朝起きて。
学校に行ってテニスして。
授業を受けてテニスして。
家に帰って眠って、また次の朝を迎える。
この日もそうなると切原赤也は勝手に思っていた。
こういう風に表現すると何の面白みもない平々凡々な毎日のようだが、別にそういうわけじゃない。いろいろあるし、全力で打ち込んでる。主にテニスのことで。
逆に言うと他のこと(勉学含む)は割と適当なのだが、それで良いと切原は思っていた。
それで不自由はないし、満足している。
テニスだけで十分毎日は刺激的だから、これ以上の刺激は別に特別必要だと思わない。
そう思っていた。
「あ!ねえ切原、コンビニ行って良い?」
「あ?」
「『lemon』の発売日なの!一瞬だけ!一瞬だけだから!」
「はあ・・・はいはい。」
クラスメイトの女子に腕を引っ張られて、放課後のコンビニに行く切原はだるい顔を隠そうともしない。
そもそも彼は、女子から「2人で帰ろう」と誘われることに対して何にも感じない。感じないというか、裏にある他意に気づかない。そうかもしれない、とかちらりとでも思わない。人並みに思春期ではあっても、人並み以上に彼は鈍いのだった。
涼しい店内に入ると、連れの女の子は雑誌コーナーに一目散。
「えーっと・・・あ、あったー!ねえほら見て見て!超可愛いよ紀伊梨ちゃん!」
「はいはい。」
「ねえ見てよってばー。可愛くないの?」
彼女が指し示す雑誌の表紙には、今をときめくバンドグループ「ビードロズ」がでかでかと載っている。そのセンターに居るのが、リーダーにしてギターボーカルの美少女、五十嵐紀伊梨だが。
「あんまり興味ねえなー、女のアイドルなんて。」
ぴくり。
と、連れの彼女の、そのまた向こうの人物が肩を揺らしたことに切原は気づかなかった。
「えー、あんた変。」
「可愛くねえとは言わねえけど、そもそも芸能人にきゃーきゃー言う趣味はねえんだよ。あ、ジャンプあんじゃん!」
「はーあ、結局漫画かあ。」
はーあ、なんて言いつつ、彼女は内心では嬉しかったりしている。
実際美少女アイドルに熱を上げられても不愉快だし。
「じゃあ買ってくるから待っといてよ!」
「へいへい。」
レジに駆けて行く彼女を、切原は店の外で待つことにした。
その姿を、雑誌コーナーに居た一人の人間が、帽子で顔を隠しながらじっとうかがっていた。