友達の知らない一面って、困るよね。
長い付き合いであればある程、もう大概の顔は見たと思っていただけに、まだ知らない顔があったのかと吃驚するし。
しかもそれが自分じゃなくて他の人に向けられてると、じゃあ自分はどういう顔で接してたら良いんだろうとか考えてしまったりなんかしたりして、いやはや。
桑原からそんな目で見られて居るなんて全然知らない丸井は、未だ紫希に髪を拭かれている。
「・・・・・」
「丸井君?どうなさいました?」
「・・・いや。今なら周りに人居ねえなと思って。」
タオルの隙間からきょろ、と周囲を見ると、千百合と幸村から皆遠い方へと移動していったので、紫希と丸井を入れて丁度三角形な位置取りになっていた。
姿は簡単に見られるけれど、静寂なわけでもないし会話はちょっと聞けない。
そんな距離。
「・・・?そうですね、皆あっちに・・・あ、向こうに行きますか?賑やかな方が、」
「じゃなくてさ。秘密のお話が出来るじゃん?」
「秘密・・・・?」
丸井は後ろを振り返って、紫希と目が合うと悪戯っぽくニッと笑った。
「キーボードどうなんだ?順調?」
「あ!ああ、秘密ってそういう・・・」
「そ。秘密だろい?」
「ええ。」
確かにこれは、棗以外に聞かれると困る話。
例え幸村や真田達であっても、何かの事故で紀伊梨達に伝わってしまうとも限らないし。
「・・・そうですね、順調とは言い難いです。」
「あれ、マジ?」
「ええ。兎に角指がすぐ怠くなってしまって・・・筋力不足です。」
楽器と言う奴は、慣れない者がちゃんと弾こうとすると必ずどこかが辛くなる。
それは指だったり手だったり口だったり、場所は千差万別だが普段しない動きをひっきりなしにする事になるので、傷む事には変わりない。
「もっと練習したいんですけれど、如何せん指が言う事を聞かなくて・・・」
「ふーん・・・文化祭には出たいんだっけ?」
「ええ。私上がり症ですから、自信に繋げるために人より余計に練習しなくてはいけないんですけれど・・・自業自得なんですけれどね、今迄全然こういう事をやって来なかったので。」
そういう意味では今紫希は寧ろ自信が日に日に目減りしていっている。
もっと練習しないといけないのにと内心で焦るばかりで、体の方が全く言う事を聞かない為、余計なストレスを日々感じてしまって居るのだ。
今はまだ文化祭なんて先の事と思えているが、これが夏を過ぎて秋になって尚このままだと、練習不足という四文字がいよいよ紫希に重くのしかかってくる。
自分を良く知っている紫希はその一連の流れが容易に想像できてしまって、溜息を禁じ得ない。
「まあまあ、そんな焦るなよ?せかせかして良い事なんか何もねえんだから。」
「はい、そうですよね・・・」
「って言っても、焦るもんは焦っちまうんだよな。」
「それもそうなんですよね・・・!」
もう、正に丸井の言う通りだと思う。
気にしない方が良いと分かっているけれど、はいそうですかと無視できるならこんなに苦労しない。
紫希が思わず手を止めて、もうやだー・・・な顔をしていると、丸井はいつの間にか肩を震わせてクツクツ笑っていた。
「どうしました・・・?」
「変な顔♪」
「えっ、」
「もう嫌だ、うんざり、って顔してるぜ?」
「え、え、」
そんな顔してただろうか。
超恥ずかしいのだが。
「み、見ないで下さい、そんなみっともない顔・・・!」
「別にみっともなくはないけど?」
「でも笑ってました・・・」
「それはみっともないからじゃねえって。春日でも何かが嫌になる事ってあるんだなと思っただけだよ。」
紫希は困った顔をよくするが、反面何かに対して嫌な顔はあんまりしない。
だるいとか面倒とかもう嫌とか、そういう考えは気の長い紫希にはあまり生まれないのだ。
「あの、誤解の無いように言いますけれど、私別にキーボードが嫌なわけじゃ、」
「おう。うんざりしてるのは自分の指にだろい?」
「・・・・はい。」
バレてる・・・と思いながら思わずタオルを持つ自分の両手に目を落とした。
どうしてこんなに役立たずなんだろう。
棗に時間を割いて教えて貰って、丸井にやってみろと励まして貰って練習開始まで漕ぎつけた自分の思いつきは、やはり下手糞がただ空回るだけの結果に終わるのだろうか。
「・・・なあ、」
丸井が言いかけた時、ゴーーーン・・・・と時計から鐘の音が鳴った。
昼食の合図である。