Solicitation:3rd game 3 - 4/6


「はい、」
「おら!」
「はい、」
「とっ!」
「はい、」
「行けっ!」

紫希は取り敢えず手当たり次第にボールを拾っては投げる。
丸井はそれを下の檻に向かってガンガン打つ。

仁王の起死回生の一手はこれであった。
ボールが「手」として扱われるなら、要は味方のボールが当たればよろしい。
横の動きには皆強くても、上から縦に降ってくるのは防ぎ辛いに違いない。

とはいえ、良い事ばかりでもない。
此処は屋上故、ボールの補給は見込めない。
棗が此処を使う事を想定して幾らか置いてくれては居るが、それが全て無くなれば球切れである。

球数、有限。
おまけに時間も有限だ。

「今どれくらいだ!?」
「2分です!後8分あります!」

此処は貸し会場である。
だから幾らサバゲー会場である程度傷むのは想定内としても、不必要に破壊してはいけない。

今回のゲーム、もし泥棒側が立て篭もり籠城作戦に出た場合、警察と泥棒で部屋を壊すか持ち堪えるかの大戦争になり兼ねない。
それを見越して、ビードロズ側は予めルールを設けていた。

鬼に見つかっている状態で、扉を塞いで無理矢理鬼をシャットアウトする場合、持ち堪えて良いのは10分まで。
10分を過ぎたら、逃げるか隠れるか諦めて捕まるかいずれかを選ぶ事。

だから今、屋上への扉を塞いではあるがそれはルール上10分以上塞いではおけない。
10分経ったら鬼の幸村と柳が登ってくるから、それまでに紫希と丸井は下の3人を逃してしまわねばならないのだ。

「ええと、ああボールがもう無い・・・探してきます!」
「頼む!」

広くて高い屋上を、散らばってるボールを掻き集めている紫希の背中。
丸井は其処から目を下に移した。

(3人・・・柳生と、五十嵐に、黒崎・・・)

いずれもテニス部では無いが、3人も集められると流石に泥棒側に届きにくい。
さっきから打っても打ってもすんでの所で打ち飛ばされて、仲間迄届いていない。

(・・・落ち着け。しっかりしろい。俺は・・・)

位置取りは此方が高い。
圧倒的に有利。
おまけにあっちにはテニス部もいない。

球数有限、時間も有限で自分は今焦っている。
浮ついているのだ。

でもやらなくちゃ。
真田じゃないけれど、今この時間だけは誰が妨害してくるわけでもない。上手くいかないのは自分の所為なのだ。

焦っているのは自分の心。
だから自分をコントロール出来れば。

(きっと出来る)

目を走らせて位置確認。
一番手前に紀伊梨と真田。
中心辺りに桑原と柳生。
一番後方でボールに当たろうとしている仁王の隣に千百合が陣取る。

バスケットのような布陣。
泥棒にボールを触らせまいと警察側は泥棒に貼りつく。

バスケならスピードで振り落す事も出来よう。
でも、自分が此処から動く事は出来ない。

だから要求されるのはコントロール。
ボールの扱い、針の穴に糸を通すべく敵の警戒を掻い潜って味方にボールを通すのだ。

やる。
やらねば。

やれるさ。

(・・・俺は、天才だ。)

「丸井君!すみません、遅くなってしまって・・・」

紫希はボールを上着に集めて抱えて、丸井の足元に来るとその場にしゃがみ込んだ。
此処まで縁に近づくと、座り込んで両手と両足を床に付けていないと怖いのだ。

もう、其処のちょっとした段差を越えれば向こうには何もない。
落下。
目眩がしそう。

そう思って身が竦んでいる紫希に、今から自分は酷い事を言う。

「春日。」
「はい、」

「立って球出し出来ねえ?」

さっき2分やってみて、分かった事がある。
下から球出しされると、ボールの軌道的に非常にやりにくいのだ。

もう猶予がない。
クリティカルなショットを手早く打つには、紫希に立って球出しして貰わねばならない。

紫希は俯いた。

怖い。
とても怖い。
両手を床から離すのが怖い。

でも時間がない。
それに、ここに来て怖いだとかなんだとか言うのなら、そもそも足手まといが付いてくるべきではなかった。

やらなくちゃいけない。
そうでなければ、自分が此処にいる意味がない。

丸井は自分が高所を怖がっている事を知っている。
知っていて言ってるのだから、これは必要な事なのだ。

頑張れ。
頑張れば、きっと丸井が結果に繋げてくれる。

「・・・やれ、ます。」
「・・・本当に?」

「はい・・・やります、頑張り、ます・・・!」

よろりと立ち上がる紫希。
ああ怖い。
目線をこれ以上高くしてどうするつもりだと自分の恐怖心が叫んでる。

でもやる。
やりたい。
自分だってゲームに参加したいんだ。

(な、なるべく遠くを・・・真下を視界に入れるから駄目なんです、遠く遠くの方を・・・)

しかしつい気になって目がうろうろしてしまう。目線を彷徨わせていると、不意に右肩を掴まれた。

「丸井君・・・?」
「良いか春日、下は見るなよ?見なくても良いからな。」
「はい、でも気になってしまって・・・」
「目が行く?」
「はい・・・」
「・・・なら、こういうのはどうだ?俺は今から、幸村君にも負けねえようなコントロールで下の彼奴らを解放するからさ。」
「はい。」
「春日は、余裕の楽勝で活躍する俺を見てろよ。」
「え?」

一瞬此処が高所な事も忘れて丸井を見ると、丸井は何時もと同じ明るい笑顔で紫希を見ていた。

「前も言ったろい?勝つのは任せろって。」

そうだ。
言われた。
勝つのは任せろって。

あとそれからこうも言われたっけ。

「・・・かっこいい、所・・・」
「そ。見せてやるから。」

だからそれだけ見ててくれれば良い。
俯かないで。
下を見ないで、顔を上げて。

「俺を見てろい、春日。オッケー?」

紫希は小さく、でもしっかりと頷いた。

作戦再開だ。