Solicitation:1st game 4 - 8/8


紀伊梨のゲームが成功に終わり、Aチームのパネルは2枚に。
Bチームはその時点で2枚だったので、幸村が其処から1枚落として後1枚。
次の柳も勿論危なげなくパネルを落とし、残り1枚。

そして次。
Bチームのラストパネル。
此処で落とせればBチームの勝利が決定するその手番で。

「・・・さて。行ってきます。」

Bチームリーダー。
柳生比呂士の出番である。

「落とせるでしょうか・・・」
「さあな。センスは結構良いけど、ラスト1枚はテニス部でも微妙な奴が居る位だから。」

そう。
ラスト1枚をズバリで当てるのは、テニス部であっても、ともすれば失敗しかねない。
其処で柳生に当たったとなれば、もう殆ど外すのは確定の様なものである。
普通は。

「大丈夫。」
「「「え?」」」

「きっと、柳生はやるさ。」


「さあwラスト1枚ですおw」
「ええ。」

丸井がアタックチャンスにぶち当たった時、計算していた柳生は直ぐに気づいた。

これ。
自分がラストパネルに当たる、と。

単なるボードのラストではない。
リードしている状態での3枚目だから、これを落とせば勝利で終わり。
正真正銘のラストパネルになり得るパネルである。

丸井に言った事は嘘じゃない。
どの道ジリ貧気味なのは本当だし、どうしようもないのだから前向きに行こうと思ったのも本当。

でもそれ以上に柳生には思う所があった。

自分の手で勝利を掴みたい。
自分がパネルを落とす、という思い。

仮にこれを逃し、紫希も外すとしても、パネル1枚分此方には余裕がある。
桑原が外せば並ぶ事が出来るから、リードは消えるが負けが濃厚、という程ではない。

けど、そうじゃない。
後があるとかないとか、関係ない。

今。
自分がやりたい。
落としたい。
勝ちたい。

(幸村君・・・)

何気なく幸村を見ると、幸村は小さく微笑んだ。

多分、幸村は見透かしている。
柳生の胸に渦巻く、複雑で面倒くさい心境を。

「ふう・・・・」
「良いかい?」
「ええ、お待たせしました。どうぞ。」

パシュン、と出て来る黄色いボール。
テニスボール。

ここ最近の間で、急速に見慣れるようになったボールだ。



『・・・ゲーム、ですか?』
『そおwやらない?チーム戦にしてさ、お前のチームと仁王のチームで対戦するんだよw』


直ぐに分かった。
これは仁王が何度となくお誘いをかけてきた、テニス部でダブルスを組むという話である事。


『・・・仁王君が勝ったら、その暁には仁王君とダブルスを組めと。そういう事ですか?』
『あ、いえ。そういう話ではないんです。』
『おや?違うのですか?』
『ん。別に負けたから入れとか、勝ったから入るなとか、そんな事言う気はないから安心してよ。』
『なら何故・・・』

『だって私達みーんな、やーぎゅと遊んでみたいんだもん!』


そう言われた瞬間、柳生は悟ってしまった。
貴方は違うの?
もしそう聞き返されてしまったら、自分はいいえと答えてしまう。

私も皆さんと遊んでみたいですよ。
そう言ってしまう事を。


(集中して。集中です。そう、落ち着いて・・・)

何度も練習した。
テニスするよ、と言われてから何度も。
別に負けたからってペナルティがあるわけじゃない、と前以て知らされていてもだ。

「・・・はっ!」

極限まで研ぎ澄ました集中力で返したボール。
真っ直ぐ真っ直ぐ、ラストパネルへ吸い込まれて行き、弾いた。

おおお!と大小様々な感嘆の声が聞こえる。

「すっげえ!当てたぜ!」
「やった!柳生君凄いです!」
「ほう・・・初心者にしては、筋が良いな。」
「ふふっ。そうだね、柳生はセンスがあると思うよ。」

そして、センスの他にもっと大事なもの。
幸村が欲しいと思っているものも持っている。

「うわ、マジか。」
「当てたーーー!すっごーい!凄いぞやーぎゅ!当てちゃったよー!」
「マジかよ・・・アレを当ててくんのか。」
「元より、身体能力から導き出される柳生の成功確率は9.007%だった。10回やれば1回は抜ける確率だから、有り得ない、という程のものでもない。」
「・・・・・」

思案する仁王。

確かに、有り得ないという程低い確率でも無い。
しかし柳の話は裏を返せば10回やったら9回は外すのであるからして、やはりその当たりの1回をピンポイントで此処に持ってくるのは、並大抵の事ではあるまい。

ちゃんとした練習。
絶対勝つという集中力。
その2つがなければ、今この状況でラストパネルをぶち抜くなんて芸当はできない。

「・・・マジで?」
「おや?いけませんでしたか?」
「いや、いけないとかいけなくないとかじゃなくて、テニス素人のお前が決定打を打つとは・・・」

なんだかんだ、ラストパネルはテニス部だろうなと主催者側ながら思っていた。
棗は予想だにしない展開に置いてかれつつ、ゲーム表示のボタンを押す。

【任意の人を1人選んで喧嘩を売る】

「おや。」

なんというラッキー。
丁度喧嘩を売りたい人が居たのだ。それ、そこの銀髪の。

「仁王君。」
「じゃろうな。」

仁王も来るだろうなとは思っていた。
興味があるのは中身だ。

果たしてどう喧嘩を売って来るのか・・・と予想を巡らせ始める仁王。
柳生の方はと言うと、もう決まっている。


『俺とダブルスを組まんか?』


初めて誘われたあの時、柳生の胸に去来したのは「お前は一体何を言ってるんだ」という呆然。
そしてなんでわざわざ自分を指名するのか理解できないと疑問。
仁王の様な人間がそんな事言い出すとは思っていなかったと言う吃驚。

そして何より。
何だそれは面白そうじゃないか、と思ってしまった気持ち。

でも「はい」とは言えなかった。
柳生の心にはもう一つ、その「はい」を食い止める思いがあったから。
それは悔しさ。仁王の仕掛けたイリュージョンを全く見抜けず、綺麗に踊らされたことに対する悔しいという感情。

だからNoと言って断った。
断った後でちょっと後悔していたら、予想に反して仁王は二度三度と食い下がってきた。
でも、その悔しさと言う引っ掛かりを感じる心は誤魔化せない。
だから断るのに、断れば断る程仁王は誘ってきた。

いい加減どうにかけじめをつけないと。
折れてダブルスを組むか、仁王にもういい加減諦めてくれと強く言うかしないと。

そう考えて揺れていた所に、ビードロズ達は助け船を出してくれた。

『やーぎゅ!皆でゲームしよーよ!』

皆と、仁王と。
遊んでみようよ。
ゲームしてみよう。

そして、今度こそ勝負してみたらいい。
前みたいに不意打ちを食らったり食らわせたりするんじゃなくて、ちゃんと。
どっちが勝つか負けるか、仁王と勝負したら良いじゃないか。

勝っても負けても、部に入れとか言わない。
お膳立てもしてあげる。
だからやってみよう。

そしてそれが終わったら、もう一回考えてあげてよ。

そんな事言われてないのに、そう言われた気になってしまうのは、柳生の興味がテニス部に向き始めている事の何よりの証明であった。
そうだったら良いな、と思う心が柳生にそう思わせているのだ。

柳生はその事をよーく分かっている。
自分で分かっている。

結局の所テニス部に入りたい気持ちはあるのに、仁王にはいはいと従う形になるのが面白くないのだ。

だから。

「仁王君。」
「おう。」

「今日のゲーム。必ず私が勝って見せますよ。」

今度こそ勝つ。
絶対勝つ。
出し抜いてやる。

そうして勝利したら、その時は腹を括ってやろうじゃないか。

「ほーう、面白い。・・・やってみんしゃい。」

仁王はこの時、本気なのが自分だけではない事を知った。

良いぞ。
そうでないと面白くない。

「勝つのは俺じゃ。」
「いいえ、私です。」

柳生の本気と引き換えに、仁王率いるAチームは初戦の勝利を譲ったのだった。