「どっかーん!」
「きゃあっ!あ、紀伊梨ちゃん、お帰りなさい・・・」
「ただいまー!およ?ニオニオとなっちんは何してんの?あ!分かった、叱られてるのー?」
「まあそんなようなもんだよ・・・」
「当たらずとも遠からじっちゅうところなのが絶妙に癪じゃの。」
よもや紀伊梨からえー、叱られてるのー?な目で見られる日がこようとは。
「そっかー。まあしょーがないね!千百合っちを苛めるからそーいう事になるんすよ!」
「だからあれは誤爆なんだって!」
「誤爆だとかそういう話ではない!人の寝顔を無断で撮影して、剰えそれを良からぬ事に使おうなどと・・・そういう事を考えるから、こんな事故が起きるのだ!」
「まあ確かに・・・普通は起きないタイプの事故だよな。」
そもそも妹の寝顔を撮って、それを弄り目的でデバイスに入れておくという発想からしておかしい。
「そして、引いては寝顔どころか沐浴中を狙うかもしれない。そういう疑いを抱かれてしまうのも、無理からぬことだと言える。身から出た錆として、大人しくしていろ。」
「沐浴中は狙ったら犯罪じゃろ。」
「仁王。それは人のロッカーを無断で開けられる人間の台詞じゃないよ。」
「「えええっ!?」」
紫希と紀伊梨は初耳である。
「そ・・・そう、なんですか・・・?」
「マジかー!すごーい!でもドロボーだー!」
「失敬な奴じゃな、出来るから言うてやってるとは限らんじゃろ。」
「でも試したから出来るようになったんだろう?」
仁王はサッと幸村から目を逸らした。
「・・・・・・・」
「自分のロッカーでやるとしても、サンプルが1つじゃスキルとして使い物にはならないよね。誰のかは知らないけれど、2、3個はテストに使った筈だよ。」
「・・・プリッ。」
読まれている。
がっちり読まれている。
こうなると喋ったら喋っただけボロに繋がるので黙るしかない。
「マジかー!いーけないんだ、いけないんだー!」
「お前なあ・・・」
「ちょっとロッカーを借りただけじゃ。別に中の物取ったりとかはしとらん。」
「そうだね。2人共窃盗だとか、そういう小さい事をするような性格じゃないから、その点では信頼しているけれど・・・」
でも。
でもな。
基本的にお前達は日常のあれこれを見逃して「貰っている」立場だって知ってた?
幸村の微笑んだ目はかなり如実にそう語っていて、棗と仁王は縮こまるしかない。
「ゆっきー怒ってるー。」
「ええ・・・紀伊梨ちゃん、あっちに行きましょう。髪の毛拭かせて頂きますから。」
「本当!?やったー!実はちょっとやって貰えるかなー、っと思ってあんまりちゃんとやってなかったんだよねー!」
「ふふ、風邪を引いてしまいますよ?」
「えへへー!」
避難も兼ねて紀伊梨を連れて逃げる紫希。
触らぬ幸村に祟りなしである。
「でも、千百合っちもあんなに怒らなくて良いと思うんだけどなー。もー許してあげても良いんじゃないかな?」
「ううん・・・でもやっぱり恥ずかしいですから。もうしないでね、の意味でもお怒りは妥当かと。」
「そんなに恥ずかしいかなー?千百合っち寝てる顔可愛いよ?可愛いんだから堂々としてても良いと思うんだけどー。」
「・・・・・」
可愛い。
から、良いじゃないか。
という発想は、紀伊梨が恋を分かってないから出て来るのだ。
「千百合ちゃんの寝顔はとってもお可愛らしいですけど。」
「うん?」
「でも、可愛いからとか可愛くないからとか、そういう意味で恥ずかしいと思うわけではないんですよ。」
「そーなの?じゃーなんで?」
「・・・幸村君だからです。」
勿論、基本的に他人に隙を見せるのが好かない千百合なので不愉快に感じる事は感じるだろう。
でもあそこまで恥ずかしがるのは、見られる相手が幸村だからだ。
「・・・好きな人だから?」
「ええ。」
「可愛くても駄目なの?」
「可愛かろうと可愛くなかろうと恥ずかしいんです。」
「どうしてー?」
「ううん、なんと言いましょうか・・・敢えて言葉で言うなら、自分と近くなるから、でしょうか。」
「近く・・・?」
「ええ。普段と違う姿を見られるという事は、より深く自分を知られる事になりますから。お互い距離が縮まるのは、嬉しい事ではありますけれど、同時に恥ずかしいものでもあるので。」
おまけにもしかしたら、その新しい自分の姿は相手のお気に召さないかもしれないというリスク付。
そんなの誰だって恥ずかしいし怖い。
「ふーん・・・」
そんなもんなんだろうか。
いや、紫希が嘘を吐いてる、とかそういうわけではないけど、でもやっぱりピンとこないまま、ちょっとだけ紀伊梨は足をぶらつかせた。