません。気にしないで下さい。」
「?」

(確かに、気にしていないのならばそれに越した事はありません。黙っておいた方がゲームには有利ですね・・・)

(流石に手強いのう)

彼処でそのまま、春日さんの事が気にならないのですか、とか聞いてくれたら、そう言われたら気になる気もする、みたいな感じになってくれたかもなのに。
考えなくて良い事は考えない丸井の性格を上手く利用して、切り抜けられてしまった。

つくづく幸村精市という男は隙が無い。
リーダーの座を降りている時でさえも尚、最小限の動きで最大限のサポートをする。
部活の時は頼れる仲間だが、敵に回すとなんて手強い。

「ではゲームをどうぞw」
「そうだな、始めよう。」
「わーい!紫希ぴょん!一緒になでなでして貰おーね!」
「あ、は、はい・・・?」

どういう態度で居れば良いのか分からない紫希に引き換え、紀伊梨は超ノリノリである。

「さっ、やなぎー!スペシャルなでなで二丁、よろしくぅー!」
「い、一丁で良いので・・・」
「そもそもスペシャルとはなんだ。」
「なんでも良いんだよ!やなぎーがスペシャルだと思うやり方がスペシャル!です!」
「ふむ。」

(ああいう所、柳って優しいわよね)

あくまで生真面目に付き合ってくれる辺り、面倒見が良いと思う。
紀伊梨と並ぶと、兄と言うより先生と生徒ぽいけれど。

「・・・よし。」
「お!決まりやしたか!じゃあじゃあ、お願いしまーす!・・・って、」
「なんだ?」
「やなぎー、どーして両手上げてるの?」

そう。
今柳は、両手を上げている。
撫でるなら片手で十分だと思うのだが。

(何なさるおつもりなんでしょう・・・)

「俺なりのやり方で良いと言うから、考えたのだが。」
「あ、そーいうやり方なんすか!おっけー!どぞどぞ!」
「良いな?いくぞ。」
「おう!お・・・うっ!?」

柳はポン。
と紀伊梨の頭に両手を置き。
撫で撫で、と穏やかに撫でた。

が。

「・・・あの、やなぎー?」
「じっとしていろ。」
「いやあの、撫で撫でなんだけどさ、あのね?」
「・・・・・・」
「ねえ!これ段々わしゃわしゃになってない!?ねえ!ねえって!髪の毛ぐしゃぐしゃ・・・」

(・・・あれ?でもなんか気持ち良い?)

確かにやってる事は頭くしゃくしゃなのだが、なんというか絶妙な力加減。
別に髪が引っ張られて痛いとかいうわけでもないし、寧ろ何か新手のマッサージを受けているような。

ああ。
なんか段々懐かしくなってきた。
小さい頃、お母さんに頭を洗ってもらってる時、のあの感覚が蘇る。

「・・・・・・」
「・・・あの、紀伊梨ちゃん?」
「おかーさん・・・」
「お母さん・・・!?」

此奴は何を言ってるんだ、な目で皆紀伊梨を見るが、本人は今夢心地状態でそんな事一切気にしていない。

「・・・こんなものだろう。」
「・・・・・・」
「終わったぞ五十嵐。」
「・・・ふおっ!おお・・・なんかちょっと遠い所に言ってた気がするよー。あむないあむない。」

(聞きようによっては本当に危ない発言じゃの)
(あれそんなに気分いいのかしら?そうは見えないけど)
(まあ・・・本人は気分良さそうにしてたし、良いんじゃないのか?)

「ありがとーやなぎー!」
「満足したか?」
「うん!すーっごく気持ち良かったよー!小っちゃい頃に戻ったみたいだったー!」
「そうか。」

そう言うと、柳は徐に自分の貴重品入れを持ってきて開けた。

「使え。」
「・・・櫛?」
「鏡もある。俺がやっておいて言うのもなんだが、今のお前は髪が整っていない。これで直すと良い。」
「おおお!やったー!ありがとー!じゃあ遠慮なく借りちゃう!」

「つげ櫛とは風流だな。」
「ええ。柳君らしい、上品な物持ちですね。」
「つげ櫛?ってあれ?」
「そうだよ。あれは櫛に椿油が染み込ませてあって、梳かすと髪に艶が出るんだ。」
「へえ!便利だろい。」

そんな櫛使っているから何時もあんなに髪がサラツヤなのかな、と何人か思ったが、すぐ撤回した。
櫛1つで柳の様な髪が保障されるのなら皆持ってる。

「・・・・・・」
「どうした?使わないのか?」
「やなぎー、やって!」
「俺が?」
「うん!」

寸分の遠慮もなく櫛を柳に突っ返す紀伊梨。

「自分で出来るだろう。」
「自分でも出来るけどー!でも折角だからやなぎーにやって欲しいなーって!」
「・・・・」
「駄目?」

つくづく未知な感覚だと柳は思う。
兄弟は姉だけの柳は、今迄生きてきて此処まで素直に甘えてくるような存在が周りに居なかった。
幼馴染の乾や、幸村や真田を始め、友人もどちらかと言うと年相応より大人びた者の方が多い。
だからこんな風に妹的なじゃれつき方をしてくる紀伊梨は、柳の中でかなりニュータイプな友達だった。

まあ。
それが嫌なのかと言われると。

「・・・分かった。」
「良いの!?」
「春日からもよろしく頼まれてしまったしな。」
「そ、そうでしたね・・・」
「やったー!」
「おい、大人しくしていろ。春日、すまないが手伝ってくれないか。鏡を持っていて欲しい。」
「はい。」
「おおお!2人でやってくれるの!?わーい!」

うきうき気分で髪を直される紀伊梨。
自分の髪に柳の指が絡む感触とか、櫛の通る感じがする。
嬉しくって前を向くと、柳のお手伝いで鏡を持っている紫希の姿が見えて、尚更嬉しい。

「楽しそうですね、紀伊梨ちゃん。」
「うん!すんごく楽しいよ・・・った!」
「だ、大丈夫ですか?」
「急に動くな、引っかかるぞ。」
「はーい・・・えへへへー!」

「違う・・・・」
「黒崎?どうした?」
「俺が期待してたのは違う・・・こんな微笑ましい光景の為に俺はこのお題を放り込んだわけじゃない・・・」
「今完全に光景がおままごとじゃからの。」
「はん、ざまあみろ。」
「逆に何を期待してたんだよ・・・」
「だって頭ポンポンだよ!?もーちょっとこうさ、囃し立てられるような何か、」
「残念でした。」
「いや、諦めるな!」

まだだ、まだ1人残ってる。
棗がそう思い顔を上げると、丁度紀伊梨の髪が戻った・・・いや、元より良くなった所であった。

「よし、終わりだ。」
「ありがと・・・おおー!髪の毛ピッカピカだー!天使の輪っか出来てるー!」
「ふふ、素敵ですよ、紀伊梨ちゃん。」
「本当?」
「ええ。」
「そっか!じゃあ紫希ぴょんもやろう!」
「え”」

紫希ぴょんもやる、という事はあのスペシャルなでなでから髪を整えられるまでの一連の流れをやるのだろうか。
恥かしいから遠慮したいのだが。

「そうだ、次は春日の番だったな。」
「う・・・」
「紫希ぴょんもやって貰いなよー!ちょー気持ち良くて、ちょー懐かしいよ!」
「そう言われても・・・」
「どちらが良い?」
「・・・・」

どちらが良い。
とか聞いてはいるけどだ。

「・・・お任せします。」
「ほう?」
「どちらにしても、多分同じだと思いますので・・・リーダーの為に尽力する義務がありますから。」

どっちが良い、と聞いてはくるけど、その通りにするとは柳は言っていない。
どちらにせよ柳に決定権があるのだから、大人しく受け入れよう。

「そうか。」
「はい・・・」
「ならば、お前には悪いが遠慮なくチームの為になる方を選ぼう。」
「お、お手柔らかに・・・」
「お!スペシャルですな!」

柳の両手が頭上に止まる。
最初はなでなで。
次第にくしゃくしゃ。

「・・・・・」
「痛いか?」
「えー、痛くないよ?ね、紫希ぴょん!」
「はい、痛くは・・・・」

(確かに不思議な感覚・・・・あ!美容院でシャンプーして貰ってる時と、同じ心地良さを感じます!)

指が軽く頭皮を叩いたり滑ったりする感覚。
成程、気持ちいい。
疲れてる時にされたら寝るかもしれない。

(・・・さて、あっちはどうだ?)

これで丸井も揺らいでくれるのを期待して指名したのだけど。
ただ、向こうもさるものというか、誰も敢えて触れようとしない。

「春日も気持ちよさそうにしてるね。」
「うむ。頭のマッサージの様な効果があるのやもしれぬな。」
「柳君はそのような事も出来るのですか?」
「ま、出来てもおかしくねえけどな。柳も博識だし。」

(全然気にしていませんね)
(うん、この分だとあまり気にしなくて良さそうだ)

「不発に終わったか・・・」
「不発?」
「なんでもない、独り言だ。終わったぞ。」
「はい、有難う御座います。なんだか頭が軽くなったような気がします。」
「血行を促進しているようなものだからな。春日も読書家なのだし、肩の凝る事も多いと思っていたが、やはり効果があったようだ。」
「そーなの?紀伊梨ちゃん頭は軽くならなかったよ?」
「お前は肩など凝らないだろう。」
「酷くない!?」
「事実だ。春日、髪はどうする。」
「あ、櫛だけ貸して頂いて良いでしょうか?」

「終わった・・・のほほんで終わった・・・」
「ばーかばーか。」
「お前は本当に、黒崎に対しては容赦しないな・・・」
「こんな馬鹿に容赦なんてしない方が良いわよ。桑原も同クラなら覚えときな、此奴に。かける。情けは。勿体無い。」
「そこまで強調せんでも良くないか妹・・・」
「ま、完全に思うた通りとはいかんかったが、少なくともこれでクリアじゃ。」

パネルが2枚落ちる。

これで横並び、さあ。

こっからがラストスパートだ。