5周年記念企画:First date - 3/7


じゃあね、といって分かれ道で分かれ。
午後16時、切原は帰路についていた。

今日はミーティングだけだったから早く上がれる。だからこそ帰ろうと誘われたのだが(普段は18時過ぎまで部活なのでそれどころじゃない)、早く帰っても暇と言えば暇。勉強とかだるいし。

(先輩はこんな日こそ勉強しろとかって言うけどなー、めんどくせえし・・・ん?)

足音が聞こえる。
走ってこっちにくる。

誰か急いでる人でも後方に、と思って切原が振り向いたちょうどその時だった。

「かくほー---!」
「うぐっ!うわあっ!」

腰に遠慮のないタックルをかまされて、切原は尻もちをついた。

「あてて・・・・おい!誰だよてめー--」
「捕まえたー!ね!ね!お願い聞いてお願い!」
「・・・・・・」
「お願い、いっしょーのお願い!他の人に頼めないんだよう、ね!ね!」

切原が二の句を継げなかったのは、自分の上に乗っている女の子の顔が、今さっきコンビニの雑誌の表紙にのっかっていたそれと同じだったからである。

大きな目。
白い肌。
小さい顔。

ビードロズの五十嵐紀伊梨だった。






「・・・・デート?」
「そう!」

近所の公園ー---といっても小さいし、利用者のちびっ子はもう帰宅していて無人だがー--のベンチに腰を下ろして、切原と紀伊梨は並んでいた。

紀伊梨は今度、新曲を出すらしかった。そのテーマが、全然振り向いてくれない男の子と猛アプローチをかける女の子らしい。

「でも紀伊梨ちゃんそんな気持ちになったことないし、だからべんきょーしなくちゃいけないんだけど、相手に良い人居なくってさー。」
「いや、嘘だろ!そんなんさあ、アイドルなんだからちょっと声かけたら皆立候補して、」
「りっこーほされたら困るのー!紀伊梨ちゃんに興味ない人じゃなきゃ駄目なんだから!」
「ああ・・・そりゃそっかあ?」

確かにその理屈で言うと、すんなり「良いですよ」と言える人から順に不適格になっていくわけだ。なんか矛盾してるようだけど。

「実はさー、さっき紀伊梨ちゃんコンビニに居たんだけどー。」
「へー?コンビニに・・・って!あんた後つけて来たのかよ!」
「だって、チャンスだと思ったんだもーん!」
「チャンス?」
「紀伊梨ちゃんに興味ないーって言ってたから!」
「う・・・」

確かに言った。言ったけど。

「紀伊梨ちゃんに興味ないでしょ?」
「うう・・・」
「好きじゃないでしょ?」
「いや・・・う・・・」
「全然可愛くないっしょ?」
「そこまでは言ってねえよ!」
「良いじゃんかー!そーゆーことにしといてー!」
「どーゆーことだよ!」

自分を可愛くないということにしておけ、とアイドルから要求されるなんて思ってもみなかった。

というか。

(雑誌とかテレビとかそういうのはともかく・・・流石にアイドルってやつか?すげえ可愛いじゃん・・・)

実際に目の前に美少女アイドルをぽんと置かれた状態で、思春期の男子高校生に興味持つなという要求はいかにも難しい。

難しいから今悩んでると言っても良いのだが。

「ねー!」
「わあ!」

急に目の前に紀伊梨のアップが現れて、切原はのけぞった。

「なんだよ!」
「デートはー?」
「え?あ・・・・」
「良いの?だめ?」

良いか。
だめか。

「・・・因みに。」
「ほい!」
「俺が駄目っつったら、あんたどうするんすか?」
「他に紀伊梨ちゃんに興味なさそうな人探すかなー。」

つまり、代わりを探すと。
そう言われると急速に面白くなくなるのが、切原の負けず嫌い精神の強いところであり。
男の子なところでもあり。

「・・・・わかった!わかりましたよ、デートすりゃあ良いんでしょ!」
「やあったー!ありがとー!」
「ぐ!」

正面から飛びつかれて、若干後ろに倒れそうになった。
なんとか踏ん張るが、切原赤也17才。未だかつて女の子にこんな風に抱き着かれたことなんてなく。

うろたえる気持ちと、本能的に役得を感じる気持ちとであっという間にパニックになり、何をどのようにすれば良いのかもよくわからない。

「ちょ、ちょっと・・・」
「・・・・・・」
「わかりましたってばあ!だからもうちょい離れて、」
「だめだよそんなんじゃー!」
「へ?」
「もっとこう、べりっ!ってひっぺがして!ぽーいってして、やめろこのおたんこなすー!みたいなこと言ってくれなくっちゃ!」
「・・・・ああ・・・そっか、そういうアレだったっけ・・・」

そうは言ってもだな。
いや、そうは言ってもとか言ってたら、お役御免になるんだっけ。

「ううう・・・ええいちくしょー!俺から離れろ!」
「あー、良い感じー!紀伊梨ちゃんも負けないよー、待ってー!」
「え、あ・・・じゃない!待たねえ!」

(けっこー難しくねえか!?っつーか、こんなんで良いのかよほんとーに!)

こうして、午後4時からの短いデートは幕を開けた。
5周年記念企画:First date

本当の本当に突き放してしまうとデートにならないため、切原は隣やや後方に紀伊梨を連れた状態で歩き出した。

「・・・んで、どこ行くんすか?言っとくけど、俺デートとかあんましたことないんで、よくわかんねえっすよ?」
「うーん、切原君行きたいとこないのー?」
「俺?」
「だって、紀伊梨ちゃんの行きたいとこに付き合ってくれたら台無しじゃん!」
「あー・・・」

女の子の行きたい所に付き合ったら台無しになるデートってどんなんだろう。
つくづくやりにくい。

「んー・・・じゃあ、ゲーセンとか?」
「あ!良い・・・あ!だ、だめ!だめだめ!」
「なんでですか!俺の行きたいとこで良いんでしょ!?」
「紀伊梨ちゃんもゲーセン好きだもん!でも紀伊梨ちゃんの行きたいとこはだめなの!」
「~~~~~~~!」

切原赤也。彼は気が短い。
少なくとも今まで生きてきて、気が長いと言われたことは一度もない。

そんな気の短さが、切原に紀伊梨の手を取らせた。

「へ?」
「行きます!」
「えー!ちょっと待って、駄目って言ったじゃんー--」
「あんたの都合なんか知るか!俺のしたいようにしろって言うんだったら、俺の行きたいところに付き合ってくださいよ!ほら、来る!早く!急いで急いで!」
「あーん、待って待ってー!」






今をときめくアイドルの手を思いきり引っ張ってしまった。
という気持ちは、ゲーセンに到着して生まれたと同時に「いやでもしょうがないじゃん」という気持ちと打ち消し合いを始めた。

「はあ・・・・」
「わー!ゲーセン楽しみだなー、久しぶりー!」
「・・・あんま来ないんすか?」
「好きなんだけどー、あんま最近は来れないなーって。」
「ああそっか、忙しいっすもんねアイ・・・おおっとと!」

いかんいかん。すぐつるっと言いそうになってしまう。

「あー、マリオカートあるー!ねーやろー!」
「良いっすねー--あ、う・・・えー・・・しょ、しょうがねえから、付き合ってやる・・・?」
「あー、いい感じー!ありがと切原君!」

(いい感じかあ?)

とてもそうは思えないのだが。というか、自分は嫌だ。

引き受けたのは確かに自分だが、意に沿わない態度や発言を取り続けることがこんなにしんどいなんて。

「ひっさしぶりー!切原君やったことあるー?」
「へへん!実は結構得意っすよ!」
「おー!じゃあじゃあ、勝ったら・・・・あ、やっぱ良い、や・・・」
「?何すか?」
「勝ったらアイス奢りね、って言おうと思ったんだけどー・・・でもやっぱなしね!紀伊梨ちゃんが勝っても、紀伊梨ちゃんを好きじゃない男の子は、多分アイスなんて勝ってくれないし!」
「・・・・・・・」
「それにほら!今日は紀伊梨ちゃんに付き合ってもらってるから、お金は全部ー--」
「勝ったらアイスっすね!」
「へ?」
「良いじゃないっすか別にそれで!そっちのが面白いんだから、そうしたら良いんっすよ!じゃあ決まり!勝ったらアイス!でも金あんまりないんで、自販機のアイスで勘弁してください!」
「でもー--」
「ほらもう!座って!料金入れて!コース選んじゃいますよ、良いんっすね?」
「よ、良くない良くない!紀伊梨ちゃん得意なコースちゃんとあるからー!」