Solicitation:Break time 1 - 5/7


「せめて一枚だけでも。」
「駄目だ。」
「懲りていないようですね、仁王君。」
「別にあれくらいはええじゃろ。丸井と春日の微笑ましい友達エピソードを撮るだけじゃ。」
「エピソードが微笑ましいからと言って、使い方が微笑ましいかと言うとそれは別だからねーーー」

「どーん!」

ど、と背中に衝撃がかかるも、幸村としてはもう慣れたもの。

「五十嵐、髪は乾いたかい?」
「うん!」
「紀伊梨、助けて・・・」
「何おー?あ!分かった足だー!なっちん、足痺れてるんでしょ!」
「分かってるんなら取り成してくれ!」
「え、やだ!」
「酷くない!?」
「黒崎君、ご自分が妹にした事と引き比べて本当に酷いと御思いですか?」
「俺がしたのは誤爆までなのに・・・!」

確かに脅しに使ったのは仁王だが、こんな事になるなんてーと言っても後の祭りである。
自分の行動には責任を持ちましょう。

「それはそれとして、五十嵐さんは何故急に此方へ?」
「あのねー、やなぎーの頭拭いてあげよーと思って!」
「柳の髪を?五十嵐がかい?」
「うん!あのね、紫希ぴょんにもブンブンの髪もっかい拭いてって言ってきたよ!」
「もう一回?」

もう一回髪なんか拭かせてどうしようというのだろうか。
皆が真意を測りかねたその時。

「ただいま。」

(((((((あ。)))))))

まだ全然髪の濡れた状態で帰って来た千百合を見て、全員が何かを察した。
なるほど。
それは良い考え。

「千百合っちお帰りー!」
「ん。あれ、あんた達まだ正座してたの、ふーん。・・・・・ふーん。」
「おい、足をじろじろ見るな!」

正座が終わったら蹴ってやろうという魂胆が見え隠れどころか見え見えである。
これはいかん格好の餌食・・・と思いつつ、この場合逃れる術がない事を棗は感じている。

「千百合、ちょっと良いかな。」
「ん?」
「此処に座って。」
「?良いけど。」

幸村相手だと基本素直な千百合は、言われるままに勧められた椅子に腰を下ろした。
幸村が自分に対して意地悪したり酷い事したり、そんな事する筈がないから大丈夫。
そういう信頼の上での行動だったのだが。

「借りるね。」
「あ、ちょっとそのタオル私のーーーちょっ!」

さっとタオルを取られたかと思えば、すぐさまそれは千百合の頭に被せられて一瞬前が見えなくなった。

「ちょっ、止め、止めろ!」
「いーじゃん千百合っちー。ゆっきーの楽しみを取り上げてはかわいそーですぞ!」
「何が可哀想か!」

この場で可哀想と言うのなら、皆から暖かい目で見られながら幸村に髪を拭かれている自分が一番可哀想ではないだろうか。
タオルで見えないけれど、幸村が上機嫌にしているのがなんとなく分かるから余計に恥ずかしい。

「ていうか、人の髪なんて拭いても楽しくないでしょ!」
「俺は楽しいよ?」
「それはあんただけ。」
「えー!そんな事無いよ、ほら紫希ぴょんだってあんなに楽しそう!」



「え!えと、あの、ええ、」
「ほらほら、楽しそうに楽しそうに♪」
「え、ど、どうし、どうしたら、」



「・・・楽しそう?」
「丸井は楽しそうだね。」
「良いじゃん良いじゃん!どっちにしろ楽しい事には変わりないんだしさ!だから千百合っちは、大人しく髪を拭いて貰うべきなんですよっ!」
「「だから」って何「だから」って、意味が分からな「あー!やなぎーと真田っちお帰りー!」おい!」
「まあまあ、黒崎さん。」

徐に間に入ってくる柳生。

「何よ。」
「黒崎君と仁王君は確かに性格に少々難がありますが・・・」
「酷い言われようじゃ。」
「少々?凄くの間違いでしょ?」
「我が妹はもっと酷かった件について。」
「まあ、その程度の差は兎も角、2人とも頭と言う点ではそれほど悪くはありません。故に、此処は大人しく甘えておいても、デメリットは無いと思われますよ?」

仁王も棗も馬鹿じゃない。
今此処で千百合を囃し立てたりしようものなら、折角直った幸村の機嫌が急速に悪化する。
それが分からないような2人じゃないから、逆説的に今は何をしてても煽られたり弄られたりはしないよ、という事だ。

というか、柳生的にも幸村の機嫌が安定しないのは怖い。
ゲームする上でどう転ぶか分からないから、なるべく上機嫌で居て欲しい。
そういう意味で仁王はどえらい事をしてくれたとつくづく思う。

「ほら、お前らも何時までも弄りたそうな目をしてないでさっさとシャワー行って来い。」
「桑原、代わりに撮っておいてくれんか?」
「するか!」
「まあそう言わんと。これからいつ役に立つか分からんぜよ。」
「だからその発想がもう駄目なんだよ!ほら、行った行った!」
「ちぇー。」
「真面目な奴じゃき。」
「お前らが不真面目過ぎるんだよ・・・」

というか、真面目とか不真面目とか以前に全然懲りてない。
今大人しくしていた方が色々得だからそうしているだけで、根本的な所で反省していない。

「やっぱり信用ならない。」
「それは否定しませんが、ああして退散した事ですし。先のゲームでは働いて頂きましたので、幸村君も黒崎さんも少しご休憩なさって下さい。」

少しご休憩とか言うが、今のこの状況でご休憩と言うと。
つまり。

「有難う柳生。気を使わせてすまない。」
「いえいえ、お2人には午後も奮闘して頂かなくてはいけませんので。」

あくまで損得を考えた結果ですよ、と紳士柳生は気を使わせない言い回しで去って行った。

「・・・彼奴は馬鹿なんじゃないの。」
「何故?」
「この状態のどこがリラックス出来るっていうの。」
「千百合はリラックス出来ない?」
「当たり前でしょ・・・」

この状況で平気の平左で居られるわけがない。
皆が移動して2人になっても、開き直ってべたべたとか出来ない。

「・・・ふふふっ。」
「何笑ってるのよ。」
「ごめんね、嬉しくて。」
「今の会話のどこに喜ぶ要素あった?」
「リラックス出来ないって事は、ドキドキしてくれてるんだろう?」
「・・・・・・・・」
「良かった。ドキドキしてるのは俺だけかと思ったよ。」

ああそうですよ。
ドキドキしてますよ何か文句がありますか、あるんですか、と内心で叫ぶけれど、恥ずかしくて口には出せない。
椅子に座って、後ろに幸村が居るという姿勢上、顔を正面から見られないのが唯一の救い。

しかも自分だけかと思ったとか、どの面下げて言ってるんだろうか。
絶対分かってて言ってる。
幸村がドキドキしてるのに自分がしてないなんて、そんな状況どうやったら出来ると言うのだろうか。

「・・・ねえもう良い?もう乾いたでしょ?」
「残念、まだ駄目だよ。」
「もう良い。」
「駄目。」
「良いってばもう、」
「ふふふっ。悪いけど、折角仁王も棗も居ないから。囃し立てられない今の間に、もう少しだけ。」
「もう少しの所、具体的に!」
「ううん、じゃあ2人がシャワーから帰ってきたら止めよう。それでどうかな?他の皆もこっちの事は放っておいてくれると思うし、真田は気にするかもしれないけれど・・・柳や五十嵐が目を引いておいてくれるさ。」

恥かしいとかそういう事は置いておいて、千百合が何を嫌がり何に喜ぶのか幸村は正確に把握している。
誰に見られるのが嫌なのか、何が気になってしまうのか、そういう事を分かった上で先回りするのが、千百合を甘やかす上でのコツである、というのが幸村の持論。

「だからもう少し、甘やかしても良いよね?」
「・・・・・・・」

タオルの端から覗く赤い耳が、うんと返事をしてくれている。
可愛い。

「・・・・」
「・・・ねえ、今何かした?」
「気の所為じゃないかな?」
「・・・そお?」

君の髪にキスをした。
と白状するのは、もう少し後にしよう。