「次は真田っちだね!んーと先ずはねー、最近千百合っちとはどうすか?仲良く出来てる?」
(本当に此奴、切り込んで行くな・・・)
そこ口に出して聞いちゃう?みたいな所を聞くのが紀伊梨である。
桑原は、自分が聞いたわけでもないのに自分の事のようにハラハラしてしまう。
「・・・一時よりは良い。少なくとも。」
「おー!やったー!」
よっしゃ!とガッツポーズをとる紀伊梨は、本当に事態の好転を喜んでいるのがよく分かる。
真田も微妙な気持ちと言えば微妙な気持ちだが、周りに迷惑をかけていた事は本当だし、自分にも非の有った事だし、まあこのくらいの複雑さは甘んじて受け入れよう。
「じゃあ次は紀伊梨ちゃんの番だね!」
「なんだと?」
「千百合っちと仲良くなったんだから、次は紀伊梨ちゃんと仲良くなろーよ!」
「は・・・・!?」
「そ、そっちか・・・そっちに話が行くのか・・・」
「だってー!ゆっきーは昔から友達だし、紫希ぴょんも同クラっしょ?紀伊梨ちゃんだけ仲良し度が足りないよねーって、ずっと思ってたんだかんね!」
「ははははっ。五十嵐らしいね。」
「ええ、とっても。」
「ほう、これは意外でしたね。」
「ん?」
「五十嵐さんは、真田君のようなタイプが苦手かと思っていたんです。」
「五十嵐に、苦手なタイプは居ないよ。」
幸村は穏やかに笑いながらさらっと言った。
「彼奴誰とでも仲良くなるもんな。」
「ええ。其処が紀伊梨ちゃんの素敵な所です。」
「苦手なタイプは居ない・・・成程。」
紀伊梨は誰かに向かって、苦手なタイプとは思わない。
自分と全然違うなとは思う事もある。でも違うからと言って苦手だとは思わない。
それはどんなタイプの人相手にも体でぶつかれる紀伊梨が、経験から得た事である。
そんな人にも、必ず面白い所や素敵な所がある事を紀伊梨は知っている。
「最も、柳生は五十嵐がちょっと苦手かもしれないけれどね。」
「はい?」
「苦手だろう?話がし辛い所とか。」
「・・・・・・・・ええ、まあ。」
話していると、話の腰がびっくりするくらいの頻度で折れるのは否定できない。
柳に「小さい子供に言い聞かせるように」とか言われた事もあるけれど、
生憎自分は其処まで面倒見のいい性格ではない。そもそも物覚えの悪い人種が柳生には辛いのだ。
「ふふっ、そんなに心配しないで。その内慣れるよ。」
「慣れたいかと言われると微妙な所ですが・・・分かりました、一先ずは安心する事にしましょう。」
「それからねー、あのねー、えっとねー・・・」
「早く言え。」
「じゃあ言うけど!真田っちはもー少し、紀伊梨ちゃんに優しくしてくれて良いんじゃないでしょーか!」
「・・・俺は殊更お前に厳しくしているつもりはないが。」
「うっそだー!いっつもあんなに怒ってるのにー!?」
「お前が怒られるような事ばかりするからだろうが!」
(会話が完全に親子だな・・・)
おとーさん怒るから嫌い!お前が悪さばかりするからだろう!の図を地で行く紀伊梨と真田。
「えー、真田っちは厳しすぎだよー!紀伊梨ちゃんは普通だもん!」
「いや、それは無い。」
「桑ちゃん!?」
「だってお前、普段から制服着崩したり寝坊して遅刻ギリギリだったり、俺が見たわけじゃないけど居眠りとかもしてるんだろ?」
「ぐ!そ、それはそうだけどー・・・」
「怒られたくないのなら、そういった所を直してからにしろ!」
「だってそれは嫌なんだもーん!」
「たるんどる!」
朝はなるべく寝ていたい。
授業は訳が分からない。
スカートは切った方が可愛いし、カッターシャツは出してた方がお洒落だし。
ルール違反である事は分かっているけれど、その位別に良くない?
そう思う紀伊梨は、ルールの中身ではなくてルールを違反している事を真田は怒るのだという事に気づかない。
「制服はともかく、寝坊と成績は迷惑だからどうにかなんないかな。」
「まあ、無理だろうな。」
「柳にそうまではっきり言われると、絶望感が違うのう。」
柳が無理と言う時。
それは今揃っているあらゆるデータを加味した上で出て来る、無理、である。残念だが。
「ま、黒崎。逆に考えんしゃい。」
「逆?」
「制服きっちり着た、品行方正成績優秀な五十嵐なんぞ、もういっそ別人じゃろ。」
「・・・・・・」
きもい。
とか素で思ってしまって、千百合は珍しく紀伊梨に普通に謝りたくなった。
「確かに、らしくはないな。」
「じゃろ。そんあな風になるより幾らかマシと思うたら、多少の事は許せるんじゃないか?」
「今度から真田に怒らない様に言おっかな。」
「それもそれで言い過ぎだろう。」
「え、私言い過ぎじゃないと思う。」
だって品行方正な紀伊梨とか嫌だもん。
そんなの、自分が親友になった紀伊梨じゃない。
「後もう1個かー。・・・あ!そうそう、聞きたい事あったの!」
「なんだ。」
「真田っちってゆっきーに勝った事あるの?」
聞いた。
と、この場に居る中で幾人かが思った。
恐らく幸村と真田の周りに居たら、これが浮かばない人間はまず居ないであろうと思われる質問。
幸村と真田、どちらが強いのか。
勝負したらどちらが勝つのか。
皆、幸村が勝っている場面しか見た事が無いが、幼い頃の戦歴は?
総合的に見るとどっちが上か?
これは千百合でさえも知らない事であった。
スクールであった事を、一つ一つ逐一聞いているわけでも無いし。
「・・・無い。」
「およ?一回も?」
「喧しい!」
テニスで勝てない人間が居る。
この事実は今真田にとって人生最大の懸念事項なのだから、傷口にキンカン塗る様な突っ込み方は止めて欲しい。
「今、現時点で、勝てないだけだ!いつかは必ず勝つ!」
「おおお!頑張れー!紀伊梨ちゃんは真田っちを応援しますぞ!」
「・・・幸村の応援は良いのか?」
「えー?ゆっきーの応援は千百合っちがやってくれ、る”っ!?」
予備のテニスボールを正確に紀伊梨の後頭部にぶつけられる千百合は、やはり大抵の事はそつなく出来る。
「紀伊梨ちゃん!大丈夫ですか!」
「なんで彼奴ああやって、ぽろぽろ余計な事言っちまうんだろうな。」
「ふふ。正直過ぎる性格なんだよ、もう昔からさ。」
「しかし、あのように応援は他の誰かがしてくれるから、と言われてしまうと、少し寂しくはないですか?」
「いや?俺には千百合が居てくれるから、寂しくないよ。」
これは単に惚気とか言う話ではない。
自分に千百合が居てくれるように、紀伊梨だっていつか何を置いても応援したくなる人が出て来るはずだ。
皆いつかは必ずそうなるのだから、別段寂しがる事でも無い。
今迄は幼馴染という理由から、皆揃って自分を応援してくれていたけど。
「だから春日も俺より応援したい人が出来たら、遠慮なく俺に負けろって願ってくれて良いんだよ。」
「色々とおかしくはないでしょうか・・・」
「どうして?」
「先ず前提がそもそもおかしいですよ・・・幸村君に負けろと願うという事は、その人がテニス部だって決めつけてるようなものじゃないですか?」
幸村と勝負になるという事は、転じてテニスプレイヤーであるという事である。
例えば、紫希が好きになる人が野球部員とかだった場合、幸村と同じ土俵ではないからどっちが勝つも負けるも無い。
「ああ、ごめんね。なんとなくそうなる気がしてしまって、つい。」
「・・・・・・」
「ふふふっ。そんな顔しなくても、なんとなくなんだから外れる時だってあるさ。」
「当たった事しかないじゃないですか・・・!」
幸村のなんとなく、は半分以上予言の様なものである。
当たる。当たれば当たる程意識してしまうからかもしれないが、当たる。
「・・・・・」
「ん?俺の顔に何かついてる?」
「ああ、いえ。何でもありませんよ。」
「?変な柳生だろい。」