そして入学の日。
ホグワーツでは、新入生かどうかに関係なく、学校へ向かう日は皆一緒である。
だから毎年駅のホームや列車内には、上級生と新入生がごた混ぜになって行き来する。
紀伊梨の友人で切原と面識のある者は、皆列車に乗り込みつつ、切原は居ないかとキョロキョロしていた。
見つけたら、とにかく紀伊梨に会わせて話を聞いてもらおう。
何かに怖がってたりうんざりしてるようだったら、できる限りの説明をして、ちょっとでも早く馴染んでもらおう。
そう思っていた。
紀伊梨本人は、ホームに居た。
切原を見つけるか、見つけたと知らせが来るまで、絶対列車に乗るまいと思っていた。
もしかしたら会った瞬間嫌な顔されるかもしれないが、それはもう甘んじて受け入れるしか無い。
まず謝らないといけない。
今度は絶対先輩として自分が戦うから、と言って信じてもらわなくては。
正直すでに泣きそうだが、というか泣いてしまって袖が既に濡れ気味だが、泣いてる場合じゃない。
どこにいるんだろう。
来ることは来ると思うから、と友人は皆言ってたが、来るだろうか。
ああ、嫌な知らせを待つこの時間って、本当に嫌。
「先輩!」
来た。
聞きたかった声。
後ろを振り向くとーーーこれも紀伊梨にしては珍しい話だがーーー両肩をガッと掴まれて、至近距離で目を見つめられて、思わずたじろいでしまった。
「切ーーー」
「先輩!大丈夫ですか!どっか怪我とかしてないっすか!」
「へ?」
「俺病院に運ばれたみたいなんすけど、知らない間に家帰らされてたんで、だーーーれも先輩が大丈夫だったか教えてくんないんっすよ!親は魔法界のことは知らないって言うし!誰にどうやって聞いたら良いのかもわかんねえし!もう一回あのーーーダイヤモンド横丁?でしたっけ?行こうとしても、親が危ないって止めて来るし!」
いかに自分がままならない時間を過ごしていたかを、めちゃくちゃ解説する切原。
それを見て、紀伊梨はポカンである。
「で!先輩は大丈夫なんすか?」
「ねえーーー」
「あ!髪の毛直ってんじゃん!?早くないっすか!?あ、魔法?魔法で直したんすか?はー、良かったー!」
「あのーーー」
「魔法って便利っすね!まああんだけ色んなことできるんだから、よく考えたら髪の毛ちょっと直すくらい、あ!もしかして毎日ヘアセットすんのも、魔法で楽になりますかーー」
「ねーーってばー!」
全力で叫んで肩で息を吐く紀伊梨に、周りは皆引いている。
あの紀伊梨に、ちょっと黙れと言うのではなく、ちょっと黙れと言わせる者がいようとは。
「・・・先輩?」
「・・・切原くん、怒ってないの?」
「へ?何がっすか?」
「こないだ怖い目に遭わせちゃったっしょ!」
「?あれは別に先輩のせいじゃないじゃないっすか?」
そう。
そもそもドラゴンを逃したのは、身も知らない全然関係ない誰かで、紀伊梨も切原も巻き添えを食っただけ。
「でも、紀伊梨ちゃん先輩だよ!先輩なんだから、新入生の切原くんを紀伊梨ちゃんが守ってあげないといけなかったんだよ!」
「はああ!?あんなんに先輩も後輩もないでしょ!」
「けど、」
「それに!俺は怪我なんか怖くねえっすけど、あんたが怪我すんのは嫌なんですよ!」
そう言って切原がひたと真剣な目で見つめてきた時、紀伊梨は何故か心臓が止まりそうな気がした。
ただ、その直後切原は、少し離れて見ていた紫希と丸井を見て、そっちに行ってしまったけど。
「あ、先輩!こないだは、ありがとーございました!先輩に勧められた花火とかえーと?お守りグッズ?みてーなの、すげえ役に立ったんっすよ!」
「い、いえ・・・切原くん、元気、ですね・・・?良かったです・・・」
「へ?はい!俺元気ですよ?」
「五十嵐がさ。お前がこないだのこと怖がって、もう入学辞めんじゃねえか、って心配してたんだぜい?」
「え”!?なんでっすか、それとこれと別でしょお!?」
「いえ、普通は怖がります・・・」
「紀伊梨ちゃんっ!」
ポン、と肩を叩かれて、紀伊梨が振り向くと可憐と忍足が笑って立っていた。
「良かったねっ!」
「良かった?」
「入学に前向きみたいやし、もう嫌やみたいなことも思うてへんみたいやし。」
「・・・・・」
「ねっ!」
そう言われて、初めてじわじわと実感が湧いてきた。
そうだ。
切原は楽しそうにしているんだ。
やった。
「・・・切原くーーーん!」
「どわあっ!?な、何!?何すか!?」
「やったやったー!一緒に学校行けるねー!」
「だから、最初からそうなんですって!」
きゃあきゃあ楽しそうに騒ぐ紀伊梨と切原を見て、千百合は小さく笑いつつため息を吐いた。
「結局から騒ぎしただけだったじゃん。大袈裟な。」
「ふふ。まあ、あながち大袈裟とも言えないというか、大変なのはここからだけどね。」
「え?何が?」
「五十嵐さんを彼女にしたがってた生徒は多い、ってことさ。」
「ああ・・・まあ。」
「それに、彼は彼でドラゴン相手に立ち回った件が、新聞に載ってるしね。結構目をつけてる女子が居ると思うよ。」
「え、そっちも?」
ひょっとして、ホグワーツにはとんでもないトラブルメーカーが増えたのかもしれない。
千百合はひっそりそう思いながら、未だにきゃあきゃあ騒ぐ2人に、早く乗れと声をかけた。