一方見守られているとは露知らないまま、紫希は丸井の髪を拭き続けていた。
「痛くありませんか・・・?」
「全然?もうちょっと遠慮しないで力入れてくれても良いぜ?」
「そうですか?ええと、このくらい?ですか?」
「お、良い感じ♪」
「ねーねー紫希ぴょん!もうちょっと経ったら代わってー!私もやりたーい!」
「え、お前は嫌。」
「なんでよー!」
「だってお前下手くそそうっていうか、やり慣れてなさそう。こういうのってお前、されるの専門じゃねえ?」
「まあね!」
そもそも、紀伊梨が紫希に甘えるのは、自分だと下手だからと言う面も大きい。
家でも母や姉に甘えっぱなしである。
「ほら見ろい。ぜってえ嫌。っつうか怖え。髪引っ張られそう。」
「しないよー!」
「時間かけた挙句拭けてなさそうだし。」
「それは頑張るよ!」
「却下!」
「えー!やりたいー!」
「他を当たって来いよ、ジャッカルとか。」
「桑ちゃん髪の毛無いじゃん?」
「まああいつ禿だからな。」
「禿てねえよ!」
タオルの下でくくくと笑う丸井は、勿論桑原がああいう髪型であるに過ぎない事は知っている。
「・・・よし。」
「終わった?サンキュ・・・」
「あ、お待ち下さい。拭き残しがあるかもしれないので。」
そう言って丸井の赤い髪を、紫希はそうっと方々撫でていく。
前髪。
つむじ。
サイドに襟足。
表面を触ったり、偶に髪を解したり。
「・・・・・・・」
「あり?ブンブンどったの?」
「いやちょっと・・・」
「ちょっと?」
「くすぐったい?みたいな?」
髪に神経なんか通ってない筈なのに、不思議にくすぐったい。
いや。今、紫希の指が自分の髪に絡んでるという事がくすぐったいのかもしれない。
「えー?こしょばいかなー?紀伊梨ちゃんそんな事思った事無いよー?」
「く、くすぐったいですか?ごめんなさい、もうすぐ終わりますから、」
元々髪の拭き残しのチェックの為に撫でているのだ。
だからそんなに時間のかかる事じゃない。
それは当然の事だけど、なんだかちょっと。
ちょっと、惜しいかな。
とか丸井が思った時。
「・・・・はー!」
紀伊梨が大仰に溜息を吐いた。
「全くもー!ほんとラッキーだなー、ブンブンは!」
「は?」
「今回は特別ですぞ!次も紀伊梨ちゃんがサービスしてあげるとは限らないんだかんねっ!」
「おい、何の話・・・ぶっ!」
丸井の顔面に、さっきまで使われていたバスタオルがぶつかる。
「紀伊梨ちゃん!?」
「紫希ぴょん、ブンブンの髪もっかい拭いてあげたら良いよ!」
「「え?」」
どうして、と聞く前に紀伊梨は走って行ってしまった。